日本や米国、韓国など11か国でつくる多国間制裁監視チーム(MSMT)の参加国と欧州連合(EU)は10月28日、対北朝鮮制裁に関する共同声明を出した。外務省が同日、声明の英文と和文仮訳を公表した。声明は、10月中と28日に、EUと豪州、米国の各政府が北朝鮮の海外労働者の利用、悪意あるサイバー活動、不法なロシアとの協力に関わる者を制裁対象に指定したと明らかにし、これらの指定はMSMTが公表した報告に基づくと説明している。

声明の中身 米豪EUの指定と、常任理事国への要求

声明に名を連ねたのは、豪州、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ニュージーランド、韓国、英国、米国の11か国とEUだ。11か国はMSMTの参加国そのもので、外務省によると2026年10月28日時点の顔ぶれである。

声明は、米豪EUの措置の狙いを「北朝鮮による大量破壊兵器(WMD)及び弾道ミサイルの不法な開発を支える能力を阻害し、不法な露朝軍事協力に対抗するための取組」と位置づけた。そのうえで北朝鮮に対し、核・弾道ミサイル計画を放棄するよう求め、「完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な非核化」への関与を再確認した。

末尾では、北朝鮮に関する全ての安保理決議の履行を支持するとし、「全ての国連加盟国、特に安保理常任理事国に対し、これらの決議を完全に履行するよう求める」と記した。常任理事国にはロシアと中国が含まれる。後述するMSMTの報告書は、北朝鮮の労働者の大半が中国とロシアにいると指摘している。

声明が制裁の実施国として挙げたのはEUと豪州、米国で、日本の名はこの中に無い。日本政府は報道発表で「MSMT参加国及びEUを含む国際社会と緊密に連携しながら関連安保理決議の完全な履行に向けた取組を進め、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画の完全な廃棄を求めていきます」とした。

米財務省、ロシア拠点のIT労働者網を指定

声明と同じ10月28日、米財務省の外国資産管理局(OFAC)は、北朝鮮政府が運営するIT労働者の仕組みに関わったとして、10人と1団体を制裁対象に指定したと発表した。偽の書類や盗んだ身元を使って米国などの企業に職を得て、賃金の大半を政府が吸い上げ、大量破壊兵器と弾道ミサイルの資金にしているという。

指定された団体は、ロシアにある北朝鮮管理下の組織「First Financial and Technical Development Center(FFTDC)」だ。財務省によると、FFTDCは高度な訓練を受けたIT労働者をロシアに送り、複雑な暗号資産の送金などで収益を上げてきた。所属する6人の労働者は2025年以降、合わせて75万ドル超をFFTDCのために稼いだとしている。

個人では、ロシア人の仲介者2人が含まれる。うち1人は2025年1月以降、北朝鮮当局者のために200万ドル近い暗号資産の換金と、少なくとも125万ドルの別の通貨取引を行ったとされる。もう1人は、2024年3月に指定済みの北朝鮮企業のために、350万ドル相当の暗号資産の交換などを担ったという。残る2人はロシアに置かれた北朝鮮IT労働者の派遣団を率いる北朝鮮国籍の人物だ。

指定を受けると、米国内にある資産や米国人が管理する資産は凍結され、米国人との取引は原則として禁じられる。ベッセント財務長官は「北朝鮮政権は、海外のIT工作員による不正行為を通じて米国企業を標的にし、搾取し続けている」との談話を出した。財務省は、今回の措置が2026年3月12日の別のIT労働者網の指定に続くものだとし、今月は豪州とEUも指定に加わったと説明している。

国内でも、北朝鮮のIT労働者が遠隔操作するパソコンを協力者の自宅に置く拠点が摘発されている(北朝鮮ハッカー集団「WaterPlum」を日米豪独が名指し 偽の求人で3万台超が感染、暗号資産17億円分を送金 国内で初めて遠隔操作PCの拠点を摘発)。

