厚生労働省の「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会」(座長・福田英輝国立保健医療科学院公衆衛生政策研究部主任研究官)は11月2日、中間報告を公表した。研修を受けた歯科衛生士が、歯科医師があらかじめ作成した手順書に基づいて歯科診療の補助を行えるようにする方向を示し、そのための関係法令等の整備を行うとした。看護師が手順書に基づいて「特定行為」を行う仕組みにならうもので、どの行為を対象とするかや研修の枠組みは今後検討する。報告はあわせて、歯科衛生士の必要数を初めて推計し、2035年に約18万8千人が必要になるとした。2024年末に働いていた歯科衛生士は14万9579人だった。

手順書で歯科診療の補助、看護師の特定行為にならう

中間報告は、在宅や入院中の患者の口腔管理の需要が増える一方で生産年齢人口が減り、「今後地域によっては歯科医療の提供が困難になる地域が出てくること」が想定されると指摘した。そのうえで「看護師の特定行為のように、あらかじめ歯科医師が作成した手順書に基づき、研修を受けた歯科衛生士が歯科診療の補助を行うこと」を検討する必要があるとし、解決の方向性として「研修を受けた歯科衛生士が、歯科医師の作成した手順書に基づき、歯科診療の補助を行うことを可能とする」と明記した。

手順書に基づく補助では、歯科衛生士が手順書の範囲で一定の判断をすることになる。報告は、この判断には「実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能」が求められるとして、対象とする行為を関係法令等の整備も含めて検討するとした。研修についても、研修制度、研修施設などの枠組み、研修期間、実施主体、関係団体や学会の認定制度の活用を踏まえて検討が必要だとしている。報告の結びでは、手順書に基づく診療補助が「適切に実施されるよう関係法令等の整備を行う」と記した。

ただし、中間報告はどの行為を手順書の対象にするか、どの法令をどう改めるかは示していない。研修の期間や実施する機関も決まっていない。今回の報告で決まったのは方向性であり、歯科医院や在宅の現場で実際に何ができるようになるかは、今後の検討と法令の整備を待つことになる。

今の歯科衛生士法では何ができるのか

歯科衛生士の業務は歯科衛生士法が定めている。同法第2条は、歯科衛生士を、厚生労働大臣の免許を受け、歯科医師の指導の下に歯や口腔の病気の予防処置を行う者と定義する。予防処置として挙げるのは、歯の露出面や歯茎の縁の下に付いた歯石などを機械的な操作で取り除くことと、歯や口腔に薬物を塗ることの2つだ。このほか歯科診療の補助と、歯科衛生士の名称を用いた歯科保健指導を業とすることができる。

歯科診療の補助には制限がある。第13条の2は、主治の歯科医師の指示があった場合を除き、診療機械を使うことや医薬品を与えること、その他「歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為」をしてはならないと定める。中間報告が目指すのは、この指示を、患者ごとにその場で受けるのではなく、歯科医師があらかじめ書いた手順書の形で受け、研修を受けた歯科衛生士がその範囲で判断して補助を行えるようにすることだ。

手本となる看護師の仕組みは、保健師助産師看護師法第37条の2に定められている。特定行為とは、看護師が手順書により行う場合に高度な知識と技能が特に必要とされる診療の補助として厚生労働省令で定めるもので、手順書には、補助を行わせる患者の病状の範囲や補助の内容などを定める。特定行為を手順書により行う看護師は、厚労大臣が指定した研修機関で特定行為研修を受けなければならない。中間報告が歯科衛生士に求める判断力の表現は、この法律が特定行為を定義する文言と同じだ。

必要数は2035年に約18万8千人と推計

中間報告によると、歯科衛生士の免許を登録している人は2024年時点で32万6651人いる。同年の就業者は14万9579人で、免許を持つ人のうち働いているのは45.8%にとどまる。報告は、これまで歯科衛生士の必要数についての検討はなされていなかったとして、今回初めて需要と供給を推計した。

