厚生労働省は10月9日、全国の市町村職員を対象とする第188回市町村セミナーを開き、テーマに「頼れる身寄りがいない高齢者等への支援」を取り上げた。セミナー自体は率直な意見交換を確保するため非公開としたが、老健局と社会・援護局が用意した行政説明の資料は公表された。資料は、社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)で新しく設けられる支援の枠組みと、令和9年度の予算要求の中身を示している。

入院の手続や死後の事務を「社会福祉事業」として扱う

改正法は、頼れる身寄りがいない高齢者等への支援の充実を柱の一つに挙げている。日常の金銭管理をはじめとする日常生活支援、入院・入所の手続支援、死後の事務支援などを、利用者のうち一定割合以上に無料または低額で提供する事業を第二種社会福祉事業として位置付け、多様な主体が支援を担えるようにする。厚労省の資料は、想定される生活上の課題として「緊急連絡先がなく、入院等の手続が進められない」「医療費等の支払いが難しい」「亡くなった後の手続きを行う人がいない」「空き家や家財の処分ができない」の4つを挙げている。

これまで同じ領域を担ってきたのは「福祉サービス利用援助事業」で、対象は判断能力が不十分な人に限られ、中身も福祉サービスの利用援助、日常的金銭管理、書類等の預かりの3つだった。新しい「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」はここに頼れる身寄りがいない高齢者等を加え、手続支援や緊急連絡先の提供、費用の支払代行といった入院入所等手続支援と、葬儀や納骨、家財処分の契約手続、行政への届出といった死後事務支援を足す。利用料は、資力の要件に該当する人は無料または低額となる。

現場の規模はまだ小さい。既存の事業にあたる日常生活自立支援事業の実利用者数は、令和7年度末で5万7185人である。内訳は認知症高齢者が2万181人(35.3%)、知的障害者が1万5146人(26.5%)、精神障害者が1万9003人(33.2%)、その他が2855人(5.0%)。平成28年度末の5万1828人から10年かけて5千人余り増えた水準にとどまる。実施体制は都道府県・指定都市の社会福祉協議会が主体で、基幹的社会福祉協議会等が1640か所、専門員4784人、生活支援員1万6774人。1人あたりの利用は1か月に平均約2回、利用料は1回平均1200円だという。令和8年度の予算は38億円で、前年度当初と同額だった。

相談の受け皿を3分野で明確にし、市町村に加算を付ける

もう一つの見直しは相談体制である。頼れる身寄りがいない高齢者等からの相談対応を、高齢者分野では地域包括支援センターの総合相談支援事業、生活困窮分野では生活困窮者自立相談支援事業、障害福祉分野では障害者相談支援事業の対象として明確化する。どの窓口に行っても断られない状態をつくる狙いだ。施行日は、第二種社会福祉事業への位置付けが法律の公布後2年以内に政令で定める日、相談体制の明確化が令和9年4月1日とされている。同じ改正法には、有料老人ホームに登録制、厚労省が基準案 系列の介護事業所の利用を入居条件にするのは禁止 居室は原則個室で1人13平方メートル以上で扱った有料老人ホームの登録制度も含まれる。

ただ、受け皿に指定される地域包括支援センターには余力が乏しい。令和7年度の老人保健健康増進等事業の調査(2217センターが回答、中間結果)では、地域ケア会議の議論を踏まえた資源開発が行えていると答えたのは約3割だった。行えない理由として挙がったのは、センター職員の業務量過多・人員不足が66.3%、連携できる機関がないなどの地域資源の不足が59.5%、市町村職員の理解・協力不足が34.4%、地域住民の理解・協力不足が33.1%、活動資金の不足が32.4%である。

そこで厚労省は令和9年度概算要求に、課題解決の体制をつくった市町村へ加算を付ける仕組みを盛り込んだ。地域支援事業1858億円の内数と事項要求で、生活支援コーディネーター等を配置した場合の加算が800万円、法律専門職や金融機関、交通事業者といった他分野・他機関の地域ケア会議への参画促進加算が1回2万円、成年後見制度に係る協議会など他の会議体との連携体制構築加算が1連携先あたり30万円、検討体制の設置加算が地域包括支援センター1か所あたり83万3千円。国の交付率は38.5%となる。権利擁護支援の体制確保と身寄りがいない高齢者等の支援を合わせた予算要求は66億円で、前年度当初の46億円から2割以上増える。

単身高齢世帯は2040年に1041万、男性の23.1%は頼れる人が「いない」

制度を急ぐ背景には世帯構成の変化がある。社人研の推計では、高齢者の単身世帯は2020年の738万世帯(全世帯の13.2%)から2040年には1041万世帯(18.6%)へ増え、2050年には約20%に達する見込みだ。一人暮らしそのものの広がりは一人暮らしの世帯が2368万9024で全体の41.4% 5年で253万7982増 1世帯当たりは2.10人に 核家族は2010年以降で初の減少で全数調査としても確認されている。

数の問題だけではない。社人研が2022年7月に実施した「生活と支え合いに関する調査」では、「日頃のちょっとしたことの手助け」で頼れる人がいるかを尋ねたところ、「いない」と答えた割合は全体で9.4%だったのに対し、高齢の単身男性世帯では23.1%に上った。高齢の単身女性世帯の7.2%と比べて3倍以上で、一人暮らしの高齢男性に支援の空白が集中していることになる。65歳以上の人口は2025年に3653万人(総人口の29.6%)で、2043年に3953万人でピークを迎えると見込まれている。

民間事業者は400社超、業界団体が8社を認定

家族が担ってきた役割を有償で引き受ける民間の「高齢者等終身サポート事業」も増えている。セミナーで事例発表した一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会(全終協)の資料によると、国が注意喚起の通知を出したあとも事業者は5年間で4倍以上に増え、400社を超えた。公益財団法人の破綻で利用者が被害を受ける消費者問題も起きている。

国は2024年6月11日、内閣官房や金融庁、消費者庁、法務省、厚労省など9府省庁の連名で「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を公表した。契約内容の適正な説明や提供記録の作成・保存、寄附・遺贈を契約条件にしないことなどを求める内容だが、国の資料は認定制度については「検討する」と記すにとどまる。これを待たず、全終協は2025年8月の設立後、ガイドラインのチェックリストに107項目を上乗せした審査と外部審査員による面談を課す独自の優良事業者認定制度を始め、2026年9月25日に第一期の8事業者を正会員として認定した。国の制度ではなく業界団体の自主的な取り組みである点には注意が必要だ。

市町村セミナーは平成11年4月から続く市町村厚生労働行政交流研修事業で、令和7年度までに計184回開かれている。令和8年度は7回を予定し、10月9日の第188回に続いて、高齢者虐待防止法の施行20年を扱う第190回も組まれている。