総務省は11月2日、有識者でつくる「不適正利用対策に関するワーキンググループ」(主査・大谷和子日本総合研究所アドバイザー)の第15回会合を開き、国際電話を悪用した特殊詐欺への対策の論点案を示した。固定電話の契約で国内電話と一体になっている国際電話を、契約約款の上で「オプション」に切り分ける案を挙げ、利用者が申し出なければ国際電話を休止する方式も検討の対象に入れた。会合では警察庁が、特殊詐欺の犯行に使われた電話番号のうち判明しているものの7割が国際電話番号で、詐欺の電話を受ける被害者の7割が固定電話だと報告した。ワーキンググループは通信事業者や業界団体、民法の有識者から意見を聞き、2027年早々をめどに国際電話の対策の方向性について結論を出す。
詐欺の電話は国際番号から固定電話へ 警察庁が報告
警察庁の資料によると、2025年の特殊詐欺の被害額は、SNS型投資・ロマンス詐欺を含めて3257億円で過去最悪だった。刑法犯の財産犯全体の被害額4984億円のうち、詐欺が4030億円を占める。2026年も9月末までに被害額が2610.4億円、認知件数が3万3329件に上り、前年同期より被害額は483.9億円、件数は3299件多い。1日あたりの被害額は約10億円になる。警察庁は「このまま推移すれば、過去最悪の被害額を記録した令和7年を上回る見込み」とし、特に警察官をかたる「ニセ警察詐欺」の増加に「歯止めがかからない状況」だと説明した。
詐欺の入り口は電話が中心だ。SNS型投資・ロマンス詐欺を除く特殊詐欺では、犯人が最初に接触した手段の7割が電話で、ニセ警察詐欺に限ると9割以上が電話だった。犯人側が使った電話番号のうち判明しているものの7割が国際電話番号で、受けた被害者の側は固定電話が7割、携帯電話が3割を占める。警察庁は、被害額が高額になりやすい高齢者が固定電話で詐欺の電話を受けている傾向があると指摘した。固定電話への国際電話による被害は、SNS型投資・ロマンス詐欺を除く特殊詐欺の約3分の1にあたり、2025年と2026年の被害規模をもとにするとおおむね400億〜500億円に相当するという。
特殊詐欺の被害額(SNS型投資・ロマンス詐欺を除く)(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| 2023年 | 452.6 |
| 2024年 | 718.8 |
| 2025年 | 1,423.1 |
犯行の拠点は海外にある。海外拠点に関係する容疑者の検挙は2019年から2026年10月末までに計298人で、2026年はインドネシア、ラオス、ベトナムの拠点に関係する72人を検挙した。拠点からは偽の警察官の制服や警察手帳が見つかることが多く、「SIMボックス」やオートコールシステムを使って大量に電話をかけていたとみられる状況や、AIなどの技術を使ったビデオ通話で筋書きを補強していたとみられる状況も確認されたという。警察庁は「検挙のみによる対処には限界があり、複層的な対策強化が不可欠」としている。
申し込めば止められる国際電話 休止は190万回線
固定電話で国際電話を止める仕組みは以前からある。1993年(平成5年)に設けられた「国際電話不取扱受付センター」で、KDDI、ソフトバンク、NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモビジネスの5社が運営する。書面、オンライン、電話で申し込め、NTT東西の利用者は116番の窓口からも手続きできる。2026年9月6日時点で190万回線が国際電話を休止し、うち139万回線は発信と着信の両方を止めている。
ただ、固定電話の契約数は2026年6月末で4658万(このうちNTT東西の加入電話が1027万)あり、休止した回線はその一部にとどまる。総務省は、関係省庁と事業者の周知やセンターの申し込みの滞留の解消で休止件数は増えているものの、国際電話番号が犯行に使われる割合は「依然として高水準」だとしている。
国際電話の使われ方も変わった。総務省の集計では、国際電話の通信回数は2020年度の3.7億回から2024年度は13.5億回に増えた。2021年度以降は日本への着信の回数が急に増え、2024年度の発信と着信の回数の比は2対98だった。一方、通話時間は2024年度で5.8億分と、2007年度の63.8億分の1割に満たない。国内電話と合わせた通話時間に占める国際電話の割合は、直近5年間は0.5%以下だった。
固定電話を持つ世帯は全体の54%で、世帯主が20代の世帯では4%にとどまる一方、60代以上では今も7割を超える。NTT東西は2023年5月から、70歳以上の契約者などを対象に、発信者の番号を画面に出す「ナンバー・ディスプレイ」(月額料の代表例は440円)と、番号を通知しない相手に通知を求める「ナンバー・リクエスト」(同220円)の月額料と工事費を無料にしている。契約数は2026年9月末でそれぞれ602万、222万で、総務省は「普及は限定的」としている。
