厚生労働省は、平成25年から実施した生活扶助基準の引き下げを違法とした最高裁判決を受けて行っている保護費の追加給付について、給付決定の状況を公表した。追加給付を決めた世帯は、2026年8月末までの累計で110万6442世帯だった。訴訟の原告に対して国が上乗せで支給する「特別給付金」は、10月末までの累計で186人に支給が決まった。資料は「令和8年10月末時点」としてまとめられている。追加給付は3月から自治体ごとに順次始まっており、8月からは、いま保護を受けていない世帯からの申し出の受け付けも始まっている。
追加給付110万世帯、特別給付金186人
公表された資料は1枚で、数字は2つだけ載っている。
一つは、生活保護法に基づく生活扶助費の追加給付を決めた世帯の数で、8月末までの累計が110万6442世帯。もう一つは、原告に支給する特別給付金の給付決定人数で、10月末までの累計が186人。追加給付は世帯単位、特別給付金は人単位で数えており、集計の時点も2か月ずれている。
参考として、同じ厚労省の被保護者調査によると、2026年7月時点で生活保護を受けている世帯(保護停止中を含む)は164万4102世帯、受給者は196万9655人だった。ただし、追加給付の対象は平成25年8月以降に保護を受けていた世帯で、すでに保護をやめた世帯も含む。逆に、平成25年8月以降の対象期間に一度も保護を受けていない、最近受給を始めた世帯は対象にならない。このため、110万6442世帯を現在の受給世帯数で割っても、対象世帯のうちどれだけに支給が決まったかを表す割合にはならない。
厚労省の資料には、対象となる世帯の総数の見込みや、支給を決めた金額の合計は書かれていない。現在受給中の世帯と、受給をやめてから申し出た世帯の内訳も示されていない。
4.78%の引き下げを2.49%に置き換えた差額
国は平成25年度から3年かけて、生活保護のうち食費や光熱水費などに充てる生活扶助の基準を引き下げた。その柱の一つが、物価の下落分を反映させる「デフレ調整」で、改定率はマイナス4.78%だった。もう一つは、年齢や世帯人数、地域ごとの基準額の差を一般の低所得世帯の消費実態に合わせる「ゆがみ調整」である。
最高裁は2025年6月27日、大阪と名古屋の訴訟の判決で、デフレ調整について「厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があった」として違法と判断し、原告らへの当時の減額決定を取り消した。一方、ゆがみ調整については、判断に統計などとの関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいえないとした。国への賠償請求は退けた。
これを受けて厚労省は2025年8月、社会保障審議会生活保護基準部会に専門委員会を置いて対応を検討し、11月18日に報告書がまとまった。11月21日に公表した対応の方向性で、デフレ調整のマイナス4.78%を、消費実態に基づく「高さ調整」のマイナス2.49%に置き換え、その差額を原告かどうかを問わず一律に追加で支給すると決めた。ゆがみ調整は判決で違法とされていないため、追加給付の対象にしていない。
費用は2025年度補正予算に計上した。補正予算案の段階の内訳は計1475億円で、保護費の追加給付に1055億円、自治体の支給事務への補助に401億円、相談センターの設置などに17億円、原告への特別給付に2億円。補正予算は2025年12月16日に成立した。2026年2月20日に、平成25年8月から令和8年3月までの保護の基準の特例を定める厚労省告示が公布され、3月1日から適用されている。
最高裁は2026年10月23日にも、秋田など4件の同種訴訟で引き下げを違法とする判決を言い渡した(生活保護費の引き下げ、最高裁が4件で違法と判断 秋田・佐賀・兵庫・熊本の受給者が逆転勝訴)。
1世帯あたりの額、都市部の単身60代で10.5万円
追加給付の額は、当時の年齢、世帯の人数、住んでいた地域、保護を受けていた期間、加算の有無によって異なる。厚労省は、平成25年8月から令和8年3月まで続けて居宅で保護を受けていた世帯について、次の例を示している。
