ANAホールディングス(HD)は10月29日、北海道を地盤とするAIRDOと、九州・沖縄を地盤とするソラシドエアを傘下に置く持株会社「リージョナルプラスウイングス」(RPW、東京都大田区)を、株式交換によって完全子会社にする基本合意書を結んだと発表した。同日の取締役会で決議した。株式交換の効力発生は2027年4月1日を予定する。ANAHDはいまRPWの株式の15.32%を持つ主要株主で、実現すれば出資比率は100%になる。国土交通省が5月29日、大手航空会社による中堅航空会社への出資の規制を廃止しており、ANAHDはこの変化を踏まえて判断したと説明している。

株式交換は27年4月 比率は12月下旬までに決める

ANAHDの適時開示によると、株式交換はANAHDを完全親会社、RPWを完全子会社とする方式で行う。RPWの株主は保有するRPW株と引き換えにANAHD株を受け取ることになる。どれだけのANAHD株を割り当てるかを示す株式交換比率は、ANAHDの市場株価や第三者算定機関による株式価値の算定結果などを踏まえ、契約締結までに両社が協議して決める。いまの時点では決まっていない。

日程は、2026年12月下旬に株式交換契約を結び、2027年2月下旬にRPWの臨時株主総会と種類株主総会で契約の承認を受け、4月1日に効力を発生させる計画だ。ANAHD側は、会社法第796条第2項に基づく簡易株式交換の手続きを使い、自社の株主総会の承認を得ずに実施する予定としている。ANAHD株の上場廃止の見込みはない。

今回の基本合意書は、独占交渉義務や秘密保持義務などの一部を除いて法的な拘束力を持たない。株式交換の実施は、契約の締結、両社の機関決定、競争法などで必要な手続きの完了が前提になる。開示は「現時点で本株式交換契約の締結及び本株式交換の実施が決定されているものではありません」と明記した。

ANAHDは業績への影響について、基本合意書の締結による影響は軽微で、効力発生が2027年4月のため今期の業績への影響も軽微と見込む。2028年3月期以降の連結業績への影響は精査中としている。

規制廃止を受けた動き 5月に意向表明

背景には国の政策の転換がある。国交省は2025年5月に立ち上げた「国内航空のあり方に関する有識者会議」の報告書を2026年5月29日に公表した。同日付で、大手航空会社による「特定既存航空会社」への出資に関する規制を、航空局長通達の改正によって廃止した。報告書によると、特定既存航空会社は、2000年の航空法改正による規制緩和とその後の育成策のもとで参入した「新規航空会社」の現在の呼び方だ。ANAHDの開示はAIRDOとソラシドエアをこれに当たるとしている。

報告書によると、国は新規参入の航空会社を育てるため、2011年まで羽田空港の発着枠を優先的に配分してきた。その趣旨を損なわないよう、大手からの出資の上限を実質的に20%までに規制してきたという。報告書は、この規制が航空会社間の協業やM&A(合併・買収)を含む経営判断の自由度を制限していると指摘し、優先配分の終了から約15年がたったことも踏まえて廃止が適当と結論づけた。国内線の収支は2024年度に実質的に赤字に転落し、国内専業の航空会社は厳しい経営状況にあるとも記している。

ANAHDの開示によると、同社は規制廃止に先立つ2026年5月25日、RPWに完全子会社化の意向表明書を出した。開示は、両社が独立した事業主体である現状では、競争上の機微な情報の共有や、路線・ダイヤ・販売戦略を一体で決めることに制約があり、経営資源を効率的に使えない状況だったと説明している。需要面ではオンライン会議の普及によるビジネス需要の減少、人手不足、人口減少を、費用面では機材の調達や部品・整備の費用の高騰を挙げた。

報告書は、規制の廃止後に大手航空会社の出資比率が20%を超える場合などには、競争とネットワーク維持の観点から、その会社が持つ羽田発着枠の10%を超えない範囲で回収し、出資の拡大に関わらない特定既存航空会社だけに再配分するべきだとしている。ANAHDの開示は、羽田発着枠の扱いには触れていない。

ブランドは当面維持 ANAへの統合も視野

RPWは2022年10月3日に設立され、AIRDOとソラシドエアを完全子会社に持つ。開示によると、AIRDOは北海道発着路線を中心に「北海道の翼」、ソラシドエアは九州・沖縄発着路線を中心に「九州・沖縄の翼」として、地域と地域を結ぶ航空輸送を担ってきた。

