公明党は、政府が臨時国会に提出した飲食料品の消費税率を1%に下げる法案の対案として、2年間で国民1人当たり約8万円を給付する案を掲げている。政府案と同じ約10兆円を使うなら、減税よりも給付の方が早く確実に家計に届くという主張だ。一方、政府は減税と「就業者負担軽減支援金」の準備のため、法案の提出前の9月29日に予備費1118億6831万5千円の使用を閣議決定した。給付と減税のどちらにも、事務とシステムの費用がかかる。公表資料に残る金額を並べ、両案の費用の中身を整理する。
公明党の対案 「2年間限定の減税は非効率」
公明新聞によると、公明党政務調査会(中野洋昌会長)は10月15日、参院議員会館で全体会議を開き、政府提出の消費税減税関連法案の対案として国民への「給付」を提案していく方針を決めた。中野政調会長は会議で、政府案ではレジ改修に加え、農林漁業者や外食産業への影響など事業者の負担が大きく、それを支えるための追加的な支出も必要になるため非効率だと指摘した。減税分のすべてが小売価格に反映されるとは限らないこと、2年後に税率が戻る「大増税」が家計に深刻な影響を与えることも理由に挙げた。
そのうえで、政府案と同じ約10兆円を使う場合の一案として、2年間で1人当たり約8万円の給付を示した。約10兆円という所要額は公明党の見方で、政府の法案概要には減収額の見込みは書かれていない。岡本三成代表は13日夜のBSフジの番組で、「10兆円で仮に一律給付をすれば、国民全員に1人8万円を受け取ってもらえる。4人家族では32万円になる」と述べた。減税の開始が来年4月であることも問題視し、コロナ禍でドイツが付加価値税を下げた際に、恩恵が消費者まで回らなかったという調査もあったと語った。対案の経緯は公明、食料品減税法案の対案に「1人約8万円の給付」 岡本代表「このままでは賛成できない」にまとめている。
政府案の準備費 レジ改修支援に781億円
政府の法案は、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を地方消費税と合わせて1%にする。あわせて、中低所得の勤労者に所得に応じて支給する就業者負担軽減支援金を設ける。政府案も減税だけでなく、支援金という給付を組み込んだ制度だ。支援金の支給に要する費用は3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市区町村が半分ずつ負担する。法案概要は、国が支給事務の効率化のためのシステム整備、広報、相談窓口の整備を行うと定めている。
準備の費用は、法案提出前に予備費で手当てされた。9月29日の閣議決定によると、内訳は次のとおりだ。
| 所管 | 経費の名目 | 金額 |
|---|---|---|
| 経済産業省 | 消費税率の臨時的な引下げの円滑な実施 | 781億1390万4千円 |
| 内閣府 | 支援金制度の円滑な実施 | 271億9648万8千円 |
| デジタル庁 | 支援金制度の円滑な実施 | 50億2726万5千円 |
| 内閣府 | 減税と支援金の政府広報 | 9億8437万2千円 |
| 財務省 | 支援金制度の円滑な実施 | 5億4628万6千円 |
| 計 | 1118億6831万5千円 |
出典: 財務省「令和8年度一般会計予備費使用(令和8年9月29日 閣議決定)」
経済産業省と中小企業庁が10月9日の関係府省庁連絡会議に出した資料では、予備費による追加予算は「デジタル化・AI導入補助金」に充て、中小企業のスマートレジ導入に加えて「レジシステム改修」も支援の対象に加えた。同じ資料は、システムメーカーの見解として、レジと基幹システムの改修には制度の詳細公表から5〜6か月程度かかるとしている。支援金の側では、内閣官房の資料が、自治体のシステム改修などの事務費補助金、広報、コールセンターの設置に予備費272億円、国の情報システムの改修に50億円を使うと説明している。会議の詳細は食料品1%と支援金、13府省庁の連絡会議が初会合 レジ改修は詳細公表から5〜6か月で扱った。
これらは準備段階の費用で、制度が動き出した後の事務費の総額は、法案概要にも大綱にも金額が示されていない。9月15日に閣議決定した大綱は、支援金の事務費やシステム改修の経費を制度導入時に全額国費で賄うとしている。
給付の事務費 2020年の10万円給付では約1459億円
