会計検査院は10月7日、海上自衛隊の艦船の定期検査などに伴う修繕工事の契約で、予定価格の積算に計上する損害保険料の計算単位が割高になっていたとして、防衛省が改善の処置を執ったと公表した。契約ごとに計算していた21隻・621件分の保険料の積算額計2億2844万円余りは、艦船ごとにまとめて計算すると計1億3391万円余りとなり、307件で約9450万円を低減できたと認められた。
まとめて計算するほど安くなる保険料
対象になったのは「船舶修繕者賠償責任保険」(修賠保険)の保険料である。海上自衛隊の艦船は、安全性などを確かめるためおおむね3年から5年に一度の定期検査と、年次検査を受ける。この検査工事や要修理箇所の修理工事、装備品の追加設置を請け負うのは民間の造船会社で、作業員の過失などで艦船に損害を与えて国に対する損害賠償責任を負った場合に備え、造船会社は造船工場ごとに損害保険会社とこの保険の契約を結んでいる。
保険料は、契約時に修繕工事費の概算額に基づく暫定額を払い、保険期間が終わった後に実績額で精算する。この精算では、造船会社が保険契約ごとに一定の単位で修繕工事費を合算して保険会社に通知した額が「算出基礎額」となり、これに保険料率を掛けて計算する。検査院によると、この保険料は算出基礎額が大きくなるほど算出基礎額1円当たりの保険料が安くなる仕組みになっている。しかも、造船会社がどの単位で修繕工事費を合算するかについて特段の定めはない。
防衛省側の積算は、定期検査等が特殊な仕様で市場価格が存在しないため、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)などに基づく原価計算方式で行われる。その際、各地方総監部等は造船会社から参考見積書を取り、そこに書かれた算定方法を参考に保険料を計算して直接経費に計上していた。つまり、保険料をどの単位で計算するかは、事実上、造船会社の見積り方に委ねられていた。
同じ総監部の中で2つの計算方法が混在
検査院は2022年度から2024年度(令和4〜6年度)に完了した艦船のうち、契約金額の合計が10億円以上で保険料を直接経費に計上していた39隻を選び、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各地方総監部と大湊地区総監部が結んだ契約計1408件、契約金額計1459億2198万円余り(積算額計1462億1953万円余り、うち保険料の積算額計3億3270万円余り)を調べた。相手方は川崎重工業、ジャパン マリンユナイテッド、三菱重工業、函館どつく、三菱重工マリタイムシステムズ、三菱造船の6社である。
その結果、18隻(契約787件、保険料の積算額計1億425万円余り)では、積算時点までのその艦船のすべての契約の修繕工事費を合計した額を算出基礎額とする「艦船単位方式」が使われていた。一方、21隻(契約621件、同計2億2844万円余り)では、当初契約とその変更契約を一つの単位とする「契約単位方式」だった。契約単位方式を使っていたのは横須賀、呉両地方総監部と大湊地区総監部で、同じ総監部の中で二つの方式が混在していた。1回の定期検査では修繕の必要が生じるたびに複数の契約が結ばれるため、艦船単位でまとめた方が算出基礎額は大きくなり、保険料は安くなる。
防衛装備の調達では、装備品そのものの値上がりが続いている(防衛装備品の取得価格、3年で5〜7割上昇 哨戒艦は1隻89億円から143億円に 計画の為替前提は1ドル108円、今年7月は157〜163円台)。今回指摘されたのは装備品の値段ではなく、すでに結んでいる修繕契約の積算で「どの範囲を一つと数えるか」という手続き上の単位だった。
「造船会社が不利益を被る」――検査院が確かめると全社が可能と回答
3総監部は、造船会社の精算方法などの取引実態を考慮せずに一方的に艦船単位方式を適用すると、造船会社が不利益を被り、修繕工事の契約が締結できなくなるおそれがあるとして、艦船単位方式の適用について十分な検討を行っていなかった。海上幕僚監部も、この懸念が払拭されない限り一律に適用することは難しいとしていた。
そこで検査院が、契約単位方式だった21隻の契約相手方である造船会社のすべてに艦船単位方式を適用できるか確認したところ、各社は、実際の精算は契約単位方式で行っているものの、保険会社と協議した結果、艦船単位方式に改めることに特段の支障はなく可能だと確認できたと答えた。検査院は、より経済的な艦船単位方式を適用していなかった事態は適切ではないと判断し、原因は3総監部で適用の可否の検討が十分でなかったこと、海上幕僚監部で適用に向けた検討が十分でなかったことにあると認めた。相手がどう答えるかを確かめずに「できない」と判断していた結果、3年間で約9450万円の積算が過大になっていたことになる。
2026年6月に通知、艦船単位に統一
指摘を受けて海上幕僚監部は2026年6月、5つの地方総監部等に通知を発し、原則として同月以降に開始される定期検査等について、艦船単位ですべての契約の修繕工事費を合計した金額を算出基礎額とする艦船単位方式を適用することとした。
この検査結果は、検査院が今後作成する令和7年度決算検査報告に「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として掲記される。検査院は同じ区分で、刑務所や拘置所の警備システム更新契約で諸経費が二重に計上されていた事例も公表しており(刑務所・拘置所の警備システム更新、予定価格に諸経費を二重計上 5施設8件で積算額2億2008万円余りを8019万円余りに修正でき、1億3980万円を低減 会計検査院の指摘で法務省が改善)、いずれも予定価格の積算方法そのものが問われたものである。防衛費が増えていくなかで、契約の単位の取り方という細部に数千万円規模の差が生まれていたことは、積算の手順を省庁横断で点検する必要を示している。