ANAHDとの関係は20年余りに及ぶ。ANAHDのグループはAIRDOと2002年から、ソラシドエアとは前身のスカイネットアジア航空と2005年から業務提携を結び、それぞれ同じ年から資本関係もある。傘下の全日本空輸(ANA)とのコードシェア(共同運航)による販売のほか、機材や燃油の調達支援、業務の受委託などで連携してきた。いまもANAHDとRPWグループの間には航空機のリース取引があり、ANAHDの従業員1人がRPWの社外取締役を兼ねている。

完全子会社化が実現した場合、当面はAIRDOとソラシドエアの各ブランドを維持する。そのうえで、事業計画の策定、収入管理、調達、施設の構築・維持管理で連携や機能の統合を進める方針だ。中期的には、各ブランドが培ってきた価値や地域との関係、安全運航への影響、利用者・従業員・地域関係者への影響を総合的に勘案し、「ANAブランドへの統合も視野に検討を行ってまいります」としている。

両社が確認した主な相乗効果は4つある。ANAHDグループの国際線網と両社の地域路線網の接続強化による利便性の向上、人材と運航ノウハウの共有、地域に欠かせない航空路線の維持と地域経済への貢献、そして抜本的な収益改善と経営資源の最適化だ。

売上高は1088億円 利益率はANAHDの3分の1

開示に載った過去3年の業績を並べると、両社の規模と収益力の差が分かる。

決算期 RPW 営業収益 RPW 営業利益 RPW 純損益 ANAHD 営業収益 ANAHD 営業利益
2024年3月期 1014億9500万円 41億3900万円 41億4300万円 2兆559億円 2079億円
2025年3月期 1052億7800万円 36億3800万円 5億2300万円の赤字 2兆2618億円 1966億円
2026年3月期 1088億100万円 34億3100万円 14億4900万円 2兆5392億円 2174億円
リージョナルプラスウイングス(RPW)とANAホールディングス(ANAHD)の連結業績の推移(ANAHDは億円未満を切り捨て)

出典: ANAホールディングス「株式会社リージョナルプラスウイングスの株式交換による完全子会社化に関する基本合意書締結のお知らせ」(2026年10月29日)

RPWの営業収益は3年続けて増え、2026年3月期に1088億円となった。一方で営業利益は41億円から36億円、34億円と2年続けて減った。2026年3月期の営業利益率を計算すると、RPWは約3.2%で、ANAHDの約8.6%の3分の1ほどにとどまる。RPWの従業員は連結で2146人(2026年3月末)、ANAHDは4万9375人(2026年9月末)だ。

RPWの大株主(2026年3月末)は、日本政策投資銀行が25.86%で最も多く、ANAHDの15.32%、宮崎交通の8.57%、双日の5.64%が続く。北洋銀行、石屋製菓、宮崎銀行、北海道空港など、北海道と九州の企業や金融機関も名を連ねる。

少数株主の保護と比率の決定が焦点

ANAHDはRPWの主要株主で、RPWにとって関連当事者に当たる。このため両社は、取引の公正性を担保し、利益相反を避ける措置を取っている。株式交換比率の算定に向け、ANAHDはKPMG FASを、RPWはPwCアドバイザリーを、それぞれ独立した第三者算定機関に選んだ。法律面では、ANAHDがアンダーソン・毛利・友常法律事務所、RPWが西村あさひ法律事務所の助言を受ける。

RPWは7月7日の取締役会決議で、独立社外取締役1人と社外の公認会計士・弁護士3人の計4人でつくる特別委員会を設けた。委員会は7月13日から10月26日までに15回、計約19.5時間開かれ、10月26日に全員一致で、基本合意書を結ぶことは「不合理ではない」とする中間答申書を出した。RPWの取締役会は同日、この答申を踏まえて基本合意書の締結を決めた。ANAHDのグループで役職員を務めている人、務めたことがある人は、RPW側の検討や交渉に加えていないという。

中間答申書は、契約の締結時に改めて少数株主に不利益がないと答申するには、取引がRPWの企業価値の向上に役立つと判断でき、株式交換比率などの条件が合理的な内容で合意されることが必要だと念を押した。完全子会社になればRPWの株主優待制度は廃止される見込みで、委員会はその影響を含め、少数株主の利益を守る観点からの協議を求めた。

今後の手続きでは、12月下旬に予定する契約の締結時に株式交換比率が示される。競争法上の企業結合審査も必要になる。国交省の報告書は、例えば特定既存航空会社4社すべてが大手の傘下に入るなど競争が過度に損なわれる状況が生じれば、発着枠の回収・再配分の考え方を見直すなどの対策が必要だとしている。羽田発着枠の次の使用許可の更新は2029年で、報告書はそれまでの間も競争の状況を定期的に確認するよう求めている。