需要の推計は、将来の歯科診療所の患者数に、患者1人当たりの歯科医師数と、歯科医師1人当たりの歯科衛生士数を掛けて出した。患者数の推移がこれまでと同じ傾向で続き、すべての歯科診療所で歯科医師数に応じて歯科衛生士が働くと仮定すると、2035年の必要数は約18万8千人になる。在宅歯科医療や歯科衛生士による指導管理などの需要がこれまでと同じように増え続け、一方でテクノロジーの活用などで業務が3〜5%効率化すると仮定した場合は、約19万人〜19万4千人とした。

供給の推計は、2024年の就業者数を基に、働き続ける人の割合と新たに働き始める人の数から10年後を見積もった。近年と同じ就業者率で推移すると、2034年の就業者は約18万4千人〜18万7千人になる。20歳代の就業者率が75〜80%、30〜50歳代が70%に上がる場合などを仮定すると、約18万9千人〜約24万6千人になると推計した。報告は小括で、就業者率の改善がさらに進めば供給が需要をやや上回るとしたうえで、両者の差は就業者率や歯科医療の需要、業務効率化の程度によって幅があるとした。

報告は、需要推計で歯科医師1人当たりの歯科衛生士数を今後10年変わらないと仮定したものの、実際にはこの数は増えてきており、高齢者の口腔管理の需要の高まりや歯科健診の推進を踏まえた検討が必要だとの指摘があったとも記した。へき地など高齢化率の高い地域では確保がとくに難しいとの意見もあり、都道府県別の需給など地域差からの検討も必要だとしている。

就業者は10年で3万3千人増、9割が歯科診療所

厚労省の衛生行政報告例によると、2024年末の就業歯科衛生士は14万9579人で、前回の2022年末から4396人(3.0%)増えた。2014年末の11万6299人からは3万3280人増えている。

就業歯科衛生士数の推移(各年末)(人)

050,000100,000150,000116,2992014年123,8312016年132,6292018年142,7602020年145,1832022年149,5792024年
2024年末は14万9579人で、2014年末から3万3280人増えた出典: 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」
数値で見る(単位: 人)
項目人
2014年116,299
2016年123,831
2018年132,629
2020年142,760
2022年145,183
2024年149,579

働く場所は歯科診療所が90.6%(13万5499人)で大半を占める。病院は5.1%(7675人)、介護老人保健施設などの介護保険施設等は1.0%(1533人)だった。中間報告は、病院や介護保険施設などで働く歯科衛生士も近年増えていると指摘している。年齢別では25〜29歳が13.4%(2万43人)で最も多く、30歳代から50歳代前半まではそれぞれ11〜12%台で並ぶ。

需要推計の約18万8千人に達するには、2024年末から約3万8千人増える必要がある。過去10年の増加は3万3280人だった。医療・介護の現場で働く人の確保は、厚労省が令和8年版厚生労働白書を公表 介護職の有効求人倍率3.98倍、病院の58.0%が経常赤字 テーマは「医療・介護・福祉の現場で働くこと」でも主題に据えている。

養成と復職支援、働き方も課題に

中間報告は、人材確保の課題も挙げた。18歳人口が減るなかで、養成施設を新たに増やすことは入学者の確保などから「現実的ではないとの意見がある」としつつ、地域で歯科衛生士を養成し確保する取り組みは必要だとした。医療関係職種の養成校では定員の充足率が近年下がる傾向にあり、厚労省の「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の議論も踏まえて対応する必要があるとしている。

卒業後の就労支援や新人の教育体制が十分に整っていないことや、早期の離職、ライフイベントによる離職も課題として挙げた。復職については、都道府県や関係団体が実習や研修、就労相談の窓口を設けている例があるとして、こうした取り組みも踏まえて人材確保策を進める必要があるとした。免許を持ちながら歯科衛生士として働いていない人への働きかけ、つまり就業者率を上げる方法も引き続き検討するとしている。

歯科診療所の側では、歯科衛生士が柔軟に働けるような体制として、適切な業務分担や、診療所の機能分化・大規模化を検討するよう求めた。報告は、2040年に向けて医療人材の減少が予測されるなかで、歯科衛生士に求められる業務も多様になっているとして、業務の効率化や人材確保策を含めて業務のあり方を引き続き検討するとしている。