令和8年版防衛白書によると、自衛官の定員24万7154人に対し、2026年3月31日現在の現員は21万7701人で、充足率は88.1%だった。とくに部隊の最前線で実務を担う階級「士」は、定員5万3166人に対して現員が3万729人しかおらず、充足率は57.8%にとどまる。白書は「自衛官の人材確保は至上命題である」と記した。
充足率とは、自衛官の定員に対してどの程度の人員(現員)が満たされているかを示す割合のことだ。白書が示した数字は、装備や予算をいくら積んでも、それを動かす人がそろっていない状況を表している。
不足は「士」に偏っている
階級別に見ると、不足の度合いは一様ではない。定員に対する現員の割合は、幹部が93.1%(定員4万6800人に現員4万3553人)、准尉が94.6%(4943人に4677人)、曹が97.5%(14万2245人に13万8742人)で、いずれも9割を超えている。
これに対して士は、定員5万3166人に対し現員3万729人で57.8%にとどまる。士の現員の内訳は、任期を定めずに勤務する非任期制の士が1万9383人、2年または3年の任期で任用される任期制の士が1万1346人である。
自衛官の階級は上から幹部、准尉、曹、士の順に並ぶ。指揮する側の幹部と、中堅として部隊をまとめる曹がほぼ満たされている一方で、その下で人数の厚みを支えるはずの士が定員の6割を切っている。全体の充足率88.1%という数字の中身は、実際にはこの一点に不足が集中している。
自衛隊別では、陸上自衛隊が86.5%(定員14万9403人に現員12万9176人)で最も低い。海上自衛隊は91.2%(4万5462人に4万1463人)、航空自衛隊は89.8%(4万7131人に4万2324人)、統合幕僚監部など(内部部局、防衛装備庁、情報本部、共同の部隊を含む)は91.9%だった。人数の規模が大きい陸自の不足が、全体の数字を押し下げている。
なお、女性自衛官は2026年3月末現在で2万261人、全自衛官の現員の約9.3%を占める。
定員は10年間変わらず、現員だけが5年で1万4808人減った
白書が載せた過去10年間の推移を見ると、定員は2016年度から2025年度まで一貫して24万7154人で変わっていない。動いているのは現員のほうだ。
2016年度末の現員は22万4422人で、そこから増減を繰り返しながら2020年度末に23万2509人まで増えた。この年がピークで、以降は23万754人(2021年度末)、22万7843人(2022年度末)、22万3511人(2023年度末)、22万252人(2024年度末)、21万7701人(2025年度末)と、5年続けて減っている。2020年度末と比べると1万4808人少ない。
つまり定員割れは、定員を引き上げたために生じたものではなく、現員が減り続けたことで広がってきた。
政府が進める防衛力の抜本的強化についても、白書は「自衛官の定員は増やさずに必要な人員を確保する」と明記している。2027年度末の常備自衛官定数は2022年度末の水準を目途とし、陸海空それぞれの定数は組織定員の最適化のため適宜見直すという方針だ。人を増やすのではなく、限られた人員をどう配分するかという前提で計画が組まれている。
採用は計画1万5000人に対し約1万1000人
採用の実績も白書に記載された。2024年度は約1万5000人の採用計画に対して実際の採用者数が1万人に達せず、中途退職者は約5600人だった。2025年度は同じく約1万5000人の計画に対して約1万1000人が採用され、中途退職者は前年度より約1000人減って約4600人となった。
採用者数は1年で約1000人増え、中途退職者は約1000人減ったことになる。白書はこれを、処遇改善の取り組みが「2025年度の募集・採用および中途退職の抑制に一定の効果をあげている」と評価している。ただし年間の採用が計画に4000人届かない状態は続いており、現員の減少に歯止めがかかったとまでは書かれていない。
処遇面では、2024年10月に首相を議長とし、官房長官や防衛相ら関係閣僚が加わる「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議」が設置され、同年12月に基本方針がまとめられた。これに基づき2025年度から、過去に例のない30を超える手当の新設・引き上げが実施された。2025年の人事院勧告を踏まえた給与改定では、新隊員だけでなく部隊の中核を担う30代や40代の隊員も年収で20万円以上増え、白書は全自衛官の給与が過去最高の額になったとしている。
採用の仕組みも変えた。2026年度からは自衛官候補生制度を廃止し、当初から自衛官として採用する新たな任期制士の募集を始めた。士と曹で約5年間勤務した後に幹部となる「幹部候補曹」も新設され、2025年から募集が始まっている。
白書は「組織文化」に踏み込んだ
白書は、内閣府の世論調査で国民の9割が自衛隊に好意的な印象を持っていると紹介したうえで、それでも人材確保は困難な状況にあるとした。
そのうえで「国の防衛という厳しい任務を担うがゆえに、平素から厳しい環境に耐え続けることが当たり前という組織文化では、人材確保はおぼつかない」と記し、個々人のやりがいと働きやすさを大切にし、働きがいを向上させる組織にしていく必要があると指摘した。処遇や採用制度だけでなく、組織のあり方そのものを課題として挙げた形だ。
また、多くの自衛官が56歳で退職することを踏まえ、再就職や収入への不安をなくすことが人材確保の面でも重要だとしている。
人手不足は自衛隊に限った話ではない。内閣府と財務省が9月11日に公表した法人企業景気予測調査(2026年7〜9月期)の特別調査では、人手不足が経営に与える影響として「業務負担・勤務時間の増加」を挙げた大企業が全産業で62.8%と最も多く、「賃上げに伴う人件費の上昇」41.7%、「採用コストの増加」41.5%が続いた(大企業の景況感、2期ぶりに改善)。自衛隊は、同じ働き手を民間と奪い合う位置にある。高齢化の進行によって、採用の母数となる若年層は今後さらに細る。
白書の巻頭で防衛大臣は、インド太平洋で中国・北朝鮮の軍事力増強や中ロ・ロ朝の連携強化がみられ、各国がロシアによるウクライナ侵略を教訓に無人アセットの大量運用を含む「新しい戦い方」や長期戦への備えを急いでいると記した。日本周辺の個別の動きは、北朝鮮の弾道ミサイル発射や中ロの合同軍事演習として別に伝えている。
なお白書は、本書が2025年4月から2026年3月までの1年間を対象としていると断っており、今回の充足率は2026年3月31日時点の数字である。
