厚生労働省は9月29日、令和8年版の厚生労働白書を閣議に報告し、公表した。第1部のテーマは「これからの医療・介護・福祉の現場で働くことを考える」。2001年の発刊から数えて25冊目となる。白書は、医療・介護・福祉の現場が人手不足と経営難に同時に直面している現状を数字で示したうえで、2040年に向けてICTやAI、ロボットを活用した生産性向上が欠かせないとした。
厚生労働白書は、厚生労働行政の現状と課題を国民向けにまとめた年次報告書で、その年のテーマを掘り下げる第1部と、雇用・年金・医療・介護など各分野の施策の動きをまとめた第2部の2部構成になっている。
介護の有効求人倍率3.98倍 全職業計は1.10倍
白書によると、2025年度の有効求人倍率は、介護関係職種が3.98倍、障害福祉関係職種が3.28倍、看護関係職種が2.10倍だった。全職業計の1.10倍を大きく上回る。有効求人倍率は、仕事を探している1人あたりに何件の求人があるかを示す数字で、介護では求職者1人に対しておよそ4件の求人がある計算になる。
将来の担い手を育てる養成課程でも人が減っている。看護師学校養成所(3年課程)の入学者数は2018年の5万4483人をピークに減り続け、2025年度は4万8424人、定員充足率は89.6%。介護福祉士養成施設はさらに厳しく、入学者数は2010年の1万5771人をピークに2025年度は7970人まで減り、定員充足率は58.6%にとどまる。しかも入学者の半数以上は外国人留学生が占める。
白書はその背景に、18歳人口の減少、医療・介護・福祉の労働環境に対する厳しいイメージ、他産業との人材獲得競争の激化があるとした。18歳人口は2040年に2025年と比べて25.2%減ると推計されており、養成の入り口が狭まる流れは当面変わらない。
病院の58.0%が経常赤字 介護は37.5%
経営の数字はさらに厳しい。2024年度の決算で、経常利益が赤字だった病院の割合は58.0%。黒字は42.0%で、赤字が過半を占めた。医業利益で見るとさらに高く、病院全体で67.2%、一般病院では72.7%が赤字だった。中央社会保険医療協議会の第25回医療経済実態調査によると、一般病院の損益率は2024年度でマイナス7.3%で、2020年度以降はマイナス6〜7%前後が続いている。
介護と障害福祉も同様で、2024年度決算で赤字だった介護サービス施設・事業所は全サービス平均で37.5%、うち施設サービスは44.8%。障害福祉サービス等施設・事業所は43.6%で、施設系に限れば57.1%が赤字だった。
これらの事業が赤字に陥りやすいのは、収入の多くが診療報酬・介護報酬といった国が決める「公定価格」で定まっているためだ。原材料費や光熱費、人件費が上がっても、一般の企業のように値上げで転嫁することができない。白書は「経営努力のみでの対応には限界がある」と明記した。医療機関そのものの数も減っており、小児科がある病院は2397施設 2008年の2905施設から508減 産婦人科・産科は1230施設で6病院に1つ 病院数は8001で病床は1年に1万9523床減のとおり、2025年の病院数は8001施設で前年から59施設減っている。
2040年、85歳以上は300万人増・働き手は1100万人減
白書が「2040年」を軸に据えたのは、需要と担い手が逆方向に動くためだ。2025年から2040年にかけて、85歳以上の人口は約300万人増える一方、15〜64歳の生産年齢人口は約1100万人減ると見込まれる。高齢化率29.4%で過去最高 令和8年版高齢社会白書、2070年には「2.6人に1人」が65歳以上で示した高齢化の進行が、医療・介護の現場では人手の制約として表れる形だ。
需要は量が増えるだけでなく、質も変わる。白書は、急性期医療の需要は減る一方で、在宅医療、高齢者の救急、認知症への対応が増えると見通した。都市部では高齢者数が増え、地方部では高齢者を含めて人口そのものが減るなど、地域差も広がる。
そこで第2部の前段にあたる第1部第2章が打ち出したのが、テクノロジーによる生産性向上だ。白書は、生産性向上の目的を「単なる効率化・省力化」ではなく、事務作業などで浮いた時間を直接のケアに振り向け、サービスの質と職場環境をともに改善することだと位置づけた。現場の導入例として、スマートフォンとICTで業務を組み替えた社会医療法人石川記念会HITO病院で看護師の移動距離が4〜5キロ減り、ケア時間が1日100分生まれ、残業が年間6000時間減ったこと、横浜市立大学附属病院の遠隔ICUでコール対応の61%を遠隔化し、敗血症の死亡率が36.8%から20%に下がったことなどを挙げている。
厚労省が実施したアンケート調査では、医療・介護・福祉分野の将来の担い手不足に不安を感じる人は7割を超え、医療・介護分野へのテクノロジー導入には7割以上が肯定的だった。白書は、テクノロジーは導入するだけでは成果が出ず、既存業務への「追加」ではなく業務そのものの「再設計」と一体で進める必要があると結んだ。
