憲法改正の国民投票の手続きを定める日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)の改正法(令和8年法律第73号)が10月31日、施行された。開票立会人と投票立会人の選び方を広げ、憲法改正案の広報にFM放送も使えるようにした。総務省は30日、これに合わせて施行令を改正する政令を公布し、31日に施行した。政令案などに対する意見公募には1万7737件の意見が寄せられたが、総務省は案を修正しなかった。
改正法の中身 立会人の選び方とFM放送
改正法は議員立法で、6月5日に自民党の新藤義孝氏ら9人が衆議院に提出した。提出会派は自民党・無所属の会、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党の4会派。衆議院の審議経過によると、憲法審査会での可決を経て6月19日の本会議で可決された。賛成は自民、中道改革連合、維新、国民民主、参政、チームみらいの各会派で、反対は日本共産党だった。参議院では7月24日の本会議で可決、成立し、7月31日に公布された。施行は「公布の日から起算して3月を経過した日」と定めていた。第221回特別国会で成立した議員立法の一つで、国会全体の法案の行方は特別国会、内閣提出の64法案はすべて成立 議員立法は59件のうち14件 21件は閉会中審査で次の国会へで伝えた。
衆議院に提出された法律案要綱によると、改正の柱は3つある。
1つ目は開票立会人の選び方だ。政党などが開票立会人を届け出るとき、これまではその開票区の投票人名簿に載った人に限られていた。改正後は、開票区の区域の全部か一部を含む市町村の名簿に載った人から届け出られる。また、都道府県の選挙管理委員会が市町村の区域を分けたり、複数の市町村を合わせたりして開票区を設けた場合に、それが投票日の2日前から前日までなら市町村の選挙管理委員会が、投票日以後なら開票管理者が、3人以上10人以下の開票立会人を選んで立ち会わせなければならないと定めた。
2つ目は投票立会人の要件の緩和だ。市町村の選挙管理委員会は、その投票区の名簿に載った人に限らず、国民投票の投票権を持つ人の中から投票立会人を選べるようになる。
3つ目は広報の手段の追加だ。憲法改正案を国民に知らせるための放送は、これまでAM放送(中波放送)の設備を使うものだったが、FM放送(超短波放送)の設備でも流せるようにした。
政令は選挙で先に改めた仕組みを持ち込む
10月30日に公布された政令などは、改正法の施行に伴って細かな手続きを定めたものだ。総務省が公表した「意見及び総務省の考え方」によると、多くの項目は公職選挙法施行令を改めた過去の政令(令和元年政令第15号、令和4年政令第172号と第387号、令和6年政令第11号)の内容を、国民投票の手続きに反映するものだと説明している。選挙ではすでに使われている仕組みを、国民投票にもそろえる形になる。
主な項目は次のとおりだ。開票立会人については、元の開票区で立会人として届け出られていた人を原則として新しい開票区の立会人に選び、同じ政党などに属する人が3人以上いる場合はくじで2人以下に絞る。総務省は、荒天で投票箱を送れない離島に急いで開票区を設ける場合などを想定していると説明した。
不在者投票では、天災などで本来の投票区の投票管理者に票を送れないとき、市町村の選挙管理委員会が指定した投票区の投票管理者に送れるようにする。投票所の責任者である投票管理者は交替制を認め、投票録に職務を行った時間を書き、引き継ぎの書類を添える。総務省は、投票管理者の適任者を確保しにくくなっていたことを背景に挙げた。
投票管理者や開票管理者などを選んだときに告示する住所は、全部を示すと支障がある場合に一部だけの告示で代えられるようにする。住居が特定されることへの不安から、選任を断られる例が増えていたという。病院や介護施設での不在者投票では、施設長の職務代理者に医師以外の人もなれるようにする。介護老人保健施設や介護医療院では、医師以外の人が施設長になり得るためだ。
期日前投票と不在者投票の宣誓書は、どの事由に当たるかを選ばせる形から、いずれかに当たる見込みだと包括的に宣誓する形に改める。使われなかった投票用紙の保存期間は、国民投票の効力が確定するまで(訴訟の出訴期間が過ぎる日か、訴訟が終わる日のどちらか遅い日まで)に短くする。これまでは訴訟が終わった日か、投票日から5年を経た日のどちらか遅い日までだった。それ以外の書類の保存期間は変えない。
海外に住む有権者の手続きも改める。在外投票人証は、市町村の選挙管理委員会が送ったデータを在外公館で印刷して渡せるようにする。在外投票人名簿への登録申請書は、在外公館が電子データで送る場合に外務大臣を経由しなくてよくなる。書面での申請も引き続きでき、その場合は従来どおり外務大臣を経由する。
意見1万7737件、案の修正は「無」
総務省は政令案などについて、8月26日から9月24日まで意見を公募した。寄せられた意見は1万7737件に上った。公表された資料では、26の項目ごとに意見の概要と総務省の考え方を示し、すべての項目で「提出意見を踏まえた案の修正の有無」を「無」としている。
