農林水産省は2026年10月6日、令和7(2025)年度に農薬の使用に伴って起きた事故と被害の状況を公表した。人に対する中毒事故は16件で、公表されている過去5年のうち最も少なかった。一方で被害を受けた人は36人に上り、前年度の18人から2倍に増えた。うち2人が死亡している。

この調査は、農薬の使用で起きた中毒事故や農作物の被害の実態をつかみ、再発防止の指導につなげるために、農水省が厚生労働省と連携して毎年度行っているものである。今回は2025年4月から2026年3月までに発生した分を対象に、全都道府県へ情報提供を依頼してまとめた。自殺・他殺は集計に含めていない。

件数は5年で最少、人数は前年度の2倍

人に対する事故の件数は、令和3年度が19件、令和4年度が18件、令和5年度が20件、令和6年度が17件で、令和7年度の16件が最も少ない。ところが被害者数は、令和3年度27人、令和4年度33人、令和5年度53人、令和6年度18人と動いた末に、令和7年度は36人となった。

件数が減って人数が増えたのは、1件で大勢が巻き込まれる形の事故が目立ったためである。原因別で見ると、「被覆が不十分であった等、農薬使用後の作業管理の不良」は3件にとどまるが、被害者は16人で全体の4割を超える。1件あたり5人を超える計算になる。周囲へ農薬が漏れ、作業者本人だけでなく近隣の住民や通りかかった人まで巻き込むためだ。

逆に減ったのは誤飲誤食である。「保管管理不良等による誤飲誤食」は令和5年度の9件から令和6年度5件、令和7年度3件へと下がった。件数が最も多かったのは「マスク、メガネ、服装等の装備が不十分」の5件(5人)で、こちらは5年のうち最多だった。

死亡2人、ハウス内の作業と高齢者の誤飲

死亡した2人の状況は、添付資料に記されている。1人は2025年7月、密閉されたビニールハウスの中で被覆をせずに土壌くん蒸剤を使った40〜59歳の作業者である。農水省の資料は「熱中症の可能性もあり、死亡と農薬との因果関係は不明」と付記している。この1件では、状況を確認しようとハウスに立ち入った成人4人も目や喉、鼻の痛みを訴えた。

もう1人は2025年12月、農薬を誤飲した80歳以上の人で、資料には「認知症の方が農薬を誤飲」とある。農作業の現場ではなく、保管されていた農薬が生活の場で口に入った事故だった。

土壌くん蒸剤クロルピクリン、周囲への漏れが相次ぐ

令和7年度の人身事故で繰り返し登場するのが、土壌くん蒸剤のクロルピクリンである。農水省の資料はこれを「劇薬」と記す。土の消毒に使う薬剤で、気体になって広がる性質があるため、処理した後は直ちにビニールなどで覆い、ガスを閉じ込める必要がある。この被覆が破れていたり、そもそも行われていなかったことが、被害者数の多い事故につながった。

2025年5月には、周囲をほ場に囲まれたすり鉢状の立地にある住宅で、近くのほ場の土壌消毒に使われた薬剤が被覆の破れから漏れ、0〜19歳の3人を含む8人がせきや目の痛み、息苦しさを訴えた。9月にも被覆を行わなかった事例で近隣住民3人が目の痛みや涙、鼻水などの症状を出している。農作物の被害でも、5月に隣接するほ場へ揮散した成分が流れ込み、ほうれんそうやばれいしょ、おおばの葉が白くなった2件が記録された。

農水省は消費・安全局を通じて農産物の安全に関する調査を重ねており、9月には国産農畜水産物37品目からのPFAS摂取量、耐容量の1%未満 農水省調査 高濃度の土壌でも野菜への移行は限定的という結果も公表している。農薬事故の調査は、そうした成分の残留ではなく、使う現場での扱いを毎年追いかけるものである。

ドローン散布の飛散が4件に関わる

散布にドローンを使った事故も目立った。2025年5月、周囲の確認が不十分な状態でほ場の外周にドローンで散布したところ、解体作業中の民家の方向へ飛散し、外にいた作業員1人が体調を崩した。7月には防除作業中に付近の工場の従業員が窓を開けて作業を見学し、4人が目の充血や湿疹を訴えた。

農作物では7月、登録された濃度より高い除草剤をドローンで散布し、その水田の稲が褐変・枯死したうえ、隣接する水田でも生育不良が出た。物件への被害はこの5年で初めて1件記録されたが、これも8月に防除業者が道路に面したほ場でドローン散布を行い、走行中の自動車に農薬がかかって塗装が汚れたものである。

農作物などへの被害は全体で9件(農作物9件、家畜・蚕は0件)で、令和5年度の26件から大きく減った。魚類の被害は令和3・4年度が各5件、令和6年度が4件だったのに対し、令和7年度は0件で、この5年で初めてゼロになった。

再発防止策8項目に「ペットボトルに決して移し替えない」

農水省は今回の結果を踏まえ、重要な取り組みとして8項目を挙げた。農薬保管庫に施錠して保管すること、農薬やその希釈液・残渣を他の空容器に移し替えず、特にペットボトルやガラス瓶といった飲料品の空容器には「決して移し替えない」こと、調製・散布の際は農薬用マスクや保護メガネを適切に着用すること、風向きに注意して強風時の散布を控えること、飛散の少ない剤型や飛散低減ノズルを使うこと、散布を事前に周辺住民や関係者へ周知すること、土壌くん蒸剤を使った際は適切な材質や厚さの資材で直ちに被覆し、気温が高い場合は朝夕の涼しい時間帯に処理すること、不要になった農薬は廃棄物処理業者に依頼して適切に処理することである。

これらの多くは農業者向けだが、保管と移し替えに関する項目は家庭の物置や庭で農薬を扱う人にも当てはまる。令和7年度に誤飲で亡くなった高齢者の事例や、2025年6月に雑木林の造成作業中に土中へ埋められていたクロルピクリン入りのガラス瓶を壊し、揮散した薬剤で作業員5人が目や喉に刺激を受けた事例は、農業の現場ではない場所で起きている。

農水省は都道府県に調査結果を送り、事故と被害を防ぐための指導を徹底するよう依頼した。「農薬危害防止運動」などの機会を活用して適正使用を進めるとしており、令和8年度分以降も調査を続ける。