| 世帯の例 | 都市部(1級地-1) | 地方部(3級地-2) |
|---|---|---|
| 60歳代の単身 | 10.5万円 | 8.5万円 |
| 30歳代の夫婦と4歳の子ども1人 | 20.4万円 | 16.1万円 |
出典: 厚生労働省「最高裁判決を踏まえた保護費の追加給付額の例・対象期間」
額の大半は平成27年4月から平成30年9月までの42か月分で、都市部の60歳代単身の例では10.5万円のうち8.1万円を占める。引き下げは3年かけて段階的に行われたため、従来の水準に上乗せする率も、平成25年8月からが0.8%、平成26年4月からが1.6%、平成27年4月からが2.4%と段階を踏んでいる。
食費などに充てる第1類・第2類の基準額は、平成30年10月の基準改定で水準が見直されたため、対象は平成30年9月まで。居宅の冬季加算は平成27年9月まで、在宅者の母子加算は平成30年9月までが対象となる。12月に支給する期末一時扶助や、障害者加算、妊産婦加算など、その後に水準の見直しが行われていないものは令和8年3月までが対象となる。厚労省は、加算を受けていた世帯や、入院患者日用品費が支給されていた世帯は、例示の額より多くなるとしている。
原告の特別給付金は「高さ調整なし」の水準まで
原告に限っては、追加給付に加えて特別給付金を支給する。厚労省は、これまでの争訟の経緯を踏まえて「紛争の一回的解決」を図るためだと説明している。支給額は、ゆがみ調整だけを行い高さ調整をしなかった場合の水準と、マイナス2.49%の水準との差額。追加給付と同じく段階に応じて率を定め、平成25年8月からが0.87%、平成26年4月からが1.74%、平成27年4月からが2.61%となっている。
さらに、保護費の追加給付額とこの差額の合計に対し、当時の法定利率である年5%で計算した利息相当分も上乗せする。支給するのは自治体ではなく厚労省で、原告は訴訟で被告となった自治体に申請書を出す。原告と同じ世帯で追加給付を受けた人の分も含めて支給する。
期末一時扶助については、平成25年の改定でデフレ調整のマイナス4.78%を初年から全額反映していたため、平成25年12月から令和7年12月までの支給分に一律2.61%を適用する。複数の自治体で保護を受けていた原告は、被告自治体以外での追加給付の決定額も算定に使う。厚労省は申請を審査したうえで、支給対象者には支給通知書を、対象にならない人には不支給通知書を送る。原告への特別給付に充てる費用として、補正予算案には2億円が計上されていた。
特別給付金は法的には贈与契約で、行政処分ではないため不服申し立ての対象にはならない。生活保護の収入としては扱わず、自立更生に充てるよう助言することとされている。
いま受給していない世帯は申し出が必要
現在保護を受けている世帯には、自治体が準備の整ったところから3月以降に順次支給しており、手続きは要らない。
一方、すでに保護をやめた世帯は、当時保護を受けていた自治体に申し出なければ受け取れない。申し出るのは当時の世帯主で、受付期間は2026年8月1日から2027年7月31日まで。複数の自治体で保護を受けていた場合は、自治体ごとに申し出る必要がある。申出書のほか本人確認書類、全世帯員の戸籍謄本の写しなどを付ける。受付の方法は郵送、電子申請、窓口のいずれかで、自治体ごとに異なる。厚労省は、追加給付相談センター(フリーダイヤル0120-179-445)を設けている。
保護を受けていた本人がすでに亡くなっている場合、遺族には支給しない。厚労省は、生活保護を受ける権利は本人だけのものだとした朝日訴訟の判決を理由に挙げている。外国人の受給者は、平等原則の観点から行政措置として対象に含める。中国残留邦人等への支援給付など、生活保護と同様の給付を行う制度でも同じように追加給付を行う。
今回の資料で、現在受給中の世帯と、受給をやめて申し出た世帯の内訳は分からない。申出の受付は始まって3か月で、期限まで9か月ある。受給をやめた世帯の多くは、自分が対象だと知らなければ申し出ることができない。申し出た世帯の数と、自治体ごとの支給の進み具合を国が示せば、周知が届いているかどうかを確かめられる。
