財務省は10月22日、財政制度等審議会の財政制度分科会に「国内投資・中小企業等」と題する資料を提出し、令和9年度予算の編成に向けて、企業向け補助金の見直しを求める論点を示した。中堅企業の設備投資を補助する「中堅等大規模成長投資補助金」について、予算執行調査で採択企業の43%が実質無借金だったとする結果を示し、「自力で投資可能な企業への実質的な収益支援になっている可能性がある」と指摘した。

分科会は同日午後2時から4時まで財務省で開かれ、「国内投資・中小企業等」と「文教・科学技術」の2つを議題とした。資料はいずれも財務省が作成したもので、令和9年度予算の概算要求を受けて、査定する側の論点を分野ごとに示している。

企業は最高益、内部留保と現預金が増加

資料はまず企業部門の状況を示した。財務省の法人企業統計調査をもとに、2025年度に企業が過去最高の経常利益を達成した一方、「設備投資や人件費は経常利益の増加ほどは伸びていない」とした。配当金は2015年度の22.2兆円から2025年度の46.0兆円に増え、上場企業の自社株買いの金額は5.3兆円から18.4兆円になった。内部留保と現金・預金は、大企業、中堅企業、中小企業のいずれでも増えている。

日本の潜在成長率は直近で0%台半ばと、主要先進国の中で最も低い水準にある。資料は、政府が7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」に沿い、17の戦略分野を中心に官民投資を促す方針を確認した。同戦略は、17分野の62の製品・技術で想定される官民の国内投資を、2040年度までに総額370兆円超と見込んでいる。

そのうえで財務省は、企業の現預金や内部留保を「前向きな国内投資に振り向けていく」ための視点として、①政策目的や企業の規模に応じた政策手法の選択、②民間投資の誘発効果の最大化、③支援の終期やステージゲートの設定、④財政資金の効率的な活用――の4つを挙げた。補助金がなければ実現しなかった投資を新たに生む「追加性」を重視し、元々予定されていた投資に補助金を出すことにならないよう、補助率も含めて精査する必要があるとした。

経済産業省の令和9年度概算要求は、一般会計で5兆7045億円と金額を示さない事項要求で、このうち新設の「強く豊かな日本」投資枠が4兆5250億円と事項要求を占める。令和8年度当初予算の一般会計は8694億円、令和7年度補正予算は1兆6775億円だった。投資枠を含む概算要求全体の規模は、令和9年度の概算要求143.1兆円 新設の「強く豊かな日本」投資枠に12.2兆円 片山財務相「大幅な増加との指摘は当たらない」で伝えている。

中堅企業向け補助金、採択企業の財務を検証

焦点の一つが中堅企業への支援である。令和6年の産業競争力強化法の改正で、従業員2000人以下の企業(中小企業を除く)を新たに「中堅企業」と位置づけた。財務省が経産省の資料をもとに示した分類では、中堅企業は約9000者、従業員2000人超の大企業は約1300者、中小企業は約336万者ある。

中堅等大規模成長投資補助金は令和5年度補正予算で始まり、令和7年度補正予算では2000億円を計上した。中堅・中小企業の建物費や機械装置費などを、最大50億円、補助率3分の1で補助する。

財務省の令和8年度予算執行調査で採択企業の財務状況を調べた結果は次のとおりだった。

条件 全採択企業 うち中堅企業
全体 412者 54者
ネット現預金(現預金-有利子負債)が0以下 233者(57%) 25者(46%)
ネット現預金が0超(実質無借金) 179者(43%) 29者(54%)
ネット現預金から月商2か月分を引いても0超(余剰キャッシュ保有) 92者(22%) 19者(35%)
中堅等大規模成長投資補助金の採択企業の財務状況出典: 財務省「国内投資・中小企業等」(令和8年度予算執行調査)

中堅企業に限ると、半数を超える29者が実質無借金で、3分の1を超える19者が余剰キャッシュを持っていた。資料は、補助金の事務局が企業の財務状況を「分析・加工可能なデータの形で取得していなかった」ことも指摘した。

金融機関からの融資を引き出す効果にも疑問を示した。補助金の審査では、金融機関から投資計画の妥当性の確認を受けた事業者に加点する仕組みがあり、確認を受けた企業は97%に上る。しかし調査に答えた311者のうち102者(33%)は、確認を受けた金融機関から実際には融資を受けていなかった。融資を受けた201者のうち105者(52%)も、採択結果によって融資の内容に影響があったとは「思わない」と答えた。財務省は「呼び水効果」が不十分なおそれがあるとし、今後の中堅企業政策は補助金ではなく金融支援も活用しながら、企業が自ら投資する環境を整えるべきだとした。補助を続ける場合も、幅広い設備投資ではなく、産業クラスターの形成など特別な政策課題に関わる投資に絞るのが適当としている。