項目別の件数は次のとおり。1つの意見が複数の項目に触れている場合は重複して数えているため、合計は提出件数と一致しない。
| 意見の項目 | 件数 |
|---|---|
| 国民投票制度の透明性 | 9,742 |
| 投票に関する書類等の保存期間の見直し | 7,360 |
| 意見公募の実施方法 | 6,469 |
| 開票区の変更や開票立会人 | 4,500 |
| 在外投票書類の電子化 | 3,729 |
| 投票管理者の交替制 | 2,900 |
| インターネット広告・生成AI画像等の規制 | 2,355 |
| 最低投票率 | 2,302 |
| 投開票作業の透明性確保 | 2,271 |
| 在外投票人名簿登録申請書等の送付方法 | 1,328 |
| 病院の不在者投票管理者の職務代理者 | 1,282 |
最も多かったのは、憲法改正に関わる手続きでは拙速な変更や利便性だけを求めた簡素化を避けるべきだとする意見で、9742件だった。総務省はこれに「御意見として承ります」と答えた。
個別の項目では、総務省が反論や説明を加えたものがある。投票用紙の保存期間の短縮には「不正を隠すために書類が処分される可能性がある」といった懸念が寄せられた。総務省は、改正後も効力が確定するまでは保存するため事後の検証はできると説明した。生成AIを使うことに反対する意見には、今回の改正で生成AIを使うわけではないと答えた。書類を電子データで保存できるようにすべきだとの提案には、保存した書類が本物かどうかを確かめる点などに課題があるとした。
病院での不在者投票の職務代理者を広げることに「不正投票の増加につながる」と反対する意見もあった。総務省は、職務代理者は院長の職務を代理する人であるという基準は変わらず、不在者投票の管理を「広範な者」に任せるものではないとして、懸念は当たらないとした。投票の際に投票権を持つ人を立ち会わせる決まりがあることも挙げた。
在外投票人名簿の申請書が外務大臣を経由しなくなる点には、中間での確認がなくなるとの指摘があった。総務省は、外務大臣を経由していたのは確認のためではなく、外交行囊を使って書面を確実に早くやり取りするためだったと説明した。電子データは一定のセキュリティー水準を満たす回線で送るとしている。
意見公募の進め方そのものへの批判も6469件あった。広く周知されておらず不信感を抱いているといった声に対し、総務省は行政手続法の規定に沿って30日以上の期間を設け、公示日の前日に報道発表もしたとして、適切に実施したと答えた。
対象外の論点にも多くの意見
今回の政令案などの対象ではない論点にも、多くの意見が集まった。インターネットやSNSの広告を規制し、広告主や資金の透明性を確保すべきだとする意見や、生成AIによる偽情報への対策を求める意見は2355件あった。国民投票の有効性を担保するために最低投票率を設けるべきだとする意見も2302件あった。投票所での本人確認を身分証明書などで厳格に行うよう求める意見、災害時の投票方法をあらかじめ定めるよう求める意見も出た。
総務省はいずれにも「御意見として承ります」と答えるにとどめた。今回の政令などの改正はこれらを扱っておらず、改正法も立会人の選び方や広報の手段など投票と開票の事務を見直すもので、これらの論点は含まれていない。
国民投票法は2007年に制定された(平成19年法律第51号)。e-Gov法令検索の改正履歴によると、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」の題名で改正されるのは、2021年の改正(令和3年法律第76号)以来となる。今回の施行で、開票立会人の選び方や在外投票の書類の送り方など、選挙と国民投票で異なっていた事務の手順の一部がそろうことになる。
選挙で使ってきた手順を国民投票へ
憲法第96条は、憲法の改正は国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を得なければならないと定めている。国民投票は主権者が憲法について直接判断する唯一の手続きで、その事務が選挙より遅れた仕組みのまま残っていれば、いざ実施するときに投票所や開票所の現場が対応できない。今回の改正は、その遅れを埋めるものと評価できる。
政令で持ち込んだ項目は、総務省の説明では2019年以降に公職選挙法施行令で先に改め、選挙の現場で使われてきた仕組みだ。投票管理者の担い手を確保しにくい、住所の告示を理由に選任を断られる、荒天で離島から投票箱を送れないといった事情は、市町村の選挙管理委員会が実際に抱えてきたものである。意見で最も多かった「拙速な変更を避けるべきだ」という主張に対しては、国民投票だけ古い手順で行う方が現場の混乱と誤りを招きやすいという点を示せる。
一方、ネット広告の規制や最低投票率は、寄せられた意見の数から見ても関心が高い。これらは国民投票の結果の重みや運動のあり方に関わる論点で、政令ではなく法律の議論になる。投票と開票の事務がそろった今、国会の憲法審査会がこうした論点をどう扱うかが次の焦点となる。
