環境省は10月30日、ドローンやカメラ、アプリなどの技術を使って市街地でのクマ対策を試す「令和8年度市街地等におけるクマ対策に係る技術導入実証事業」の参加団体10件を決めたと発表した。9月8日から10月7日まで公募し、56件の応募があった。事業規模は1件あたり1000万円程度で、技術がクマ対策として有効かどうかを実際の地域で検証する。

実証地は北海道の当別町・斜里町・標津町、青森市、岩手県盛岡市、秋田市、宮城県富谷市、福島県下郷町・会津坂下町・湯川村、栃木県那須町、京都府南丹市で、1道1府6県に及ぶ。10件のうち6件はプロジェクト名にドローンを掲げる。

56件から10件 「技術と実証地域のセット」で募集

公募の対象は、企業、研究機関、地方公共団体と、これらで作る協議会など。地方公共団体と調整や連携ができているなど、具体的な実施地域が見込まれている案件に限った。環境省の概要資料は、企業などが技術と実証地域をセットで提案し、事業の実施と効果の検証を経て、クマ被害対策の「技術導入」を促す流れを示している。

想定する対策は2つの区分に分かれる。1つは市街地などにクマが出たときの対策で、監視・パトロール、警告・アラート、追跡、避難誘導、追い払い、不動化・捕獲などを挙げる。もう1つは市街地などへの出没を抑える対策で、監視・パトロール、追い払い、管理捕獲、ゾーニング管理計画の策定、誘引物の管理、やぶなどの隠れ場所や移動経路の把握と対策を挙げる。

審査では4つの観点で評価した。(ア)事業の有効性では、市街地などのクマ対策への貢献や期待される効果の大きさに加え、効果に対して事業費が妥当かをみた。(イ)継続性・発展性・波及性では、実証の終了後もビジネスとして成り立ち、取り組みが続く見込みがあるか、他の地域へ広げられるかを問うた。このほか(ウ)新規性・先進性と、(エ)具体性・実現可能性を評価した。(エ)では、地方公共団体と連携しているか、成果目標や効果検証の方法が具体的に書かれているか、環境省と連絡調整できる体制があるかなどを確かめた。

ドローンが6件、AIカメラが4件 四足歩行ロボットも

選ばれた10件の事業者と実証地、プロジェクト名に掲げた主な技術は次の通り。

事業者 実証地(連携する地方公共団体) 主な技術・内容
秋田県立大学木材高度加工研究所 秋田県秋田市 アプリ・AIカメラによる予防的な環境管理と、リアルタイムの遭遇回避
インターリージョン 北海道当別町 「スマートベアガードシステム」。森林放牧のバイオセンシングと3Dデジタルツインで市街地への侵入阻止と広域ゾーニング
NTT東日本 北海道斜里町 ヒグマ出没対応の人的負担を減らすデータ分析・ドローン活用
NTTドコモビジネス 青森県青森市 「次世代クマ対策ソリューション」。先手の対策と人・クマのすみ分け
SOARREC 岩手県盛岡市 赤外線ドローンによる早期発見・継続追跡・侵入経路の可視化(盛岡モデル)
ダイトク 福島県下郷町、北海道標津町 熊判別AIカメラ「Bear-AI」による本州・北海道2地域での出没の早期検知
TOPPAN 福島県会津坂下町・湯川村 ドローンの「遠隔シェアード」基盤とシステム連携・即時共有による緊急監視・警報
富谷市農作物有害鳥獣対策協議会 宮城県富谷市 AI監視カメラ・ドローンによる早期発見・追跡・対応
パーソルビジネスプロセスデザイン 栃木県那須町 四足歩行ロボット・AIカメラ・ドローンによる早期検知と追い払い誘導、共生型ゾーニング
Fujitaka 京都府南丹市 明治国際医療大学を舞台に、AI×Dock型ドローンでクマの接近を監視し施設の安全行動と連携
技術導入実証事業に選ばれた10件出典: 環境省「令和8年度市街地等におけるクマ対策に係る技術導入実証事業の概要及び参加団体一覧」(2026年10月30日)

プロジェクト名にドローンを含むのはNTT東日本、SOARREC、TOPPAN、富谷市の協議会、パーソルビジネスプロセスデザイン、Fujitakaの6件。AIを使うカメラは秋田県立大学木材高度加工研究所、ダイトク、富谷市の協議会、パーソルビジネスプロセスデザインの4件が掲げる。四足歩行ロボットを使うのはパーソルビジネスプロセスデザインの1件だけだった。

