厚生労働省は10月26日、確定拠出年金法施行規則の一部を改正する省令案を公表し、電子政府の窓口「e-Govパブリック・コメント」で意見の募集を始めた。企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)で、老齢給付金や脱退一時金の支給の請求、個人別管理資産の移換の申出などを、紙の書類に加えて電子で出せるようにする。請求の際に署名用電子証明書で生年月日を確かめられた場合は、戸籍の謄本や市町村長の証明書など、生年月日を証する書類の添付を要しないとする。給付の内容を受給者に「文書で」知らせるとしている規定も削り、電子での通知を可能にする。公布は12月下旬、施行は2027年1月1日の予定で、意見は11月24日午後11時59分まで受け付ける。
請求や申出を電子でも 対象は7つの手続き
厚労省年金局企業年金・個人年金課がまとめた案の概要によると、改正の趣旨は、加入者の記録を管理する記録関連運営管理機関などの「事務手続の負担を軽減すること等」で、施行規則に定める諸手続を簡素化する。概要に挙がった改正点は次のとおりである。
| 施行規則の条 | 手続き | 改正の内容 |
|---|---|---|
| 第15条の2 | 記録のみ有する人の記録管理の申出(企業型の章) | 電子での提供を追加 |
| 第22条 | 給付に関する通知 | 「文書で」の規定を削除 |
| 第22条の2 | 老齢給付金の支給の請求 | 電子での提供を追加・生年月日の書類を省略可 |
| 第56条の2 | 記録のみ有する人の記録管理の申出(個人型の章) | 電子での提供を追加 |
| 第63条 | 個人別管理資産の移換の申出 | 電子での提供を追加 |
| 第69条の2 | 脱退一時金の支給の請求(企業型) | 電子での提供を追加・生年月日の書類を省略可 |
| 第70条 | 脱退一時金の支給の請求(個人型) | 電子での提供を追加・生年月日の書類を省略可 |
出典: 厚生労働省「確定拠出年金法施行規則の一部を改正する省令案について(概要)」、確定拠出年金法施行規則
概要は、電子での提出を「電子情報処理組織を使用する方法により提供すること」と書いている。書面の代わりにデータを送って届け出る方法を指す。生年月日の書類を省くのは、老齢給付金と2種類の脱退一時金の請求で、いずれも「署名用電子証明書の送信をすることにより生年月日の確認が行われた場合」に限るただし書きを加える。署名用電子証明書は地方公共団体情報システム機構が発行する電子証明書で、同機構の認証業務を定める法律には、マイナンバーカード(個人番号カード)用の区分がある。根拠条項は確定拠出年金法第33条第1項と第116条で、このほか「所要の改正」も行う。
いまの規則は紙の請求書と書類の添付が前提
現行の施行規則を読むと、改正の対象がどこにあるかが分かる。第22条の2第1項は、老齢給付金の支給の請求を「請求書を企業型記録関連運営管理機関等に提出することによって行う」と定める。同条第2項は、その請求書に戸籍の謄本か抄本、市町村長(特別区の区長、指定都市の区長などを含む)による生年月日の証明書、その他の生年月日を証する書類を「添付しなければならない」としている。
給付の結果を知らせる側も紙が前提になっている。第22条は、記録関連運営管理機関などが給付の裁定などの処分をしたときは「速やかに、文書でその内容を請求者又は受給権者に通知しなければならない」と定める。改正案はこの「文書で」の部分を削る。
これらの規定は企業型の章に置かれているが、施行規則第59条は、第22条の2第3項と第4項を除き、企業型の「給付」の節の規定を個人型年金の給付にも準用している。iDeCoの老齢給付金の請求と給付の通知にも、同じ規定が当てはまる仕組みである。
脱退一時金は、確定拠出年金法の附則で「当分の間」認められている給付で、企業型は附則第2条の2、個人型は附則第3条に、請求できる人の要件が並ぶ。施行規則第69条の2と第70条は、その請求を請求書の提出で行うと定めている。個人型の請求先は、運用の指図だけを続けている人なら個人型記録関連運営管理機関、それ以外の人なら国民年金基金連合会である。
資産の移換は、転職などで確定拠出年金の資産を別の制度へ移す手続きを指す。第63条は、法第80条第1項に掲げる人が企業型DCの加入者となって資産の移換を申し出る場合、届出書を移る先の企業型年金の記録関連運営管理機関などに提出するとしている。第15条の2と第56条の2は、確定拠出年金の個人別管理資産がなくなった後も、加入していた記録の管理を申し出る「記録のみ有する者」についての規定である。
