厚生労働省は2026年10月30日、中国産のおくらとその加工品について、食品衛生法に基づく検査命令を出し、全国の検疫所長に通知した。輸入者は今後、輸入の届け出をするたびに、すべてのロットについて検査を受けなければならない。検疫所の抜き取り検査で、冷凍おくら3件から農薬のメピコートクロリドが基準を超えて検出されたためである。厚労省によると、中国産おくらに残留農薬の検査命令を出すのは今回が初めて。

対象は「中国産おくら及びその加工品(簡易な加工に限る。)」で、検査項目はメピコートクロリドの1つである。厚労省は、検出された量では直ちに健康に影響はないとしている。違反した3件の貨物は、いずれも全量が保管されている。

3件とも冷凍おくら、最大で基準の24倍

厚労省の発表には、違反と確定した3件の内容が載っている。品名はいずれも冷凍おくらで、生のまま食べられる「無加熱摂取冷凍食品」が1件、加熱して食べる「加熱後摂取冷凍食品(凍結直前未加熱)」が2件だった。

到着日 届出先 重量 検出値 違反確定日
8月24日 福岡検疫所 1万2500 kg 0.12 ppm 9月18日
9月10日 大阪検疫所 5500 kg 0.04 ppm 10月9日
10月4日 東京検疫所 9000 kg 0.24 ppm 10月26日
中国産冷凍おくらの違反3件(2026年)出典: 厚生労働省「輸入食品に対する検査命令の実施(中国産おくら、その加工品)」

基準はいずれも0.01 ppmで、検出値は基準の4倍から24倍にあたる。最初の違反は8月24日に福岡へ着いた12.5トンで、輸入者はクラレイ株式会社、製造者は中国のZHANGZHOU MINGDE FOODS CO.,LTD.だった。2件目は9月10日に大阪へ着いた5.5トンで、輸入者は株式会社桜通商、製造者は1件目と同じ会社である。3件目は10月4日に東京へ着いた9トンで、輸入者は神栄株式会社、製造者は別の会社のFUJIAN JINGSHENG AGRICULTURAL DEVELOPMENT CO.,LTD.だった。

2つの製造者から、約1か月半の間に3件の違反が続いたことになる。3件目の違反確定日は10月26日で、厚労省はその4日後に検査命令を出した。

「抜き取り」から「全ロット」へ

厚労省の監視結果の資料は、輸入時の検査として2つの仕組みを挙げている。1つはモニタリング検査で、厚労省は「統計学的な考え方に基づく数を基本として、食品群ごとに、輸入実績や違反率等を勘案し定めた計画」と説明している。輸入される食品の一部を、計画に沿って抜き取って調べる。今回の3件の違反は、このモニタリング検査で見つかった。

もう1つが検査命令である。厚労省の説明では「違反の可能性が高いものについて、輸入の都度、輸入者に対し、検査を受けることを命令するもの」。根拠は食品衛生法第26条第3項で、厚生労働大臣は「生産地の事情その他の事情」からみて基準に合わないおそれがある食品を輸入する者に対し、国か登録検査機関の検査を受けるよう命じることができる。今回の通知は、これを「輸入届出ごとの全ロットに対する検査の義務づけ」と説明している。

中国産おくらの輸入実績を見ると、検査の厚みがどれだけ変わるかが分かる。厚労省が示した速報値では、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の届け出は2022件、1万2900トンで、メピコートクロリドの検査は3件、違反は0件だった。令和8年度は10月25日までに1399件、9382トンの届け出があり、検査は30件に増え、そのうち3件が違反となった。検査命令が出たことで、今後は年に2000件規模の届け出がすべて検査の対象になる。

メピコートクロリドとは

メピコートクロリドは、厚労省の発表によれば植物成長調整剤に分類される農薬である。人が一生涯毎日食べ続けても健康に影響が出ないとされる許容一日摂取量は、体重1キロあたり1日0.3ミリグラム。24時間以内に口にしても影響がないとされる急性参照用量も、体重1キロあたり0.3ミリグラムと定められている。

厚労省は発表の中で、体重60キロの人が0.24 ppm残ったおくらを毎日75キロ食べ続けても、許容一日摂取量を超えることはないと説明した。体重60キロの人の許容量は1日18ミリグラムで、0.24 ppm(1キロあたり0.24ミリグラム)のおくらなら75キロ分にあたる。厚労省自身が「現実的ではありません」と書き添えているとおり、通常の食事でこの量に届くことはない。

では、なぜ違反として扱われるのか。基準値の0.01 ppmは、残留農薬の「一律基準」と同じ値である。日本の「ポジティブリスト制度」は、残留基準が決まっていない農薬などが一律基準を超えて残る食品の販売を禁じている。厚労省のQ&Aは、0.01 ppmを超えたからといって「全てが危険な食品であると断言することはできません」としつつ、「本来、当該食品に残留しないはずの農薬等が残留していることを意味する」とし、原因の究明と管理が重要だと説明している。健康への影響の大小とは別に、残ってはならない農薬が出たこと自体が違反になる仕組みである。

検査命令は年7万件、違反は173件

検査命令は、輸入食品の監視の中で珍しい措置ではない。厚労省が2026年8月に公表した令和7年度の監視結果によると、2026年3月末時点で検査命令の対象は、すべての輸出国を対象とする4品目と、33の国・地域の109品目だった。令和7年度の検査命令による検査は7万2575件(延べ9万6660件)で、違反は173件だった。令和6年度は7万34件の検査で198件の違反があり、検査の件数は増え、違反は25件減った。モニタリング検査は10万10件の計画に対して延べ10万1278件を実施し、違反は延べ128件だった。

輸入食品全体では、令和7年度の届け出が約253万件、約3228万トンに上った。このうち21万4030件を検査し、791件を法違反として積み戻しや廃棄などの措置をとった。違反の内訳では残留農薬が142件で、微生物規格の196件、添加物の169件に次いで多い。

厚労省の輸入食品監視業務のページには、2026年に入ってからも、トーゴ産とコートジボワール産のごまの種子、インド産ワサビノキ(モリンガ)の未成熟種子の鞘について、検査命令を出したとの発表が並ぶ。今回の中国産おくらは、これに続く措置となる。

今回の発表には、中国側のどの段階でメピコートクロリドが使われたのかは書かれていない。厚労省は令和7年度の監視結果の中で、違反の可能性が高い輸入食品については輸出国政府に違反原因の究明と再発防止対策の確立を要請し、二国間協議などで輸出国の衛生対策を進めたとしている。中国産おくらで全ロット検査の結果が積み上がれば、違反が続くのか、収まるのかが数字で分かる。