日本政府は10月27日、カンボジアの首都プノンペンで、供与限度額300億円の円借款「経済の強靱性向上・エネルギー供給安定化のための緊急支援借款」に関する書簡の署名・交換を行った。外務省が同日発表した。中東情勢の悪化によるエネルギー価格の高騰と供給不安に対応するカンボジア政府の施策を、アジア開発銀行(ADB)との協調融資で支える。翌28日には国際協力機構(JICA)が同国政府と貸付契約に調印した。高市早苗首相が4月に立ち上げた「パワー・アジア」の下の円借款で、6月のバングラデシュ向けに続く案件となる。

大使と副首相が書簡、翌日にJICAが貸付契約

外務省によると、書簡に署名したのは石月英雄・駐カンボジア大使と、プラック・ソコン副首相兼外務国際協力相。供与条件は金利が年2.80%、償還期間が7年の据え置きを含む25年で、調達先を日本企業に限らない「アンタイド」とした。

書簡の交換の翌日には、円借款の実施機関であるJICAが同国政府と貸付契約を結んだ。JICAの発表によると、28日の貸付契約には、カンボジア側からオーン・ポンモニラット副首相兼経済財政相、日本側からJICAカンボジア事務所の岩間望所長が署名した。実施機関は同国の経済財政省で、事業の完成は貸付が終わる2026年12月を予定する。JICAは本事業を「財政支援」と位置付けており、入札を伴う工事やコンサルティング業務は予定されていない。道路や発電所を造る個別の建設事業とは異なり、同国政府の施策の実施を資金面で支える形をとる。

外務省は円借款について、開発途上国に必要な資金を「緩やかな条件(低い金利や長い返済期間)」で貸し付ける協力で、日本へ返済される資金だと説明している。今回の300億円も贈与ではなく、利息を付けて返済される。

燃料価格の抑制と再エネ促進、ADBと協調

外務省は、カンボジアでは中東情勢の悪化に伴うエネルギー価格の高騰と供給不安が経済に大きな影響を及ぼしており、同国で製造される自動車部品や電子機器など、日本のサプライチェーンを支える製品の安定供給を維持することが課題になっていると説明した。

JICAによると、資金はADBの「Rapid Intervention for Stabilization of the Economy(RISE)プログラム」に対する協調融資の枠組みを通じて出す。対象となる施策は大きく2つある。1つは「経済保護」で、エネルギーの安定供給のための一時的な燃料価格の抑制策を指す。もう1つは「エネルギー転換」で、再生可能エネルギーの利用促進と、エネルギーの緊急時対応の強化を挙げる。日本はこれらの施策の実施を財政面で支える。ADBの融資額は2億5000万ドルだという。

JICAは、この事業が同国に進出する約400社の日系企業の事業継続にも寄与するとしている。外務省も、ADBと日本が進める「長期的強靱性のためのエネルギー行動枠組み(ACCEL)」に沿う取り組みだと位置付けた。

「パワー・アジア」の円借款、バングラデシュに続く

「パワー・アジア」は、高市首相が4月15日、エネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合で立ち上げを発表した「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」の通称だ。経済産業省によると、原油・石油製品の調達やサプライチェーン維持のための融資といった「緊急対応」と、アジア域内の原油備蓄日数の拡大などの「構造的対応」に取り組むため、総額約100億ドルの金融面での協力を行う。担い手は国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、JICAの3機関で、JICAは日本とのサプライチェーンを構成する国の政府の経済対策を支える緊急円借款を担う。

ほかの2機関の手段は異なる。JBICは、2025年10月に設けた「日本戦略投資ファシリティ」の中に「POWERR Asia FAST ウィンドウ」を新設し、原油・石油製品の調達や燃料不足の影響を受けるサプライチェーン企業の事業に融資する。NEXIは4月17日に社内にタスクフォースを置き、日本の商社が調達した原油を現地企業へ販売する取引に保険を付け、現地企業の信用力を補う形などを検討するとしている。経産省は関連する動きとして、5月2日の日・ベトナム首脳会談でニソン製油所の原油調達をNEXIを通じて支援することで一致したことを挙げている。枠組みが設けられた経緯は「原油調達多角化の法案、高市首相が所信表明で制度整備を表明 原油輸入の中東依存は94.7%」で伝えた。

JICAは6月9日、バングラデシュ政府と同じ名称の緊急支援借款の貸付契約に調印しており、これを「パワー・アジア」の最初の円借款案件としていた。両国の条件を並べると次のとおりになる。バングラデシュとの関係は「バングラデシュのラーマン首相夫妻、26〜29日に訪日 高市首相と首脳会談へ 20年ぶりのBNP政権発足後初」でも取り上げた。

バングラデシュ カンボジア
貸付契約の調印 2026年6月9日 2026年10月28日
借款額(上限) 500億円 300億円
金利 3.05% 2.80%
償還期間(うち据え置き) 30年(10年) 25年(7年)
協調融資するADBの融資額 7億5000万ドル 2億5000万ドル
事業の完成予定 2026年6月 2026年12月
「パワー・アジア」の下の緊急支援借款の条件出典: 国際協力機構(JICA)の各貸付契約調印の発表、外務省報道発表

日本の対カンボジア援助と経済関係

外務省の基礎データによると、日本のカンボジアに対する援助は2023年度までの累計で、有償資金協力(円借款)が約3316億円、無償資金協力が約2556億円、技術協力が約1063億円にのぼる。カンボジア開発評議会の2020年の推計では、主要な援助国・機関の支援額は中国が4億2160万ドルで最も多く、日本は3億3650万ドルで続き、ADBが2億8310万ドルだった。

経済面では、カンボジアの名目GDPは約493億ドル(2025年、国際通貨基金推定)で、2022年から25年は5%台の成長を続けてきた。日本の2025年の貿易統計では、カンボジアからの輸入が約3589億円、カンボジアへの輸出が約1019億円で、日本側の大幅な輸入超過となっている。日本への輸出品は衣類・履物・バッグ類などの雑製品のほか、電線・ケーブルなどの電気機器が並ぶ。カンボジア開発評議会によると、日本からの投資承認額は1994〜2024年で約30億ドルにのぼり、縫製、製靴、自動車部品などの企業が進出している。カンボジアに住む日本人は2025年10月時点で2915人だった。

外務省は、カンボジアが東南アジア諸国連合(ASEAN)で初めて「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を支持した国で、日本の「包括的・戦略的パートナー」だと説明する。両国は2023年1月に関係を包括的戦略的パートナーシップに格上げした。今回の円借款について外務省は、エネルギー情勢が厳しさを増す局面でカンボジア政府の喫緊のニーズに応えるもので、日本に対する信頼の醸成と両国関係の強化につながると期待を示している。

援助額では中国が日本を上回る国である。その国で日本は、日系企業約400社の操業と日本向けの部品供給を支える施策に、返済を前提とする貸し付けで資金を出した。ASEANで最初にFOIPを支持した相手との関係を、エネルギー価格が高騰する局面で具体的な資金で裏付けたことは、サプライチェーンの維持と地域での日本の立場の両面で国益にかなう。