一律給付の前例は、2020年の特別定額給付金(1人10万円)がある。総務省の令和2年度第1次補正予算の概要では、この給付金の予算は12兆8802億9千万円だった。各目明細書によると、市町村などへの給付事業費補助金が12兆7344億1390万円、地方公共団体への事務費補助金が1378億5121万7千円、総務省の庁費が80億2572万8千円(うち雑役務費が80億1120万2千円)、職員旅費が198万5千円となっている。
給付そのもの以外の費用を足し合わせると約1458億8千万円で、予算総額の約1.1%に当たる。この数字は予算段階のもので、実際に使われた事務費の実績は今回確認できていない。公明党の約8万円案は対象を全国民とする点で特別定額給付金と同じ形だが、党は事務費の見積もりを示していない。
一方、減税でも給付による補いが必要になった例がある。2024年に実施した定額減税では、内閣府の公表資料によると、政府は2023年12月22日に「地域の実情に応じた低所得者支援及び定額減税を補足する給付に必要な経費」として予備費1兆1311億円の使用を決めた。2023年度決算の時点で、このうち支出済みが592億円、翌年度への繰越が1兆710億円、不用が7億円だった。減税だけでは恩恵が届かない人に向けて、給付を組み合わせた。
政府の過去の説明と衆院の審議
政府はかつて、消費税の減税そのものに慎重な見解を示していた。2025年11月7日の答弁書によると、加藤勝信財務相(当時)は同年6月13日の閣議後記者会見で、消費税の減税は高所得者や高額消費も含めて負担が軽くなるため、低所得者支援としては「効率性が乏しい」と述べた。全国の事業者でレジシステムの改修や新たな値段設定の検討が必要になり、「相当の準備期間が必要」とも説明した。現金給付については、政策目的によって制度設計が異なるため一概に言えないとしたうえで、目的との関係や「必要な期間やコストなど」を整理する必要があると述べていた。
政府はその後、税率を0%ではなく1%とし、支援金と組み合わせる形で法案をまとめた。経済産業省の資料は、1%であれば0%特有の影響調査や改修が要らず、準備期間を短くできるというシステムメーカーの見解を載せている。
法案は10月20日に衆院財務金融委員会に付託され、審議に入っている。公明党は法案に支援金の対象者と額が書かれていないことも問題にしており、岡本代表は「このままでは賛成できない」と述べた。公明新聞によると、中野政調会長は記者団に、対案の意義について「選択肢として、何があり得るのかということを国民の皆さまにも分かりやすく提起したい」と語った。
集めて配り直す給付 上乗せの1100億円は誰が持つのか
給付は、国民から集めた税金を、自治体の窓口と振込の手続きを通して配り直す仕組みである。2020年の特別定額給付金では、給付そのもの以外に予算総額の約1.1%、約1459億円を事務に充てた。公明党の約8万円案の総額約10兆円に同じ割合を当てはめると、事務の費用は約1100億円になる。党は見積もりを示していないが、全国民に配る形が同じである以上、1000億円を超える費用が上乗せになると考えなければならない。
家計の負担を軽くするのが目的なら、初めから取らなければよい。所得税や住民税を引き下げれば、勤め先の源泉徴収や住民税の特別徴収という既にある仕組みのまま負担が減り、全国民に向けた新しい振込の事務は要らない。2024年の定額減税のように、減税しきれない人への補いは要るが、その対象は減税しきれない人に限られる。全員から集めて全員に配り直す一律給付とは、事務の量が違う。
消費税の引き下げも安上がりではない。政府案は準備の段階でレジ改修の支援などに781億円の予備費を使い、そこへ支援金という給付まで重ねている。減税と給付の二つの事務を抱える形だ。公明党はこの非効率を指摘した。しかし対案として示したのは、もう一つの事務を丸ごと抱える一律給付だった。非効率を正す案になっていない。
1000億円を超える上乗せは、総額の1%程度であっても納税者の負担である。言い出した公明党は、この費用を誰が持つのかに答えるべきだ。党が持つわけではない以上、集めて配り直す二度手間をあえて選ぶ理由が、給付の事務を請け負う側や、そこにつながる支持層への配慮以外にあるのかも問われる。政党が支持層を持つこと自体は悪いことではない。ただ、それは納税者の金で事務を積み増す理由にはならない。
要らない事務に公金を回せば、その分だけ財政の余力が減り、国の力を削る。公明党は衆院財務金融委員会の審議までに対案の事務費の見積もりを示し、所得税・住民税の減税より安く家計に届くのかを数字で説明すべきだ。政府も、減税と支援金を合わせた事務費の総額と2年間の減収額の見込みを、同じ委員会で示すべきである。
