風力発電機(風車)の大手、デンマークのベスタスと秋田県、特定非営利活動法人(NPO法人)長崎海洋産業クラスター形成推進協議会(NaMICPA、長崎市)は10月29日、風力発電の技術者を国内で育てる基盤づくりに向け、実現可能性を共同で調べる覚書を結んだ。国際的に認知された風力発電分野の訓練プログラムを日本で展開できるかを検討する。署名式は東京都内で開かれ、赤澤亮正経済産業相とベスタスのヘンリック・アンダーセン最高経営責任者(CEO)が立ち会った。

経産省によると、赤澤氏は同日、アンダーセン氏、鈴木健太秋田県知事、NaMICPAの松尾博志理事長と会談した。洋上風力のサプライチェーン(供給網)づくりや人材育成の基盤について意見を交わし、官民で連携して日本の洋上風力市場の発展と産業基盤の構築に取り組むことを確認した。

海外の訓練を国内で受けられるか調べる

覚書に署名したのは、鈴木知事、松尾理事長、ベスタスのアジア太平洋地域を統括するプルヴィン・パテル氏の3人。NaMICPAの発表では、ベスタス側の当事者は日本法人のベスタス・ジャパン(東京都港区)としている。

ベスタスの発表によると、3者は今後、海外で実施されている風力発電分野の訓練プログラムを国内で提供できるかを調べ、運営体制や実施に必要な機能・能力を検討する。調査では、業界の人材育成のニーズの把握、世界水準の技術・安全訓練を提供する体制づくり、教育機関や業界関係者との連携、日本語での訓練提供を含む地域協力の可能性を検証する。

ベスタスは発表の中で、この覚書は共同調査と検討に関するもので、特定の研修施設の設置や訓練プログラムの国内実施を決めるものではないと明記している。調査の期間や費用の分担は、経産省・ベスタス・NaMICPAのいずれの発表にも書かれていない。

背景について、NaMICPAは発表で、風車の建設や運転・保守(O&M)を担う技術者の確保が国の戦略産業クラスター計画(2026年7月策定)で重要課題とされている一方、「風車メーカーが指定する専門技術訓練の多くは海外の訓練拠点で英語により提供されており、国内の技術者が日本語で受講できる環境は整っていません」と説明した。今回の調査は、そうした訓練を日本で、日本語で受けられるようにする道筋を探るものだ。

長崎の訓練施設が講師を育て、秋田へ

NaMICPAは2014年に設立されたNPO法人で、正会員約100法人、賛助会員26団体で構成する。日本財団の助成を受けて、長崎大学文教キャンパス内で2020年に「長崎海洋アカデミー(NOA)」を開講し、累計の受講者は約1300人、開催は105回にのぼる。2024年11月には長崎市伊王島に「日本財団洋上風力発電人材育成センター(NOA TRAINING)」を開いた。伊王島の周辺海域では、実際の海で訓練できる「実海域フィールドセンター」も運営している。

NOA TRAININGでは、国際団体GWO(Global Wind Organisation)の認証を受けた安全訓練・技能訓練を、日本語と英語の両方で提供している。NaMICPAによると、ベスタスの国内技術者を含む多くの風力関係者が受講しており、受け入れ人数は2030年度に年1000人を目標にしている。

NaMICPAは今回の発表の副題に「ベスタス認定トレーナー育成、日本語によるベスタス技術訓練の国内提供を目指す」と掲げた。松尾理事長は「NOA TRAININGの講師がベスタス認定トレーナーとなり、ここで育てたトレーナーが秋田をはじめ各地域へ広がっていくことを目指します」と述べた。長崎で教える側を育て、風車の多い秋田などで訓練を受けられるようにする構想だ。

秋田県の鈴木知事はベスタスの発表に寄せたコメントで「風力発電の導入が進む秋田県では、関連産業を担う人材を育成するための環境づくりが重要になっています」とした。

ベスタスは国内でのナセル組立も計画

ベスタスは1993年に日本で最初の風車を設置した。日本法人の紹介によると、これまでに国内で1.9ギガワット(GW、190万キロワット)の風力発電設備を導入し、1.1GWを建設中で、1.2GWの長期保守を請け負っている。秋田港・能代港の国内初の商用大型洋上風力発電所にも風車を納めた。世界では88か国で合計207GWの風車を納入している。

ベスタスと経産省は2025年7月に研究会(スタディグループ)を設け、国内での導入拡大や供給網への投資の可能性を話し合ってきた。2026年3月9日には経産省と協力覚書を結び、日本の洋上風力の入札案件で確定受注を得るなどの条件が満たされれば、2029年度までに日本国内で「ナセル」の最終組立を行うために協力することで合意した。ベスタスの発表に載った署名式の写真の説明では、北海道、秋田県、福岡県、室蘭市、秋田市、北九州市の自治体も出席した。同じ日に、日本通運と物流や保守サービスでの協力を検討する覚書を、DENZAIとも覚書を結んでいる。ナセルは風車の羽根の付け根にある箱状の部分で、発電機などの機器を収めている。7月10日には、ナセルの最終組立工程を国内へ移す計画が、経産省の「GXサプライチェーン構築支援事業」の支援対象に採択されたと発表した。海外で行っているナセル組立の最終段階を日本に移し、洋上風力の案件ごとに使う「プレアセンブリ港」(設置前に部品を組み上げる港)で最終組立と試験をできるようにする計画だ。

アンダーセンCEOは今回の訪日について「経済産業省とベスタスとの強固なパートナーシップの重要性を改めて確認することができました」とコメントした。

業界目標は2040年に関連人材4万人

政府と業界でつくる「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」は2025年8月8日、洋上風力産業ビジョン(第2次)をまとめた。2030年までに10GW、2040年までに浮体式を含め30〜45GWの案件を形成する目標を維持したうえで、浮体式に絞った目標と、人材と国内調達の目標を新たに置いた。

目標 期限 担い手
洋上風力の案件形成10GW 2030年まで 官民
浮体式を含む案件形成30〜45GW 2040年まで 官民
浮体式洋上風力の案件形成15GW以上 2040年まで 政府
国内調達比率65%(従来目標は60%) 2040年まで 産業界
洋上風力関連人材を約4万人育成・確保 2040年まで 産業界
洋上風力産業ビジョン(第2次)の主な目標

出典: 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第2次)」(2025年8月8日)

ビジョンは、風車メーカーの製造拠点が国内に無く、風車の国内調達比率が「極めて低い」と現状を記している。人材については、産業界が必要な人材や業務内容を整理し、地域でも事業者による訓練施設の整備が進んでいるとしたうえで、産学官で育成・確保の計画とロードマップを作るとした。

一方、秋田県沖では計画の見直しも起きている。経産省と国土交通省は2025年9月11日、再エネ海域利用法に基づく最初の公募で選ばれた事業者が同法の規定に違反したとして、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖の3海域の公募占用計画の認定を取り消した。秋田県の2海域は認定が取り消されたままで、今回の覚書は、風車の建設後に保守を長く担う技術者の育成を、案件の行方とは別に調べ始める形になる。