政府は10月20日の定例閣議で、「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律第14条第1項の政令で定める市を定める政令」を決定した。所管はこども家庭庁、財務省、厚生労働省。来年4月1日に施行される改正法は、たんの吸引や経管栄養などが日常的に必要な子どもと家族の相談先となる支援センターを指定できる立場を、いまの都道府県知事から都道府県、指定都市、中核市その他の政令で定める市、特別区の長へ広げる。今回の政令は、このうち「政令で定める市」の範囲を決めるものにあたる。

根拠は改正法第14条第1項 指定できる立場を都道府県から広げる

いまの医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)第14条第1項は、「都道府県知事は、次に掲げる業務を、社会福祉法人その他の法人であって当該業務を適正かつ確実に行うことができると認めて指定した者(以下『医療的ケア児支援センター』という。)に行わせ、又は自ら行うことができる」と定めている。センターを指定できるのも、自ら業務を行えるのも都道府県知事だけという立て付けだ。

これを改めたのが、第221回特別国会で成立した医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第77号)である。7月31日に公布され、来年4月1日に施行される。改正後の第14条第1項は「都道府県、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市、同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市その他の政令で定める市又は特別区(以下『都道府県等』という。)の長は、次に掲げる業務を……行わせ又は自ら行うことができる」となる。あわせて法律の題名も「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律」に変わり、センターの名称も「医療的ケア児等支援センター」に改まる。

公布にあたってこども家庭庁や文部科学省、厚生労働省などの局長が7月31日付で各都道府県知事、各指定都市市長、各中核市市長、各児童相談所設置市市長らに出した通知は、この部分を「『医療的ケア児支援センター』の名称を『医療的ケア児等支援センター』に改称するとともに、それを設置することができる者を、都道府県知事から都道府県、指定都市、中核市その他の政令で定める市又は特別区……の長に拡大すること」と説明している。

項目 現行 2027年4月1日から
指定できる者 都道府県知事 都道府県、指定都市、中核市その他の政令で定める市、特別区の長
センターの名称 医療的ケア児支援センター 医療的ケア児等支援センター
支援の対象 医療的ケア児とその家族 医療的ケア児等、重症心身障害者とそれらの家族
医療的ケア児等支援センターの指定と対象の変更点出典: e-Gov法令検索「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(現行および令和9年4月1日施行版)

政令案は「中核市」を定める内容 確定本文は官報で確認できず

条文の「中核市その他の政令で定める市」という書き方は、中核市を例として挙げながら、範囲そのものは政令に委ねる形である。その政令の案は、閣議決定より前の8月25日から9月24日まで意見募集にかけられていた。

こども家庭庁支援局障害児支援課と厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課が示した「医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族に対する支援に関する法律施行令案について(概要)」は、政令案の中身を「法第14条第1項に基づく中核市その他の政令で定める市として、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の22第1項の中核市を定めることとする」と記している。公布日は「令和8年10月(予定)」、施行期日は「令和9年4月1日(法の施行日)」とされていた。この案のとおりであれば、市のうち新たにセンターを指定できるのは指定都市と中核市にとどまり、それ以外の市は含まれない。総務省のまとめによると、指定都市は20市、中核市は62市である。

ただし、閣議決定された政令の題名は「……第14条第1項の政令で定める市を定める政令」で、意見募集にかけられた「……施行令案」とは異なる。根拠条項が法第14条第1項である点、公布予定の月、施行日はいずれも一致するが、両者が同一のものかどうかは確認できていない。本紙が10月23日に確認した時点で、インターネット版官報の10月20日から22日までの本紙・号外にこの政令の公布は載っておらず、e-Gov法令検索にも登録されていない。確定した政令本文と、最終的に対象となる市の範囲は確認できていない。

いまのセンターは47都道府県のみ 市区には置かれていない

こども家庭庁がまとめた「医療的ケア児支援センター一覧」(令和8年3月時点)には、北海道医療的ケア児等支援センターから沖縄県のものまで47の都道府県のセンターが並ぶ。秋田県の「コラソン」、山形県の「にこすく」、栃木県の「くくるん」のように、相談しやすいよう愛称を付けた例が多い。群馬県や埼玉県のように、県のセンターの下に地域拠点を置く形もある。一方で、市区町村が設置したセンターはこの一覧に載っていない。いまの条文では都道府県知事しか指定できないためだ。

