財務省理財局は10月28日に開かれた財政制度等審議会の財政投融資分科会で、国際協力銀行(JBIC)の令和9年度財政投融資要求について「編成上の論点」を示した。JBICは日米両政府の「戦略的投資イニシアティブ」(対米投資)向けの約10兆円を含め、事業規模を12兆2100億円と見込んでいる。理財局の資料は、対米投資の融資承諾が「当時の想定どおりには進捗していない」と指摘し、約10兆円について「足元の進捗等を考慮した水準を見込むべきではないか」と問うた。国が出資する産業投資3780億円の必要性にも具体的な説明を求め、対米投資に関する情報開示の拡充を論点に加えた。

要求は事業規模12.1兆円、財政投融資6兆6690億円

財政投融資は、国債の一種である財投債などで調達した資金を、政策上必要な分野へ長期・低利で貸したり出資したりする仕組みで、毎年度の計画を予算とあわせて編成する。分科会は9月18日に各機関の要求を受けており、今回は機関ごとに編成上の論点を詰める段階にあたる。要求全体の内訳は令和9年度の財政投融資要求は19兆400億円 出資にあたる「産業投資」が5003億円から1兆1700億円へ 次世代半導体の量産に1500億円で伝えた。

資料2によると、JBICの令和9年度の事業規模は12兆2100億円で、令和8年度計画の16兆7600億円から4兆5500億円減る。このうち約10兆円が日米戦略的投資の見合いで、残る約2兆円はエネルギー・資源の供給力やサプライチェーンの強靱化に関する案件支援などとして要求した。財政投融資の要求額は6兆6690億円で、前年度計画の8兆5827億円から1兆9137億円減った。

区分 令和9年度要求 令和8年度計画 増減
事業規模 12兆2100億円 16兆7600億円 4兆5500億円減
財政投融資 6兆6690億円 8兆5827億円 1兆9137億円減
うち財政融資 3兆810億円 4兆2527億円 1兆1717億円減
うち産業投資 3880億円 1650億円 2230億円増
うち政府保証(5年以上) 3兆2000億円 4兆1650億円 9650億円減
自己資金等 5兆5410億円 8兆1773億円 2兆6363億円減
国際協力銀行の令和9年度財政投融資要求(一般業務と特別業務の合計)出典: 財政投融資分科会(令和8年10月28日)資料2

産業投資3880億円の内訳は、一般業務勘定が3780億円、海外インフラなどでより大きなリスクを取る特別業務勘定が100億円である。JBICは一般業務の産業投資を「対米投資の進捗等を見据え与信余力の拡大及びリスクバッファのための財務基盤強化」として要求した。財政融資と政府保証外債(5年以上)の割合は、調達環境に応じて手段を選べるよう、おおむね1対1とした。

融資承諾は見込み総額の約8.4%

資料は対米投資の承諾実績を2026年9月末時点でまとめている。JBICが貸付契約を結んだ案件は5件で、合成ダイヤモンドの製造・販売、原油の輸送積出インフラ、オハイオ州・ペンシルベニア州・テキサス州のガス火力発電である。5件の総額見込みは約690億ドルで、民間金融機関を含む協調融資の承諾額は合計約109億6500万ドル、うちJBIC分は約36億6100万ドルだった。5件の総額見込みに対する承諾額の割合は15.89%になる。

これに、発表済みで承諾に至っていない2件を加えると、総額見込みは約1300億ドル(約20兆円)に膨らむ。2件はテネシー州・アラバマ州での小型モジュール炉(SMR)の建設(最大400億ドル)と、ニューヨーク州での半導体製造(最大210億ドル)で、7件全体に対する承諾額の割合は8.43%となる。半導体案件の内容は対米投資で初の半導体案件、NY州に約100億ドル 年内着工、最大210億ドルへ拡大もで伝えた。

対米投資5案件の協調融資承諾額(2026年9月末時点)(億ドル)

オハイオ59.17ペンシル23.97テキサス22.13原油輸送4.15人工ダイヤ0.23
合計は約109億6500万ドル。JBIC分はうち約36億6100万ドル出典: 財政投融資分科会(令和8年10月28日)資料2
数値で見る(単位: 億ドル)
項目億ドル
オハイオ59.17
ペンシル23.97
テキサス22.13
原油輸送4.15
人工ダイヤ0.23

