警察官が犯人の使う端末に電気通信回線を介して接続し、狙われている人の氏名や犯行の日時といった情報を取り出せるようにする警察官職務執行法(警職法)の改正案が10月30日、衆議院本会議で趣旨説明と質疑に入った。衆議院の議事日程に、同日の案件として改正案(内閣提出)の趣旨説明が載っている。国民民主党は同日、党を代表して質問した河井昭成政務調査会副会長(衆院滋賀1区)の質問原稿の全文を公表した。質問は13項目に及び、新しい調査を犯罪捜査ではなく行政調査と位置づけた理由、犯罪と無関係な人の端末や通信の扱い、同じ許可で何度も接続できるのか、実施状況を国会に報告させるか、などを国家公安委員会委員長に問うた。

本会議で趣旨説明、委員会審査へ

改正案は政府が10月16日に第222回臨時国会へ提出した。条文の中身は警察が犯人の端末に遠隔接続、警職法改正案を国会提出 裁判官の許可が条件で詳しく伝えた。柱は二つある。新しい第8条で、重大な犯罪の被害が迫っている人が特定されたとき、警察官が被害を防ぐ措置を「とらなければならない」と義務として定める。新しい第9条で、警察庁長官が指名した「被害防止電子計算機調査官」が、裁判官の許可を得て犯人の端末に接続し、被害を防ぐのに必要な情報を複写・取得できる「被害防止電子計算機調査」を設ける。

30日の本会議の議事日程は、防衛省職員や裁判官、検察官の給与法改正案など9本の内閣提出法案を日程に並べ、その後に警職法改正案の趣旨説明を置いた。重要な法案は委員会に付託する前に本会議で政府が趣旨を説明し、各会派が質疑する。今回はこの段階で、法案の中身はこの後の委員会審査で問われる。

国家公安委員会委員長は、首相官邸の閣僚名簿によると細野豪志氏が務める。衆議院の本会議の会議録は11月1日時点で30日分が掲載されておらず、細野氏の答弁の内容と、国民民主党以外の会派の質疑は本紙では確認できていない。以下は、国民民主党が公表した質問原稿と、警察庁が公表した法案の案文を突き合わせた内容である。

「捜査ではない」とした理由を問う

河井氏が最初に挙げたのは被害の大きさだ。質問原稿によると、特殊詐欺の被害額は令和4年の約371億円から令和7年には約1423億円と約4倍になり、SNS型投資・ロマンス詐欺を含めた令和7年の被害総額は約3257億円、今年も8月末時点で約2361億円に達しているとして、被害が増えた原因を政府がどう分析しているかを尋ねた。

続いて、遠隔での取得が通信傍受など従来の手法とどう違うのかを質した。犯罪グループが使う通信アプリには通信内容が高度に暗号化されているものがあり、端末を押収せずに中の記録を取り出す点が新しい。河井氏は「技術の詳細を明らかにできない事情は理解します」としつつ、どの程度の被害防止効果を見込むのかを分かりやすく示すよう求めた。

論点の中心は法案の位置づけだ。案文の第9条第11項は「被害防止電子計算機調査等の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」と定める。犯人を検挙するための証拠集めではなく、被害を防ぐための行政調査という建て付けである。河井氏は、行政調査とした理由と、捜査目的で使われないことをどう担保するのかを尋ねた。そのうえで、端末から取り出した情報には犯人の特定や証拠につながるものも含まれうるとして、後の捜査で使うことを想定しているのか、使うならどんな手続きや制限が要るのかを問うた。案文に、取得した情報を捜査に使うことを認める規定も禁じる規定も無い。

無関係な端末・通信と本人の救済

裁判官の審査が形だけにならないか、という点も取り上げた。案文によると、調査官はあらかじめ、調査ができると認める理由、対象の端末とそれを選んだ理由、取り出す記録の範囲、調査で行う行為の具体的な内容と手順を書面で示し、疎明資料を付けて地方裁判所か簡易裁判所の裁判官に許可を求める。河井氏は、裁判官が必要性や正当性を判断できるよう警察がどんな客観的な根拠を示すのかを質した。

対象の端末は、犯人が犯人同士の連絡か、狙った人への連絡に使ったと認める「合理的な理由」のあるものに限られる。河井氏は、どんな客観的な事実で犯人の端末と判断し、無関係な人の端末を誤って調べないようにするのかを問うた。

端末の中には、事件と関係の無い家族や知人とのやりとりも残っている。案文は、許可の範囲外の記録を扱った場合、被害防止にあたる警察官を含む誰にも提供してはならず、調査が終わったら直ちに全て消去すると定める。河井氏はこれに加え、そもそも不要な情報をできる限り取得しない措置を求めた。

