厚生労働省は、社会保障審議会介護保険部会の第136回会議の議事録を公表した。会議は令和8年9月18日午後2時から4時まで東京都内で開かれ、介護サービスを使ったときの自己負担が2割になる「一定以上所得」の判断基準と、65歳以上が納める第1号保険料の設定方法という、負担に直接かかわる2つの議題を続けて取り上げた。
議事録によると、野口部会長は議論の最後に「法律改正後の第1号保険料の在り方と持続可能性の確保のキックオフミーティング」と述べ、この回が今後の制度見直しの入り口であることを確認した。資料2によると、2026年7月21日に閣議決定された骨太方針2026では、2割負担の判断基準の見直しについて2026年度中に結論を得ることとされている。昨年末の部会意見では、第10期介護保険事業計画期間、つまり令和9年度の開始前までに結論を得るとされた。
2割負担の線は「年金収入280万円」 下げ幅の選択肢は230万円まで
介護保険のサービス利用時の自己負担は原則1割だが、所得が一定以上の人は2割、さらに高い人は3割になる。資料2に示された現行の基準は、2割が「合計所得金額160万円以上」かつ「年金収入とその他の合計所得金額が280万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合は346万円以上)」、3割が「合計所得金額220万円以上」かつ「年金収入とその他の合計所得金額が340万円以上(単身世帯の場合。夫婦世帯の場合は463万円以上)」である。
| 自己負担 | 合計所得金額 | 年金収入+その他合計所得金額(単身) | 同(夫婦世帯) |
|---|---|---|---|
| 1割 | ― | 280万円未満 | ― |
| 2割 | 160万円以上 | 280万円以上 | 346万円以上 |
| 3割 | 220万円以上 | 340万円以上 | 463万円以上 |
見直しの方向は、この「280万円」の線を下げて2割負担の人を増やすことである。資料2によると、昨年末までの部会では、基準を機械的に下げる選択肢として、年金収入とその他の合計所得金額で260万円から230万円まで(夫婦世帯は326万円から296万円まで)が示された。これは65歳以上の被保険者の上位約25%から約30%に相当する範囲で、財政への影響や対象世帯への影響の資料をもとに議論が行われた。
数字の背景には制度の膨張がある。資料1は、制度創設から25年でサービス利用者が創設時の3.5倍を超え、介護費用の総額は約4.0倍の14.3兆円(令和7年度予算ベース)になったと説明している。介護サービスの費用、2025年度は12兆2208億円で4年続けて増加 利用者は685万1600人 1人あたり月額は鳥取23万3600円、埼玉19万6900円で示したとおり、実際に支払われた給付の額も増え続けている。
急な負担増をどう和らげるか 月7000円の上限と預貯金での線引き
基準を下げれば、これまでより収入の低い人が2割負担になる。資料2は、医療と比べて利用が長期にわたり一定の費用がかかり続ける介護の特徴を踏まえた配慮が必要だとして、2つの選択肢を併せて検討してきた経緯を記している。
1つ目は、当分の間、新たに負担が増える人の増加額に月7000円の上限を設ける案である。資料2は、1か月分を1割負担で使った場合と比べた負担増が最大で月2万2200円になるとし、その約3分の1に当たる月7000円に抑えると説明している。後期高齢者医療制度に2割負担を導入したときにも、同様に負担増加額の上限が設けられた。
2つ目は、預貯金などが一定額以下の人は申請によって1割負担に戻す案である。同じ収入階級でも預貯金の額には幅があるという実態を踏まえたもので、部会では単身700万円・夫婦1700万円以下、単身500万円・夫婦1500万円以下、単身300万円・夫婦1300万円以下の3つのパターンが提示された。
