政府は10月28日、年末を目途に策定する「人口総合戦略」の中身を詰めるため、「人口総合戦略に関する関係副大臣等会議」の初会合を東京・永田町の中央合同庁舎8号館で開いた。会議は午後4時30分から40分間。事務局は戦略の検討の進め方の案を示し、戦略には基本理念と基本目標、人口の将来シミュレーション、総合的な政策の体系、推進体制の四つを盛り込むとした。将来シミュレーションでは、2025年の合計特殊出生率1.14を基準に、それより高い水準と低い水準の筋書きを置く案を示した。
副大臣級の会議と有識者会議を新設
二つの会議は、首相を本部長とする人口戦略本部の下に置かれる。人口戦略本部は2025年11月に設けられ、同月18日に第1回、2026年6月29日に第2回(持ち回り開催)を開いた。本部長は前日の10月27日、副大臣等会議と有識者会議の開催を決定した。事務局の資料は、第2回本部の首相指示を踏まえて「政府の推進体制を強化」するための新設だと位置づけている。
副大臣等会議の議長は、全世代型社会保障改革と経済財政政策を担当する大臣で、首相官邸の閣僚名簿によると城内実氏が務める。副議長は衆参両院から出ている2人の官房副長官と、同じ分野を担当する内閣府副大臣。構成員には、地域未来戦略、外国人との秩序ある共生社会推進、こども政策・少子化対策・若者活躍をそれぞれ担当する内閣府副大臣と、デジタル副大臣が名を連ねる。議題に応じてほかの副大臣も出席する。初会合には内閣官房の成長戦略事務局や地域未来戦略本部事務局、外国人との秩序ある共生推進室、こども家庭庁、デジタル庁、厚生労働省が資料を出した。運営要領の案は、会議の議事要旨を公表するとしている。
有識者会議の構成員は14人。国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆・人口動向研究部長のほか、樋口美雄・慶応大名誉教授、中室牧子・慶応大教授、山口慎太郎・東京大教授、増田寛也・野村総合研究所顧問、上野山勝也・PKSHA Technology代表取締役らが入った。座長は構成員の互選で決める。
検討の手順は3段階に分けた。まず副大臣等会議が戦略の方向性を整理し、それを踏まえて有識者会議が専門的な見地から議論する。その議論を受けて副大臣等会議が戦略の原案をまとめ、戦略を決める。途中で地方団体や労使団体からも意見を聴き、聴取の場は二つの会議の合同開催を想定している。
「1.14」を基準に、希望出生率1.4程度も筋書きに
戦略の柱の一つになるのが、人口動態の将来シミュレーションだ。資料4は、国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」を土台にしつつ、複数のシナリオを含むシミュレーションを示すのが適当ではないかと提起した。狙いは日本の状況を「見える化」し、官民で共通の認識を持つことにあるとしている。
出生率の前提は、2025年の実績の1.14を基準に、より高い水準と低い水準を含める案だ。さらに、結婚や妊娠、出産の希望が社会全体としてかなった状態の目安として、「国民希望出生率」(2025年は1.4程度)を筋書きの一つに盛り込むことを挙げた。外国人の数は、将来推計人口の手法を踏まえ、過去の推移などを考慮して置くとした。
出生率の水準の比較
数値で見る
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 2025実績 | 1.14 |
| 推計前提 | 1.36 |
| 希望出生率 | 1.40 |
ここでいう将来推計人口の中位推計は、2070年の出生率を1.36と置き、同年の総人口を約8700万人と見込んでいる。足元の実績の1.14はこの前提を下回っている。
人口だけでなく、労働力人口の動向や、AIが就業者の数に与える影響、経済成長の姿も示す方向だ。その際は、労働政策研究・研修機構の「労働力需給の推計」、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」といった既存の政府推計を活用するとしている。骨太方針2026も、将来必要となる労働力人口の規模を多角的に検討すると明記していた。
四つの方向と「横ぐし」の視点