資料は承諾が「案件の進捗に応じて徐々に進められている」と説明した。令和7年度補正計画と令和8年度当初計画では、総額5500億ドルのうち約4000億ドルまで直ちに対応できるよう、JBICの対米投資の事業規模を7年度7.15兆円、8年度14.35兆円の計21.5兆円と置いた。JBICと日本貿易保険(NEXI)の米国向け実績から、両者がおおむね1対2の割合で投資すると想定した数字である。

与信は資本金等の11倍まで、出資3780億円の根拠

JBICの見通しとして、資料は案件組成の時期や内容は「予断を持ちがたい」とする一方、米国側からの提案の頻度や対象分野の広さを踏まえ、令和9年度には「総事業規模30兆円程度の案件選定がなされると想定している」と記した。2026年前半だけで、人工ダイヤモンドやガス火力など総額約1100億ドル(約17兆円)の案件を日本政府が発表済みだという。

産業投資を求める理由は与信の上限にある。資料によると、法律はJBICの出融資などの与信残高を資本金等の合計の11倍までに限っている。資本金等は約3.7兆円で、与信限度額は約40兆円になる。令和7年度末の与信残高は約17.6兆円で、令和8年度の増加見込み約14.4兆円を加えると、8年度末の与信余力は約8兆円と見込まれる。令和9年度に12.1兆円の事業を行うには約1.9兆円の余力拡大とリスクバッファが要るとして、JBICは3780億円の財務基盤強化を「最低限必要」としている。

これに対し理財局の論点は、約2兆円の非対米分は「近年の投融資実績を踏まえると妥当な金額ではないか」とした。一方、約10兆円の対米分は、プロジェクトが公表されても貸付契約の公表に至っていないものや、計画を変えながら進むものがあり、「必ずしも想定どおりに進捗しているわけではない」と書いた。リスクバッファについても「現時点で十分な説明がなされていない」とし、「産業投資の財源には限りがある以上、措置する必要性や規模について、より具体的な説明が求められる」と求めた。

情報開示も論点に、委員は審査体制の確認を求める

もう一つの論点は情報開示である。9月18日の分科会では委員から、事業を運営するオペレーターの役割とJBICによるモニタリングの方法、日本経済への裨益の説明、プロジェクトが進まない場合の扱いの事前整理を求める質問・意見が出た。理財局は、こうした意見の背景に「公表されている情報が限定的という現状がある」とし、償還確実性・収支相償の原則の遵守、日本経済への裨益、想定外の事態への対応について「より積極的に情報開示をするべきではないか」と論点に掲げた。

JBIC法は、貸付や出資を、償還や配当を可能にする利益が確実と認められる場合に限る「償還確実性」と、勘定ごとの収入が支出を償うようにする「収支相償」を定めている。資料は、日米の了解覚書に「覚書のいかなる内容も、日米両国のそれぞれの関係法令と矛盾してはならない」とあるため、対米投資でもこれらの原則が守られると説明した。JBICは2026年度に職員を55人純増させ、5月には担当副総裁と日米戦略投融資部門を新設している。

分科会には家森信善委員が意見書を出した。家森氏は情報開示の強化に「賛同します」とし、償還確実性・収支相償を満たすと判断した根拠や、事業が想定どおり進まない場合の対応について「可能な限り具体的な説明」を求めた。事業規模の算定では、足元の進捗に加え「十分な審査と投融資後のモニタリングを行える件数・金額であるかを確認する必要があります」と指摘し、与信余力の拡大に要る額とリスクバッファの算定根拠を明らかにしたうえで、産業投資の必要額を精査するよう求めた。

規模の見積もりと根拠の公表が問われる

令和7年度補正と8年度当初で置いた21.5兆円の事業規模に対し、9月末の協調融資承諾額は約110億ドルである。JBICは9年度に30兆円程度の案件選定を想定するが、赤澤内閣府特命担当相は3月17日の参院予算委員会で、いつどのような案件が組成されるかは「米国次第のところもあり」と答弁している。見込みに沿って与信余力を広げれば、その分の産業投資は承諾が進まなくても先に出ていく。理財局と委員がそろって、進捗を踏まえた規模の見直しと算定根拠の説明を求めたのはこのためである。

対米投資は利益配分の仕組み上、日本側が元利相当分を回収するまでは日米が50対50で分け合い、その後は米国90%・日本10%となる。日本に返ってくる額が案件の選び方と回収の確実さに左右される以上、承諾件数が増える前に、審査とモニタリングの体制、リスクバッファの算定式を計画の決定と同時に示すことが、国の出資を求める側の責任になる。年末に向けた編成で、事業規模をどの水準に置き、どこまで根拠を公表するかが問われる。