安全保障関連の三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)の年内改定に向けた政府の「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」は10月27日、首相官邸で第5回会合を開いた。防衛省と経済産業省は、防衛産業への出資や製造施設の保有、装備品の海外移転の支援を一体で担う「防衛産業強化のための法人」の新設を検討すると説明した。財務省は、国債の利払費が令和9年度概算要求で16.6兆円と過去最大になったことなどを示し、防衛力の強化に当たって平時の経済・金融・財政の基盤を弱めないよう求めた。

防衛省も「産業政策のプレーヤー」に 新法人の設立を検討

会合は27日午後3時から4時半まで官邸2階大ホールで開かれ、議事は「安全保障と経済財政について」と「国民の理解増進に向けて」の2つだった。配付資料は、防衛省・経産省の「防衛と経済の好循環」(国家安全保障局と連名)と、財務省の「安全保障と経済財政について」の2点。29日時点で、内閣官房のページに第5回の議事要旨は掲載されていない。

防衛省・経産省の資料は、「経済力・技術力が防衛力に直結する」との認識を示し、副題で「防衛省も、経産省と連携して、『産業政策のプレーヤー』に」と掲げた。AI(人工知能)、無人機、宇宙、サイバーといった「新しい戦い方」への対応で重視する分野は、政府の危機管理投資・成長投資の戦略分野と重なると整理している。

そのうえで「これまでにない大胆な施策を立案・執行できる新しい体制の構築」として、防衛産業強化のための新法人の設立を検討すると明記した。防衛省や新法人が、産業政策の担い手であると同時に、大口の買い手を指す「アンカーテナント」となり、経産省と連携して「産業の入口から出口まで」支援するとしている。

新法人は、伝統的な防衛産業に加え、中小製造業、スタートアップ(新興企業)、大学、金融機関などを結ぶ「防衛産業エコシステム」の中核(ハブ)と位置づけられた。法人の出融資で民間金融を誘い込む「呼び水」の役割や、企業が防衛分野に参入する際の評判上の懸念(レピュテーションリスク)を和らげる役割も挙げている。

出資・工場保有・装備移転 業務の例を列挙

資料は新法人を「国の関与を担保した法人」とし、国内生産基盤の強化、防衛装備移転の推進、防衛イノベーションの促進の3つの施策を一体的に行うと説明した。業務の例(イメージ)として挙げたのは次の通り。

分野 業務の例(資料の記載)
国内生産基盤の強化 有事の増産や新規参入のための設備等の導入支援、法人による製造施設等の取得・保有(GOCO)、防衛産業再編のための出資
防衛装備移転の推進 移転先の開拓支援、移転装備品の仕様調整支援(装備移転円滑化基金で実施中)、官が正面に立つ移転(契約手続、監督・検査等)、ファイナンスやオフセットを含むパッケージ支援に向けた案件形成
防衛イノベーションの促進 研究開発の促進(日本版UARC=大学付置研究センターの整備、防衛版ムーンショット、防衛省版SBIR制度、民間企業向け研究開発支援など)、スタートアップやベンチャーキャピタルへの出資
「防衛産業強化のための法人」に担わせる主な業務(イメージ)出典: 防衛省・経済産業省・国家安全保障局「防衛と経済の好循環」(令和8年10月)

GOCOについて資料は「法人による製造施設等の取得・保有」と説明している。また、平時から民生品の生産や装備品の移転に使い、有事には装備品の増産に回せる「予備生産能力」を構築するとしている。

資料には、防衛産業基盤の「目指すべき姿」を改定前後で比べた図も載った。持続的な対応能力については、サプライヤーの撤退防止を中心とした「マイナス(縮小)からゼロ(現状回復)へ」の段階から、「ゼロ(現状回復)からプラス(拡大)へ」移るとした。装備移転は、これまでの「移転は例外(余力があれば移転)」から「移転が前提」の開発・生産体制へ改め、同盟国・同志国でも生産・維持整備ができる体制を目指すとしている。開発も「長期・直線的・逐次型」から「短期・複線的・跳躍型」を強めるとした。

財務省、金利上昇と利払費の増加を示す

財務省の資料は、現行の三文書を策定した2022年以降の変化として、安全保障環境に加えて経済財政の環境も変わったと説明した。日本国債の10年物の金利は3%を超え、約30年ぶりの水準になったとしている。普通国債の残高は1000兆円を超え、金利が上がれば利払費が増えると指摘した。

利払費は、令和8年度当初予算の13.0兆円(予算の積算に用いた金利3.0%)に対し、令和9年度概算要求では16.6兆円(要求の金利3.8%)となった。前年度当初予算より3.6兆円多く、過去最大だとしている。