iDeCoの加入申出は既に電子で 見直すのは受け取りと移換の側
確定拠出年金の手続きがすべて紙というわけではない。iDeCoへの加入は、法第62条第1項で、国民年金基金連合会に申し出て加入者になると定められている。その申出について施行規則は、連合会に申出書を提出するか、記載事項を「電子情報処理組織を使用する方法により提供すること」によって行うとしている。氏名や住所が変わったときの届出なども、同じく電子で出せる規定になっている。
国民年金基金連合会が公表している加入者数の集計でも、新規加入者の注記に「オンライン提出の場合は当月末3営業日前」までの受け付け分を数えると書かれており、加入の入り口では既にオンラインの手続きが使われている。
これに対し、今回の改正案が対象とするのは、主に資産を受け取る段階と、制度の間で資産や記録を引き継ぐ段階の手続きである。加入は電子で済んでも、60歳を過ぎて老齢給付金を請求するときには紙の請求書と戸籍などの書類が要る、という差を埋める内容になっている。
老齢給付金をいつから請求できるかは、確定拠出年金法第33条第1項が定めている。加入者だった期間などを合わせた「通算加入者等期間」が、60歳以上61歳未満なら10年以上、61歳以上62歳未満なら8年以上、62歳以上63歳未満なら6年以上、63歳以上64歳未満なら4年以上、64歳以上65歳未満なら2年以上、65歳以上なら1か月以上あれば、請求できる。同項のただし書きは、60歳以上75歳未満の人について、この期間が無くても、加入者となった日などから5年を経過すれば請求できるとしている。
加入者は企業型862万人、iDeCo406万人
手続きの電子化が及ぶ範囲は広い。国民年金基金連合会の集計によると、iDeCoの加入者は2026年8月末時点で406万1606人だった。2024年3月末の328万4971人から、2年5か月で約77万7000人増えた。内訳は、第2号加入者が347万4540人で最も多く、第1号加入者が41万7985人、第3号加入者が15万4723人、第4号加入者が1万4358人である。
企業型DCの加入者は、厚労省が掲載している運営管理機関連絡協議会の「確定拠出年金統計資料」によると、2025年3月末で862万582人だった。2021年3月末の750万2164人から4年で約112万人増えている。
受け取る側の人数は加入者に比べて少ない。同じ統計資料によると、2025年3月末の受給者数は、企業型の老齢給付金が9万7251人、脱退一時金が1万394人で、iDeCoの老齢給付金は4万2338人だった。ただ、iDeCoの老齢給付金の受給者は2021年3月末の3万12人から4年で約1.4倍になり、企業型の老齢給付金の受給者も同じ期間に7万7106人から約1.26倍に増えた。
公的年金を主な収入とする高齢世帯の家計については、高齢夫婦の生活費は月26万3979円、年金中心の手取りでは毎月4万2434円の赤字 2025年家計調査にまとめている。
施行は2027年1月1日 意見は11月24日まで
案の概要によると、公布は12月下旬の予定で、施行日は2027年1月1日である。e-Govの案件ページでは、案の公示日と受付開始が10月26日、受付締切が11月24日午後11時59分となっている。案件番号は495260238で、行政手続法に基づく手続きとして行う。問い合わせ先は厚労省年金局企業年金・個人年金課である。
意見を出す前に、意見募集要領と命令などの案の全部を確認するよう、案件ページは求めている。今回公表されたのは改正の概要で、電子で受け付ける具体的な仕組みや、記録関連運営管理機関などがいつから電子の受け付けを始めるのかは、概要には書かれていない。
施行規則の改正は、電子で提出することを認める規定を置くものである。実際にオンラインで請求できるかどうかは、加入している企業型年金やiDeCoの記録関連運営管理機関、国民年金基金連合会が受け付けの仕組みを整えるかどうかにもよる。改正が施行されても、紙の請求書を出す方法は残る。生年月日の書類を省けるのも、署名用電子証明書で生年月日が確かめられた場合に限られる。60歳を前に受け取りを考えている加入者は、施行後に自分の運営管理機関がどの手続きを電子で受け付けるかを確かめる必要がある。