本人は調べられていることを知りようがない。案文は調査後、端末の使用者に罪名や許可状の発付日、実施日、消去した日などを遅滞なく通知すると定める一方、使用者の所在が分からないときなどは通知しなくてよく、被害防止の妨げになるおそれがあれば、そのおそれが無くなるまで通知を遅らせることができる。河井氏は、調べられた本人が適法性を確かめ、不当な権限行使に救済を求められる仕組みをどう確保するのかを質した。案文には、通知を受けた本人が不服を申し立てる手続きは書かれていない。

繰り返し接続と国会への報告

河井氏は、刑事訴訟法の捜索・差し押さえでは令状は1回限りが原則だとして、一つの許可状で同じ端末に何度も接続できるのか、できるなら回数や時間の限界はどこにあるのかを尋ねた。案文は裁判官が許可状に「許可の有効期間」を書くと定めるが、期間内に接続できる回数の上限は書かれていない。河井氏は、再度の調査が事実上の継続的な監視にならないための制限も問うた。

取得した情報が本当に許可を受けた端末から得たものかを、後から確かめる仕組みも求めた。

監督については、案文は調査官がとった処置を所属の公安委員会に報告させ、公安委員会が許可の内容や消去・通知の規定に照らして適切だったかを確認し、必要なら警察庁長官や警視総監、道府県警察本部長に措置を指示すると定める。河井氏は、取得した情報の範囲や消去の状況を確かめるには専門知識が要るとして、外部の専門家の活用を含めた体制を問うた。

比べる対象として挙げたのが通信傍受法だ。同法の第36条は、政府が毎年、傍受令状の請求・発付の件数、罪名、傍受の期間、傍受中の通話の回数、逮捕した人数などを国会に報告し、公表すると定める。今回の改正案には国会への報告や実施件数の公表を定めた条文が無い。河井氏は、遠隔解析でも国会への報告を義務づけるなど、実施状況を公表する必要があるのではないかと問うた。

河井氏の主な質問 改正案の案文にある規定
捜査目的で使わない担保 第9条第11項「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」
無関係な通信の保護 許可外の記録は提供禁止、調査後に直ちに全て消去(第9条第6項)
本人の救済 使用者への事後通知(第9条第8項)。所在不明などは除外、被害防止の妨げになるなら延期
繰り返し接続の制限 許可状に有効期間を記載(第9条第4項)。回数の上限は無し
監督と透明性 公安委員会への報告と確認・指示(第9条第9項・第10項)。国会への報告は無し
国民民主党の質問と、改正案の案文の対応する規定

出典: 国民民主党「警察官職務執行法の一部を改正する法律案に対する本会議質問原稿」、警察庁「警察官職務執行法の一部を改正する法律案(案文・理由)」

海外の端末、人材、闇バイト対策

河井氏は運用面も尋ねた。犯罪グループの中には海外に拠点を置いて国内の実行役に指示を出すものがあり、海外にある端末が調査の対象になる場合、相手国の主権や国際法との関係をどう扱うのかを質した。案文には、海外にある端末の扱いを定めた規定は無い。

調査官は、必要な知識と能力があると認めた警察官を警察庁長官が指名する。河井氏は専門人材の確保と育成、研究開発や設備更新の費用、情報を得た後に警戒や防犯指導へつなぐ警察庁と都道府県警察の連携について、体制と予算の見通しを求めた。スマートフォンの基本ソフトや通信アプリの更新で、導入時に解析できた端末が将来は解析できなくなる可能性も挙げ、能力をどう維持するのかも問うた。

最後に、若い世代が「闇バイト」を通じて犯罪に加わることを防ぐ取り組みとして、文部科学省やこども家庭庁、通信事業者との連携、相談体制や離脱支援の充実を求めた。

改正案は附則で自衛隊法も改める。自衛隊法第89条は、治安出動を命じられた自衛官の職務に警職法を準用すると定めており、改正案はこの準用の対象から新しい第8条と第9条を外す。新しい調査を行えるのは警察官に限られる。施行は公布の日から6か月を超えない範囲で政令で定める日としている。

河井氏が問うた論点のうち、接続の回数、取得した情報の捜査での利用、国会への報告、海外の端末の扱いは、いずれも案文に定めが無い。政府の答弁でどこまで示されたのかは会議録の掲載を待って確かめる必要があり、委員会審査では条文の修正や附帯決議に踏み込むかどうかが焦点となる。