中小企業の補助金は総額が拡大、終期の明示を求める

中小企業についても、現預金と内部留保が増え、所得額も伸びていると分析した。国税庁の会社標本調査では、資本金1億円以下の利益計上法人の申告所得額は2014年度の15兆円から2024年度の36兆円になった。

一方で、中小企業向けの生産性向上などの補助メニューの総額は大きく増えた。財務省が経産省資料をもとに集計した額は、平成30年度の1150億円から、令和9年度要求では1兆1319億円になる。新事業進出補助金、省力化投資補助金、中堅等大規模成長投資補助金などを含み、既存基金の活用分や後年度の負担分も各年に計上している。

中小企業向けの生産性向上等の補助メニューの総額(億円)

05,00010,00015,0001,150平成309,300令和610,481令和711,319令和9要求
令和9年度は概算要求ベース。平成30年度と比べ約10倍になる出典: 財務省「国内投資・中小企業等」(経産省資料に基づき財務省作成。既存基金の活用分・後年度負担分を含み、災害復旧・研究開発投資の補助金は除く)
数値で見る(単位: 億円)
項目億円
平成301,150
令和69,300
令和710,481
令和9要求11,319

資料は、行政改革の提案募集(4月10日公表)に寄せられた「中小企業区分に留まることで補助金要件を満たそうとするなどのモラルハザードが生じており、生産性の低い企業の再編や撤退が進みにくい」との意見を紹介した。売上高100億円を目指す中小企業に最大5億円(補助率2分の1)を出す「成長加速化補助金」(令和7年度補正予算で3400億円の内数)については、設備投資や分野の絞り込みがなく、省力化投資補助金などと対象が重なる場合があるとした。

そのうえで、売上拡大を目標とした大規模な設備投資への補助は「金融的手法への移行を進めつつ、補助金の終期を明示的に設定すべきではないか」と提起し、中小企業の補助金全般を政策課題に応じた類型へ統合するよう求めた。

経産省の令和9年度概算要求には、中小企業向けの主な事業として「新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業」も含まれている。前身の補助金の採択状況は中小企業の新事業進出補助金、第4回で公募終了 応募1499者のうち508者を採択 採択率は第1回の37.2%から33.9%へ 後継補助金は10月30日締切で伝えている。

基金の残高、AI・半導体、給湯器補助も見直し対象に

財政資金の使い方では、基金に積んだまま使われていない資金を取り上げた。金利が上がるなか、多額の資金を基金に滞留させることの機会費用が大きくなっているとし、真に必要なリスクへの備えを除き、未使用の基金は国庫に返納するよう求めた。内閣官房の基金シートによると、2025年度末の残高はグリーンイノベーション基金が2兆818億円、特定半導体基金が1兆3451億円、燃料油価格激変緩和対策事業が1兆1638億円だった。

AI・半導体分野では、政府が2024年11月に定めた「AI・半導体産業基盤強化フレーム」で、2030年度までに10兆円以上の公的支援(補助・委託等6兆円程度、金融支援4兆円以上)を行う枠組みがある。財務省は支援規模が「既に相当程度に達している」とし、大企業も支援対象であることを踏まえ、活用が進んでいない政府出資や金融支援を検討すべきだとした。今後の支援も、財源を確保した同フレームの中で対応するのが適当としている。

長期化した補助の例には、高効率給湯器の導入支援を挙げた。エコキュートに4万円、ハイブリッド給湯機に7万円、エネファームに14万円を補助する事業で、令和9年度の要求額は530億円(令和7年度補正は570億円)。エコキュートの年間出荷台数は補助開始前の2021年度の60.8万台に対し、2022年度以降の平均は65.7万台で、増加は約4.9万台にとどまる。エネファームは4.0万台から3.7万台に減った。業界調査ではエコキュート購入者の約半数がエコキュートからの買い替えで、財務省は補助の多くが補助がなくても起きた更新需要に充てられている可能性があると指摘した。

コンテンツ産業では、令和7年度補正と8年度当初で約589億円だった関連予算が、令和9年度要求では2523億円になる。資料は、官民ファンドのクールジャパン機構のメディア・コンテンツ分野の投資13件の平均回収率が0.75倍だったことを示し、「官による成長案件の目利きには限界がある」として、個社支援から共通基盤の整備に重点を移すよう求めた。

補助の置き換えと終期が論点に

財務省が今回示したのは、補助の対象と手法を絞り込む方向である。中堅企業向けでは補助金から金融支援への移行、中小企業向けでは大規模な設備投資補助の終期の明示と類型の統合、AI・半導体では政府出資と金融支援の活用、基金では未使用分の国庫返納を求めた。いずれも「〜ではないか」「〜が適当」という問いかけと提案の形で、分科会の委員の意見を聴いたうえで予算査定に用いる論点である。

経産省は、中堅等大規模成長投資補助金や成長加速化補助金を含む中小企業向け補助メニューで、令和9年度に1兆1319億円を要求している。

同じ日の分科会には、資料2「文教・科学技術」も提出された。