この配慮措置に対し、認知症の人と家族の会の和田委員は会議で具体的な問いを投げた。月7000円という上限について「当分の間では、本人、家族が将来を見通せません」と期間の明示を求め、新たに2割負担になる人にとって年間8万4000円の負担が耐えられるのかを尋ねた。預貯金要件についても、設定ラインに近い人がどのくらいの期間、介護のある暮らしを維持できるのかを示すよう求めた。これに対し野﨑介護保険計画課長は、家計収支の試算についてデータの更新があるため「この部会でまた改めて今後の議論の中で提示できるものは提示させていただきたい」と答えた。
「倍になっても暮らせるのか」 利用者側と経済界で分かれた
議論は立場によってはっきり分かれた。拡大を急ぐよう求めたのは経済界と医療保険の側である。鳥潟委員は現役世代の保険料負担が限界を迎えていると述べ、「特に利用者負担が2割となる対象範囲の拡大を含め、よりスピード感を持って制度の見直しを進めていただく必要がある」と主張した。日本商工会議所の藤田委員も、骨太方針2026で2割負担の判断基準の見直しについて本年度中に結論を得る旨が明記されていると指摘し、商工会議所としての基本的な考え方を述べた。
慎重論は利用者団体と労働組合から出た。和田委員は「これまでより所得の低い人たちが2割負担、いわゆる利用料が倍になっても、介護サービスを利用しながら生活を成り立たせることができるのか、我々は確信が持てません」と述べ、預貯金を取り崩しながら暮らしを維持できるという試算がなければ納得できないとした。あわせて、厚労省が示した試算が単身と夫婦の2つの世帯パターンに限られている点を問題視し、未婚の子と同居する世帯や二世代・三世代世帯のデータも示すよう求めた。
連合の平山委員は「連合としては、利用者負担は1割を基本とすべきであり、一定所得以上の判断基準を引き下げ、2割負担の対象を拡大することには慎重であるべき」と明言した。理由として、2割・3割負担の導入がサービス利用や要介護状態にどう影響したかの検証が足りないこと、医療保険でも高額療養費制度やOTC類似薬の負担見直しが進むなかで、介護だけを切り離して負担能力を判断すべきではないことを挙げた。日本介護福祉士会の今村委員も、負担が増えれば必要なサービスの利用控えが起き、生活機能の低下や重度化につながる面があると述べた。
事業者団体からは検証方法への指摘が出た。全国老人保健施設協会の瀬口委員は、資料に示された2割・3割負担導入後のサービス利用への影響が「いずれも導入後5か月以内の状況」にとどまると述べ、中長期の利用や要介護度の変化まで含めた検証が必要だと求めた。同じ発言では、低所得者の施設利用料を補う補足給付について、全老健の調査では老健施設の入居者の約5割から6割が受給しており、世帯分離によって対象となっているケースも見受けられると述べ、対象者のあり方の見直しを提起した。
保険料は創設時の2.1倍 「高齢者の中だけの再配分には限界」
もう1つの議題である第1号保険料も、負担の重さが論点になった。資料1によると、65歳以上が納める第1号保険料の基準額の全国平均は、制度創設時の第1期の月2911円から、第9期(令和6〜8年度)には月6225円になった。40〜64歳の第2号保険料の1人当たり平均月額も、平成12年度の2075円から令和7年度には6202円(見込み)に増える。市町村は介護保険給付費の約23%に相当する額を第1号被保険者に保険料として課しており、負担能力に応じて第9期は標準13段階に分けている。
介護保険料の全国平均(月額)(円)
1号保険料2号保険料
数値で見る(単位: 円)
| 項目 | 1号保険料 | 2号保険料 |
|---|---|---|
| 創設時 | 2,911 | 2,075 |
| 直近 | 6,225 | 6,202 |