基本理念と基本目標は、人口減少の加速、少子化に伴う生産年齢人口の減少と高齢化率の上昇、地方でのより急速な人口減少という三つの変化を踏まえて定める。そのうえで「少子化傾向の反転」「人材希少社会における社会経済の活力維持」「全世代型社会保障の構築」「持続可能な地域社会の構築」の四つを基本的な方向性とした。これは7月に閣議決定した骨太方針2026の4本柱と同じだ。有識者会議には、地域や世代の間に分断を生まず、あらゆる地域と世代に届く「包摂的なメッセージ」のあり方を議論するよう求めた。
政策の体系の例として資料は、少子化対策の強化、労働市場改革と人材育成(日本成長戦略)、外国人との秩序ある共生、就業者負担軽減支援金の導入、全国各地への産業クラスターの整備(地域未来戦略)、地域サービスの維持を並べた。支援金は、食料品消費税1%と支援金の法案、国会に提出 支援金の額と所得の線引きは政令に委ねるで伝えた法案に盛り込まれた給付である。分野をまたぐ「横ぐしの視点」としては、若者世代、女性の働き方、変化する価値観への対応、客観的なデータに基づく取り組み、人口減少を前提とした制度の設計や見直し、技術革新の最大活用、地域の実情に即した政策展開などを挙げた。
戦略の性格については、全体像と大きな方向性を示すものとし、個別の施策の検討と具体化は戦略を決めた後に各分野の会議で行うと整理した。推進体制では、施策が戦略と整合して分野横断的に実施されているか、進み具合と効果をどう把握して改善につなげるかを論点に挙げ、人口減少・少子化対策の効果を検証する調査研究を強化する考えも示した。
人口減少の現状と、これまでの対策
事務局が示した資料3は、現状を数字で整理した。総人口は2008年の1億2808万人をピークに減り、2025年は1億2297万人と2020年より2.5%少ない。2025年の出生数は67万1000人、合計特殊出生率は1.14で、いずれも過去最少だった。
資料は出生数の減少を、女性の数そのものの減少、結婚の減少、夫婦が持つ子どもの数の減少の三つの要因に分けて示した。50歳時点で結婚したことがない人の割合は、2025年に男性29.9%、女性19.6%。「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者は、2010年の男性86.3%、女性89.4%から、2025年には男性75.1%、女性77.8%に減った。夫婦の最終的な平均の子ども数は、かつての2.2人から2025年に1.86人まで下がった。外国人人口は2025年に384万人だった。高齢者は960万人で、労働力人口のおよそ7分の1にあたる。
政府の人口減少対策は少子化対策から始まった。1989年の合計特殊出生率が、丙午(ひのえうま)の1966年の1.58を下回った「1.57ショック」を受けて、1994年のエンゼルプラン以降、待機児童対策や児童手当、育児休業などが講じられた。2014年には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定され、2016年には「ニッポン一億総活躍プラン」がまとまった。資料は、こうした戦略が少子化対策や地方創生など分野ごとに進められてきた経緯を示している。今回の戦略は、首相が10月5日の所信表明演説で年末の策定を表明したもので(「人口総合戦略」を年末に策定 高市首相が所信表明演説 人口減少を「静かに進む国難」と位置づけ 「外国人の受入れの基本的な在り方」も検討)、資料4は「縦割りを排し、分野横断的な取組を持続的に推進するための大きなビジョンを示す」としている。
外国人受け入れの基本方針と並行
戦略づくりは、外国人の受け入れに関する別の検討と並行して進む。資料4は、政府が作業中の「外国人の受入れの基本的な在り方に関する基本方針」の検討と連携を図るとした。工程表では、外国人の受け入れのあり方を議論する作業部会の検討結果も考慮して戦略を策定するとしている。
官房長官は7月24日の関係閣僚会議で、担当大臣に対し、在留管理の適正化や日本語・制度を学ぶプログラム創設の効果なども踏まえた「基本方針」を「本年度中に」取りまとめるよう指示した。その際、人口戦略本部が策定する戦略との「整合性を確保」するよう求めている。人口総合戦略が年末に、外国人の受け入れの基本方針が年度末にかけてまとまる順番となる。
骨太方針2026は戦略の策定時期を「2026年末を目途」と定めている。残りは約2か月で、その間に有識者会議の議論と、地方団体・労使団体への聴取を経て原案をまとめることになる。将来シミュレーションでどの出生率と外国人数を前提に置くか、労働力人口の必要な規模をどう示すかが、今後の会合で議論される。
