農林水産省は10月30日、環境への負荷を減らす農林漁業を後押しする「みどりの食料システム法」(みどり法、令和4年法律第37号)について、施行5年後の見直しに向けた検討会の初会合を開いた。法は2027年7月に施行から5年を迎え、附則は5年をめどに施行状況を踏まえて規定を検討するよう定めている。検討会は気候変動などによる食料の安定供給の課題を洗い出し、有機農業の面的拡大などに向けた論点を整理する。

法に基づいて都道府県知事の認定を受けた農林漁業者は、7月末時点で3万9235経営体に増えた。一方、耕地に占める有機農業の取り組み面積は2024年に3.98万ヘクタールで、国が2030年の目標に置く6.3万ヘクタールの6割強にとどまる。

5年後の検討規定に基づき設置、初会合は非公開

農水省が10月29日に発表した。検討会の主宰者は大臣官房技術総括審議官で、初会合は30日午前10時から11時30分まで、本省の会議室で開いた。議題は「みどり法施行5年後見直しに向けた検討と今後の課題」。

設置の根拠は法の附則にある。附則は「政府は、この法律の施行後五年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定める。検討会はこの規定を踏まえ、食料システムの多様な関係者から意見を聴くとしている。

委員は5人。アグリーンハート代表取締役の佐藤拓郎氏、早稲田大学政治経済学術院教授の下川哲氏、日本栄養大学栄養学部教授の中嶋康博氏、ニューラル代表取締役CEOの夫馬賢治氏、明治ホールディングス顧問でNPO法人ネリスJAFAS事務局長の松岡伸次氏。

開催要領によると、検討会は原則非公開で、オンラインと対面を併用する。初会合も報道機関の撮影は冒頭だけ認めた。配付資料と議事概要は会合の後に農水省のホームページに載せるが、出席者が非公開を望んだ資料などは除く。30日夜の時点で、検討会のページには第1回の「議事概要」「議事次第」「出席者名簿」「農林水産省説明資料」の項目名が並んでいるが、資料そのものはまだ掲載されていない。

第2回以降は、委員に加えて会合ごとのテーマに応じた有識者からも意見を聴く。要領は、意見を求められる相手として、環境負荷の低減に取り組む生産者とその団体、民間の指導団体、流通・加工・販売の事業者、消費者団体、技術やサービスを提供する事業者、自治体職員、GX(グリーントランスフォーメーション)の有識者を挙げている。

高温・渇水と資材の輸入依存を課題に挙げる

農水省は設置の背景を、取り組みの広がりと新たな懸念の両面から説明している。

広がりとして挙げたのは、みどり認定を受けた経営体が3万を超えたこと、有機農業に地域ぐるみで取り組む「オーガニックビレッジ」が160市町村を突破したことだ。消費者に向けた表示「みえるらべる」による働きかけや、J-クレジットなどを通じた民間の投資も広がっているとした。6月には、企業から食と農の分野へのGX投資を呼び込むための「みどり戦略加速化GXプラン」を決めている。

懸念として挙げたのは気候と資材だ。2024年に世界の平均気温が観測史上最高を記録し、2026年も国内で高温や渇水による生産現場への影響が心配されている。国際情勢の不安定さも続き、肥料をはじめとする資材を輸入に頼る日本では、食料の安定供給への懸念が広がっていると記した。農水省は、こうした課題の洗い出しを通じて「食料システムにおけるレジリエンス(回復力)の向上」を図ることを検討会の目的に掲げた。

国が方針、自治体が計画、農家を知事が認定

みどり法は、農水省が2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」を実行に移すための法律で、2022年7月に施行された。第1条は、農林漁業に由来する環境への負荷の低減を図る事業活動を促し、その基盤を確立することで、農林漁業と食品産業の持続的な発展や国民への食料の安定供給に資することを目的に掲げる。