事務局が示した論点は、当面の第10期について、高所得者の標準乗率の見直しと、課税化に伴う上昇の緩和を含めた国の定める標準段階の見直しにより、応能負担を強めることである。公的年金の支給額が上がって住民税が非課税から課税に変わると保険料の上がり幅が大きくなる問題が国会で指摘されてきたことを、その理由として挙げた。保険料の段階方式そのものの組み替えは、市町村システムへの負荷や調整交付金制度との連動といった課題があるため、中長期の検討課題だとした。介護保険の仕組み全体は要介護・要支援の認定は721万人、65歳以上の19.7% 介護保険の仕組みを数字で押さえる 総費用14.3兆円は保険料と公費が半分ずつ、自己負担は原則1割にまとめている。
この方向に正面から反対する委員はいなかったが、効果の限界を指摘する声が相次いだ。全国老人福祉施設協議会の山田委員は、標準段階について13段階が76%、14段階以上が24%であり、最上位段階の基準額に対する乗率が2.4を超える保険者が20%あるとして、その背景にある特性の把握が必要だと述べた。瀬口委員は、高所得者の乗率を引き上げても対象者が限られるため保険料収入への効果は限定的であり、課税化に伴う上昇の緩和は逆に収入を減らす方向に働くとして、「第1号被保険者の中での負担調整だけでは今後見込まれる保険料の上昇に対応していくことには限界がある」と指摘した。
民間介護事業推進委員会の山際委員も、保険料が創設時の2911円から第9期の6225円まで上がった事実を挙げ、人材確保や処遇改善を考えれば「保険料上昇を65歳以上の高齢者の中だけで再配分することには限界がある」と述べた。健康保険組合連合会の田河参考人は、応能負担を強める方向に異論はないとした上で、さらなる公費投入や第2号保険料の在り方を含む負担構造の見直しを検討すべきだと主張した。日本慢性期医療協会の橋本委員は、保険料が上がり続けることについて、例えば1万5000円といった上限を設定するかどうかを定める必要があるのではないかと問題提起した。
自治体の側からは実務上の注文が出た。全国町村会の山名委員(兵庫県神河町長)は、金融所得や金融資産を保険料や窓口負担に反映するなら、確認作業や問合せ対応、システム改修で町村の事務負担が大きくなると懸念を示した。全国市長会の逢坂委員(大東市長)は、公費で措置されてきた低所得者軽減分の維持を前提とし、第13段階の高所得者層が少ない保険者の財政運営に支障が出ないよう配慮を求めた。低所得者軽減に充てられる公費は、令和6年度予算で国費595億円である。
結論は2026年度中 第10期に向けて報告事項も並ぶ
今後の日程は二重に区切られている。骨太方針で2割負担の判断基準の見直しは2026年度中に結論を得るとされ、昨年末の部会意見では第10期介護保険事業計画期間の開始、すなわち令和9年度の前までに結論を得るとされた。金融所得を保険料や窓口負担に反映する話は、後期高齢者医療制度での対応状況も踏まえ、将来的な導入について引き続き検討する扱いである。
低所得者の施設利用料を補う補足給付については、昨年末におおむね意見の一致を得ている。区分の見直しを伴わない第3段階②の負担限度額の見直しは令和8年8月に実施済みで、第3段階①と②の区分の見直しと上位区分への負担限度額の上乗せは第10期に実施するとされた。具体的な内容は追って部会に報告される。
この回の報告事項には、制度を支える仕組みの進み具合も並んだ。令和8年4月に稼働を始めた介護情報基盤は、令和10年度からの本格運用開始を目指して準備が進む。介護給付の適正化では、令和6年度にすべての保険者が医療情報との突合・縦覧点検に取り組み、要介護認定の適正化、ケアプラン等の点検を含む主要3事業のすべてに95%以上の保険者が取り組んでいた。適正化計画は令和6〜8年度が第6期で、次の第7期は令和9〜11年度となる。
委員からは制度の枠そのものを問う意見も出た。平山委員は、連合がこれまでも介護保険を18歳以上の医療保険加入者を対象とし、年齢や理由にかかわらず必要な人が利用できる仕組みとすることを求めてきたと述べ、「介護保険制度の普遍化について検討を進めるべき」だと主張した。負担をどこまで誰に求めるかという議論は、2026年度中の結論に向けて続くことになる。