内容をみると、クマを早く見つけて追跡し、住民や関係者へ知らせる「出没時の対策」が多い。インターリージョンやパーソルビジネスプロセスデザインのように、ゾーニング(人の生活圏とクマの生息域を分けて管理する区域設定)まで踏み込み、出没を抑える側の対策を組み込む案件もある。ダイトクは福島県下郷町と北海道標津町の2地域で同じAIカメラを試し、本州と北海道の両方で使えるかを確かめる。

人身被害は令和7年度に238人 今年度も9月までに68人

事業の背景には、人の生活圏へのクマの出没と人身被害が続いていることがある。環境省の集計では、クマによる人身被害の被害者数は令和4年度の75人から、令和5年度に219人へ増えた。令和6年度は85人に減ったが、令和7年度は速報値で238人となり、うち死亡は13人だった。令和8年度も4月から9月までの速報値で64件、68人が被害に遭い、6人が亡くなっている。

クマによる人身被害の被害者数(年度別)(人)

010020030075R4年度219R5年度85R6年度238R7年度68R8年度
令和8年度は4〜9月の6か月分。被害者数には死亡者数を含む出典: 環境省「クマの人身被害件数」(令和4〜8年度。令和7・8年度は速報値)
数値で見る(単位: 人)
項目人
R4年度75
R5年度219
R6年度85
R7年度238
R8年度68

令和7年度は10月だけで被害者が89人、死亡が7人に上った。令和5年度も10月の被害者が73人で、年度の中で最も多い月だった。被害者が200人を超えた2つの年度は、いずれも10月に被害が集中した。

市街地に出たクマへの対応では、銃を使う場面も増えている。環境省が把握する事例をまとめた資料(10月29日更新)によると、令和8年度に緊急銃猟で発砲まで至った事例は38件あった。対象はツキノワグマが34件、ヒグマが2件、イノシシが2件。4月8日の福島県郡山市から10月27日の福井県小浜市・奈良県宇陀市まで、場所は北海道から広島県、東京都八王子市にまで及ぶ。

「クマ被害対策ロードマップ」の技術導入 人員と資機材にも目標

政府は令和8年3月27日、「クマ被害対策等に関する関係閣僚会議」で「クマ被害対策ロードマップ」を決めた。2030年度までに、関係省庁が都道府県や市町村と連携してクマ被害対策を体系的に進めるための工程表で、「人とクマのすみわけを実現し、国民の命と暮らしを守る」ことを目指す将来像に掲げる。柱は①出没時の緊急対応、②人の生活圏への出没防止、③個体数管理の強化、④人材育成・確保、⑤クマの生息環境の保全・整備などで構成する。

技術の導入はこのロードマップの複数の箇所に盛り込まれている。「ICT機器等を活用した対策支援」として、わなの見回りの負担を減らすICT機器の活用や、ICTやドローンなど最新技術を使った出没情報の収集・提供を支援するとした。財政措置などの項目でも、ICTやドローンなどを使った被害対策や捕獲方法の技術開発を支援するとしている。

環境省は報道発表で、自然環境局に「市街地クマ出没対策チーム(通称:アーバンベア対策チーム)」を設け、①人の生活圏へのクマ出没に備えた安全対策の強化と、②クマ被害対策技術の導入促進に取り組むと説明した。今回の実証事業は②を進めるための事業と位置づけている。

ロードマップは人員と資機材にも2030年度の目標を置いた。クマの捕獲作業などに従事する自治体職員は2500人で現在の約3倍、はこわなは1万基で約2倍、クマ撃退スプレーは2万本で約3倍とする。令和8年2〜3月にクマが生息する37都道府県へ照会した結果では、はこわなは5527基、クマ撃退スプレーは7093本だった。

人手の不足を技術で補えるか 試されるのは「続けられる仕組み」

ロードマップが掲げる職員数の目標は現在の約3倍で、自治体が捕獲や見回りに充てられる人員を短期間で増やすのは容易ではない。カメラやドローンでクマを見つけ、通知や追跡を自動化できれば、限られた職員や猟友会の負担を減らせる可能性がある。今回の実証は、その効果を実際の市街地や集落で確かめる事業になる。

一方で、審査の観点に、実証の終了後も「ビジネスとして確立できる蓋然性が高い」かどうかが入っている点は見落とせない。1件1000万円程度の実証で機器を置いても、終了後に費用を負担する自治体が維持できなければ、対策は続かない。環境省は事業の目的を「有効性等の検証」としており、どの技術がどれだけ見回りの負担を減らし、出没の発見を早めたのかを数字で示せるかが問われる。

令和5年度と7年度は、10月が最も被害の多い月だった。10件の実証が今季の出没にどこまで間に合うかは発表資料に記載がない。成果の取りまとめと公表の時期、他地域へ広げる際の支援の形が、次に確かめるべき点になる。