改正後の第14条第3項は、都道府県等の長に対し、業務をセンターに行わせたり自ら行ったりするにあたって「地域の実情を踏まえつつ、医療的ケア児等及び重症心身障害者並びにそれらの家族その他の関係者がその身近な場所において必要な支援を受けられるよう適切な配慮をするものとする」と定める。県庁所在地の1か所だけでは遠い世帯がいる、という前提に立った規定といえる。

センターの業務は第14条第1項に6号まで並ぶ。本人や家族、関係者の相談に専門的に応じて情報提供や助言を行うこと、関係機関とその職員に情報提供と研修を行うこと、関係機関との連絡調整、災害対策基本法に基づく個別避難計画の作成への協力、災害時に市町村と連携して必要な情報を提供すること、これらに附帯する業務である。7月31日付の通知によると、このうち改正で追加されたのは、進行性の疾病などで将来該当することが相当程度見込まれる人も相談の対象に含めること、個別避難計画への協力、災害時の情報提供の3つだ。

在宅の医療的ケア児は2万1496人 2007年の2.5倍

こども家庭庁が8月にまとめた「医療的ケア児の現状について」は、全国の医療的ケア児(在宅)が「2万人を超えている」とし、0〜19歳の推計値を2005年から2025年まで示している。2025年は2万1496人で、最も少なかった2007年の8438人のおよそ2.5倍にあたる。2019年に2万155人と初めて2万人を超え、2020年に1万9238人へ減った後、再び増えている。

全国の医療的ケア児(在宅・0〜19歳)の推計値(人)

5,00010,00015,00020,00025,0009,98721,4962005年2010年2015年2020年2025年
出典: こども家庭庁「医療的ケア児の現状について」(令和8年8月時点)
数値で見る(単位: 人)
項目人
2005年9,987
2010年10,702
2015年17,209
2020年19,238
2025年21,496

この推計は、厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究(田村班)」と、社会医療診療行為別統計(各年6月審査分、2024年以降は8月審査分)をもとにこども家庭庁が作成したものである。同庁は年齢階級別の傾向について「低年齢層(0〜4歳)の増加率が高く、高年齢層(15〜19歳)も着実に増加」、人工呼吸器を必要とする医療的ケア児について「全体的に一貫した増加傾向、特に2010年代後半から増加が顕著」としている。

法律が定める「医療的ケア」とは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為を指す。「医療的ケア児」は、日常生活と社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠な児童で、18歳未満の者のほか、18歳以上でも高等学校や特別支援学校の高等部などに在籍する者を含む。改正法はこれに加えて、医療的ケア児だった人で引き続き医療的ケアが不可欠な人などを「医療的ケア児等」とし、重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している「重症心身障害者」も支援の対象に加えた。

施行は来年4月1日 既存センターはみなし指定、3年後に見直し

改正法の附則は「この法律は、令和九年四月一日から施行する」と定める。施行の際に現に指定を受けている医療的ケア児支援センターは、改正後の法律第14条第1項の指定を受けた医療的ケア児等支援センターとみなされるため、47都道府県の既存の窓口が4月1日にいったん途切れることはない。附則はさらに「この法律の施行後三年を目途として、新法の実施状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講じられるものとする」として、見直しの時期も定めている。

センターの拡大以外にも、改正法には支援施策の追加が並ぶ。保育所や学校での喀痰吸引等を行える介護従事者の配置、里親などに預けられた子ども8499人、代替養育の26.3% 10年前の16.5%から上昇 登録1万8038世帯のうち実際に預かっているのは5411世帯という状況が続く社会的養護の体制拡充、生涯学習の推進、家族が休息をとるためのレスパイトや通学の支援、切れ目ない医療の提供、就労の支援、住居の確保、同じ立場の人どうしが支え合うピアサポートなどである。関係者で構成する「医療的ケア児等支援地域協議会」も新たに置けるようになり、協議が調った事項について構成員は結果を尊重するものとされた。

残るのは、政令の確定本文がいつ公布され、どの市までが対象になるかという点だ。意見募集の結果公示も、10月23日時点では掲載されていない。市や区が実際にセンターを置くかどうかは施行後の各自治体の判断であり、来年4月1日の時点でどれだけの地域に身近な相談先ができるかは、まだ見通せない。