MSMTとは ロシアの拒否権で消えた国連の監視役の代わり

MSMTは、北朝鮮の制裁違反を調べて公表するため、日本を含む有志の国が2024年10月に立ち上げた枠組みだ。

それまでこの役目を担っていたのは、国連安保理の北朝鮮制裁委員会(1718委員会)の下に置かれた専門家パネルだった。パネルは各国から集めた情報で違反事例を報告書にまとめてきたが、2024年にロシアが任期延長に拒否権を行使し、同年4月末で活動を終えた。声明は、MSMTが「専門家パネルが…不在となる中」で北朝鮮の決議違反を監視・報告していると説明している。

MSMTはこれまでに3本の報告書を出した。

公表 回 テーマ
2025年5月 第1回 武器移転を含む北朝鮮とロシアとの間の不法な軍事協力
2025年10月 第2回 北朝鮮によるサイバー及びIT労働者の活動
2026年9月16日 第3回 北朝鮮の海外労働者
多国間制裁監視チーム(MSMT)がこれまでに公表した報告書

出典: 外務省「対北朝鮮制裁に関する共同声明」「MSMT第3回報告書の公表」

今回の声明は、第1回と第2回がロシアとの軍事協力とIT労働者の詐欺を、第3回が海外への労働者派遣を扱ったと振り返り、米豪EUの指定はこれらの報告に基づくとした。MSMTは今後も違反と回避の試みを監視し、公表していくとしている。

第3回報告書が示した海外労働者の実態

今回の指定の土台の一つになった第3回報告書について、外務省がまとめた概要によると、北朝鮮は少なくとも17か国に推定3万5600〜10万1280人の労働者を送り、2025年に推定4億5000万〜8億ドルの収入を得た。安保理決議2397号は、各国に自国内の北朝鮮労働者を2019年12月までに送還するよう義務付けている。期限から6年以上たっても送還が進んでいないことになる。

労働者の多くは中国(2万〜7万人)とロシア(1万5000〜3万人)にいる。中国では遼寧、吉林、黒竜江の3省を中心に製造、建設、IT、飲食、縫製、水産加工などで働き、2025年1月から2026年1月にかけて推定約1万人が新たに入国した。ロシアでは防衛、造船、鉄鋼加工、農業などで働き、軍事用ドローンの製造にも従事している。ロシア政府は2020年に学生ビザでの就労を認める法改正を行い、報告書はこれが労働者を学生と偽って受け入れる仕組みになっているとみる。ロシアでの賃金は、業種によっては中国の最大5倍に達し得る。

働き方について報告書は、1日12〜18時間、週6〜7日働き、賃金の80〜90%を北朝鮮当局が取り上げると記す。取り上げられる額が賃金を上回り、労働者が北朝鮮に借金を負う例もあるという。中国、ロシアのほか、カンボジア、ラオス、ベトナム、モンゴル、アフリカ各国などで数十人から数百人規模の労働者が働いている可能性も挙げた。

報告書は各国に対し、決議2375号と2397号の即時履行、学生ビザの悪用防止と入国審査の強化、北朝鮮労働者を雇う企業との取引の防止を求めた。企業にも、取引先の経営や株主構成を確かめ、自社のサプライチェーンに北朝鮮労働者がいないようにするよう促している。

国連の外で制裁を重ねる形に

北朝鮮をめぐっては、日本周辺の海上で船から船へ物資を移す「瀬取り」の監視にも各国が加わっている(フランス哨戒機、北朝鮮の「瀬取り」監視へ 嘉手納を拠点に11月上旬まで 2019年以降7度目)。今回の声明も含め、安保理決議の履行を確かめる仕事は、国連の機関から有志の国々の手に移っている。

ただ、MSMTの報告は国連の公式文書ではなく、制裁の指定も各国・地域がそれぞれの国内法で行うものだ。米財務省の指定は米国内の資産と米国人との取引に限られ、ロシアや中国の国内にある資産や取引そのものを止める仕組みではない。報告書によれば、労働者の大半を受け入れているのは中国とロシアで、いずれも安保理の常任理事国だ。声明が常任理事国を挙げて決議の完全な履行を求めたのは、この点に向けた要求と読める。

日本はMSMTの参加国として声明に名を連ねた。一方、今回の声明で米豪EUと並ぶ制裁の実施国には含まれていない。第3回報告書が示した最大10万人、年8億ドルという規模を減らすには、指定を重ねる国が増えることに加え、受け入れ国が決議2397号の送還義務を守るかどうかが問われる。