国際電話を「オプション」に 休止の進め方で4つの型
総務省が示した論点案は、固定電話について「周知の在り方の見直し等、抜本的な強化が必要ではないか」と問い、国際電話を契約約款の上でオプションにする案を挙げた。今は国際電話が国内電話と一体で提供され、事業者には提供の義務がある。これを切り分けたうえで、既に契約している人に一斉に知らせ、休止を進める方法として次の4つの型を並べた。
| 型 | 進め方 | 申し出がない人の国際電話 |
|---|---|---|
| 1 | 契約や移転の機会に休止を勧める(今の対策の延長) | 使える |
| 2 | 一斉に知らせ、休止を申し出た人だけ止める | 使える |
| 3 | 一斉に知らせ、続けると申し出た人だけ残す | 止まる |
| 4 | 続ける機会を設けず一律に遮断する | 止まる |
型1が現在の延長で、型4の一律遮断について総務省は「社会的影響が甚大ではないか」としている。型2と型3はその間に位置付けられ、違いは申し出がない人の扱いにある。型2では何もしなければこれまでどおり国際電話を使えるのに対し、型3では何もしなければ国際電話が止まる。
携帯電話については、端末での対策を中心に据える。警察庁は2026年3月、「詐欺対策 by NTTタウンページ」と「トレンドマイクロ 詐欺バスター Lite」の2つのアプリを推奨アプリに認定し、9月末時点で累計約261.6万件ダウンロードされた。総務省はこのほか、携帯大手の有料の対策サービス(月額220円〜548円)も挙げ、アプリの普及や機能強化をどう進めるかを論点に掲げた。
民法の定型約款と、事業法の「提供義務」
型3のように、申し出のない人の国際電話を止めるには、事業者が契約約款を変えて、利用者一人ひとりの合意を得ずに契約の中身を変える必要がある。総務省は、固定電話の約款が民法の「定型約款」にあたると考えられるとして、民法548条の4との関係を検討するとした。同条は、変更が相手方の一般の利益に合うときや、変更の必要性や変更後の内容の相当性などに照らして合理的なときに限り、個別の合意なしに約款を変えられると定める。変更する場合は、効力が生じる時期を定め、変更の内容をインターネットなどで周知しなければならない。総務省は、利用者の利益を守る観点から、一斉の周知をどんな方法で行うべきかも検討するとした。
電気通信事業法との関係も整理する。同法は、主要事業者の国際電話を含む「認定電気通信事業」の役務について、正当な理由がなければ提供を拒んではならないと定める(121条)。NTT東西の国際電話は「指定電気通信役務」にあたり、同じく正当な理由のない提供拒否を禁じている(25条)。国際電話をオプションにした場合に、これらの提供義務とどう折り合うかが論点になる。
国際電話の休止を巡っては、政府の犯罪対策閣僚会議が2025年4月の「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」で、国際電話を使わない人への優遇措置など、真に必要としない人に休止を促す対策の検討を求めていた。総務省も2025年4月と2026年7月に通信4団体へ要請を出し、固定電話の契約変更などの機会に国際電話の必要性を確かめるよう求めてきた。電話転送サービスの本人確認の見直しは、電話転送サービスの本人確認、2027年4月からICチップ読み取りへ 書類のコピー送付や「2種類の提示」は使えなくなる 総務省が番号計画の変更案で伝えた。
年内に事業者から聞き取り、2027年早々に結論
総務省が示した日程案では、年内に通信事業者や関係する業界団体、民法の有識者から意見を聞く。事業者には各社の対策の現状と論点案への考えを、民法の有識者には548条の4との関係を尋ねる。2027年1〜3月に論点を整理し、「来年早々を目途に」国際電話の対策の方向性について結論を得る。そのうえで、SMSや電子メールなどほかの通信サービスの不適正利用対策も含め、2027年夏ごろまで議論を続ける。
このワーキンググループは2024年2月に始まり、2025年度は携帯電話の本人確認のルールを中心に議論し、携帯電話不正利用防止法の改正につなげた。2026年1〜8月の特殊詐欺の統計は、1〜8月の特殊詐欺、被害額は2360億円で前年同期より588億円多い 認知件数は2万9687件 SNS型投資詐欺は1月の1084件から8月は531件へ減るで伝えた。
国際電話を休止したい固定電話の利用者は、今も国際電話不取扱受付センターに申し込める。総務省が2025年6月に設けた迷惑電話の相談窓口「でんわんセンター」は、同センターと連携して休止の申し込みを円滑にする取り組みを進めるとしている。