仕組みは3段になっている。まず農林水産大臣が基本方針を定める。次に、都道府県と市町村が共同で基本計画を作り、大臣の同意を得る。基本計画は2022年度中に全都道府県で作られた。そのうえで、土づくりや化学肥料・化学農薬の使用削減、温室効果ガスの排出削減などに取り組む農林漁業者が実施計画を作り、都道府県知事の認定を受ける。これが「みどり認定」だ。

認定を受けると、機械や施設を導入したときの「みどり投資促進税制」で、取得価額の機械等32%、建物等16%の特別償却を受けられる。融資の特例や、国の補助事業での優先採択も用意されている。生産者だけでは難しい技術開発や資材の供給に取り組む機械・資材メーカー、食品事業者などは「基盤確立事業」として国の認定を受けられ、8月末時点で114事業者が認定された。

認定は1年4か月で1.4倍、特定区域は94区域に

みどり認定は2023年度から各都道府県で本格的に始まった。農水省の資料では、2025年3月末時点で2万7641経営体だった認定数は、2026年7月末に3万9235経営体となり、1年4か月で1.4倍になった。

都道府県別に見ると偏りが大きい。最多は福井県の1万1178で、全国の約28%を占める。次いで岩手県4757、熊本県2511、宮城県2214、石川県2122の順で、上位5県で全体の58%を占める。一方、大阪府は31にとどまる。農水省は、税制や融資の特例、補助事業の優先採択を使いながら、農協などのグループで認定を受ける取り組みも広がっていると説明している。

地域ぐるみで有機農業の団地化などを進める「特定区域」は7月末時点で34道府県の94区域に設けられた。区域内の取り組みを対象にした特定計画は14道府県23区域で25計画が認定され、農業者同士が栽培管理を取り決める有機農業の協定は、茨城県常陸大宮市で2件結ばれている。

有機農業は伸びるが目標と開き、化学肥料は目標を下回る

戦略が掲げた数値目標の進み具合は、項目によって分かれる。農水省が8月31日時点でまとめた実績値によると、有機農業の取り組み面積は2021年の2.66万ヘクタールから、2023年に3.45万ヘクタール、2024年に3.98万ヘクタールへ広がった。それでも2030年目標の6.3万ヘクタールに対しては63%で、2050年に耕地の25%にあたる100万ヘクタールとする目標とは大きな開きがある。有機食品の需要と国産の供給の差については、有機食品の国産シェア53%に低下、国は2030年に84%へ引き上げる目標 市場は3595億円に拡大したが輸入が先行 農水省が基本方針を変更で伝えた。

有機農業の取り組み面積(万ヘクタール)

024682.662021年3.452023年3.982024年6.302030目標
出典: 農林水産省「みどりの食料システム戦略KPIの2021年、2023年及び2024年実績値一覧」(2026年8月31日時点)
数値で見る
項目値
2021年2.66
2023年3.45
2024年3.98
2030目標6.30

化学肥料の使用量は、2024年が68万トンで、2030年目標の72万トンをすでに下回った。2050年目標は63万トンになる。化学農薬の使用量はリスク換算で約19.9%減り、2030年目標の10%減を上回ったが、2050年目標は50%減だ。

農林水産業で燃料を燃やして出るCO2は、2024年に1601万トンだった。2030年目標の1484万トンまでには、なお117万トンを減らす必要がある。2050年には排出をゼロにする目標を掲げる。

項目 2024年実績 2030年目標 2050年目標
有機農業の面積 3.98万ha 6.3万ha 100万ha(耕地の25%)
化学肥料の使用量 68万トン 72万トン 63万トン
化学農薬の使用量(リスク換算) 約19.9%減 10%減 50%減
燃料燃焼によるCO2排出量 1601万トン 1484万トン ゼロ
みどりの食料システム戦略の主な数値目標と実績出典: 農林水産省「みどりの食料システム戦略KPIの2021年、2023年及び2024年実績値一覧について」(2026年8月31日時点)

検討会が何を見直しの対象とするかは、初会合の資料と議事概要が公表されてから明らかになる。法の附則は、検討の結果に基づいて「所要の措置」を講じると定めており、法改正に進むかどうかは今後の議論次第となる。