そのうえで資料は、有事には財政需要の拡大や外貨の流出、物価・金利の上昇が起き、戦略物資や生活必需品の調達に支障が生じるおそれがあると説明した。「経済・金融・財政の基盤の維持は、我が国の持続的な対応能力そのもの」とし、有事の財政需要に備えて平時の基盤を弱めないことが必要だとした。

例として、世界銀行の統計をもとに、2021年度から2024年度にかけてロシアの国防費が2.8倍、ウクライナは13.9倍になったことを示した。2022年の現行の国家安全保障戦略も、有事の財政需要に対応するには「国際的な市場の信認を維持し、必要な資金を調達する財政余力が極めて重要」としており、資料はこの部分を抜き出して載せた。

国内の生産基盤については、民生品(COTS)の活用を進め、平時は民間製品をつくりながら有事には装備品を大量に生産できる「防民共用の生産基盤」が重要だとした。経団連の提言を引き、日本の防衛装備移転の案件の約8割が自衛隊の装備品の修理等にとどまり、完成品の移転は極めて限られていると紹介している。

安保関連経費は11兆円程度へ 現行計画の財源は「国債に頼らず」

現行の国家安全保障戦略は、2027年度に防衛力の抜本的強化とそれを補完する取り組みの予算水準を、当時の国内総生産(GDP)の2%に達するよう求めている。財務省の資料によると、この水準は2025年度に当初予算と補正予算を合わせて前倒しで達成した。

2027年度の安全保障に関連する経費は11兆円程度とする計画で、内訳は防衛力整備計画の対象経費8.9兆円、研究開発・公共インフラ整備・サイバー安全保障・国際協力のいわゆる補完4経費1.0兆円、海上保安庁やPKO(国連平和維持活動)など0.9兆円、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)・米軍再編関係0.2兆円となっている。

防衛力整備計画(中期防)の対象経費(当初予算)(億円)

025,00050,00075,000100,00051,78822年度66,00123年度77,24924年度84,74825年度88,09326年度
2022年度の5兆1788億円から、2026年度は8兆8093億円になった。2027年度は8.9兆円程度を見込む出典: 財務省「安全保障と経済財政について」(総合的な国力から安全保障を考える有識者会議 第5回、令和8年10月27日)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
22年度51,788
23年度66,001
24年度77,249
25年度84,748
26年度88,093

防衛力整備計画の対象経費は、令和4年度(2022年度)の5.2兆円から令和9年度には8.9兆円程度へ約3.7兆円増える。財務省は、この増額分の財源を「歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入、税制措置により国債に頼ることなく賄っている」と説明した。資料の図では、令和9年度の内訳を歳出改革1兆円強、決算剰余金の活用0.7兆円程度、防衛力強化資金0.9兆円程度、税制措置1兆円強と示している。

資料は、2022年11月の前身の有識者会議(国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議)の報告書も抜き出した。報告書は、財源確保ではまず歳出改革を優先すべきだとし、「国債発行が前提となることがあってはならない」と記している。

これまでの防衛費の動きは、令和9年度の防衛費概算要求は8兆8432億円 今年度予算の8兆9843億円を1411億円下回る 三文書の改定待ちで「事項要求」に積み残しや、防衛装備品の取得価格、3年で5〜7割上昇 哨戒艦は1隻89億円から143億円に 計画の為替前提は1ドル108円、今年7月は157〜163円台で伝えた。

年内の三文書改定へ 財源の確保と説明が論点

高市首相は2月20日の施政方針演説で、三文書を「本年中に」前倒しで改定すると表明した。財務省の資料が引いた「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針、令和8年7月21日)は、5年以内に防衛力の変革を実現するとしたうえで、「必要不可欠な経費を積み上げて『防衛力整備計画』を作成し、その実現に向けた財源の確保と併せて、国民に対して丁寧に説明する」としている。

首相は10月5日の所信表明演説で、国・地方の債務残高の対GDP比を安定的に引き下げる目標を「中核に位置付け」、基礎的財政収支(プライマリーバランス)は単年度ではなく複数年度で管理すると述べた。財務省の資料はこの部分も載せている。

今回の会合では、防衛省・経産省が新たな法人による出資や工場保有という歳出を伴う仕組みを示し、財務省は金利上昇の下での財政基盤の維持を求めた。新法人の規模や財源、法人の形態は資料には書かれていない。三文書の改定では、防衛力整備計画の経費の積み上げと、その財源をどう確保するかが論点となる。