経済産業省が6月30日に閣議配布した令和8年版通商白書は、ナフサなど石油製品の輸入で、日本が中東に対して統計の見た目以上に深く依存していると指摘した。2024年の輸入額142億ドルのうち、中東から直接入ってくるのは83億ドルで58.5%にあたる。残りで最大の仕入れ先は韓国の26.3%だが、その韓国自身が石油製品の輸入の6割を中東から得ている。

直接58.5%、その先にも中東がある

白書が国連の貿易統計をもとに作った2024年の内訳によると、日本の石油製品の輸入相手は、韓国が26.3%で最も多く、アラブ首長国連邦(UAE)24.4%、クウェート16.1%、カタール13.3%と続く。中東の国だけを足すと58.5%になる。

問題はその次だ。白書は、韓国の石油製品輸入198億ドルのうち119億ドルが中東産で、6割以上を占めることを示した。日本が韓国から買う分をたどると、そこでも中東に行き着く。白書はこの点を、ナフサなど石油製品におけるアジアのサプライチェーンリスクとして挙げている。

同じ構図はほかのアジア各国にもある。日系企業の生産拠点が多いタイは、石油製品の輸入23億ドルのうち21億ドルが中東産で、9割を超える。一方、精製能力を持つシンガポールは204億ドルのうち43億ドルで、2割ほどにとどまる。

石油製品の統計は、ここではHS271012という分類を使っている。ナフサのほか、ガソリン、灯油、軽油も含む区分である。

ホルムズ海峡を通る原油の9割はアジア向け

もうひとつ白書が挙げたのが、輸送経路の偏りだ。米エネルギー情報局(EIA)の2025年上半期のデータで、ホルムズ海峡を経て運ばれる原油の行き先は、中国が1日あたり540万バレルで最も多く、以下インド200万バレル、日本170万バレル、韓国170万バレルと続く。その他のアジア・大洋州向けを合わせると、通過する原油の約9割がこの地域に向かう計算になる。欧州向けは60万バレル、米国向けは40万バレルにすぎない。

白書は、EIAもアジア市場がホルムズの供給途絶の影響を最も受けやすいと分析していると紹介したうえで、ホルムズ海峡が事実上閉鎖された局面では、海峡を通る船がタンカーを中心に平常時の5%を切り、原油価格は1バレル100ドルを超える水準まで上がったと記述している。

そもそも中東は、2024年時点で世界の原油埋蔵量の55.6%、生産量の31.7%、輸出量の約38%を占める。埋蔵量でみれば世界全体の1兆5,669億バレルのうち8,712億バレルが中東にある。

ナフサが上がると、届く先は広い

石油製品の供給不安は、価格を通じて幅広い産業に伝わる。白書によると、アジアのナフサ指標価格は4月末に1トンあたり1,104ドルまで上昇した。

ナフサは石油化学製品の出発点にあたる原料だ。白書が総務省の産業連関表を使って波及先をたどったところ、ナフサからはエチレンやプロピレンなどの石油化学基礎製品、ベンゼンなどの芳香族製品が作られ、そこから熱可塑性樹脂(ポリエチレン、塩化ビニル樹脂など)、可塑剤、高機能性樹脂(ポリカーボネートなど)、化学繊維、塗料へと広がる。最終的な用途はビニールシートやラップ、自動車部品、携帯電話の部品、衣類、菓子袋のインクにまで及ぶ。

医療の現場にも及ぶ。白書は、日本で使われる手術用手袋などがほぼすべて輸入品で、マレーシア・タイ・ベトナムから約6割を入れていると指摘した。需要の過半を占める非天然ゴム製の手袋は、原材料に石油製品を使う。その原材料をアジアだけではまかなえないため、白書は「間接的な依存を含むと」主な輸入相手国であるマレーシア・タイ・ベトナムに強い中東依存があるとした。石油製品を経由して、医療現場で使う物資まで中東の情勢につながっている形だ。

通商白書とは

通商白書は、国際経済の動向や各国の通商政策を分析し、日本の通商政策の考え方を示す年次報告書で、今回で78回目になる。中小企業白書やエネルギー白書のように法律で作成が義務づけられた白書ではなく、毎年の閣議配布という形で公表されている。

令和8年版は第1部を「動乱の中の世界経済と新興国経済」と題し、政策の不確実性が2000年以降で最も高い水準にあると分析した。そのうえで、リスクが供給側だけでなく需要側や自然災害でも表れるとして、日本を含むアジア全体でのサプライチェーンの強靱化を「喫緊の課題」と位置づけている。経済産業省は白書とあわせ、今後の通商政策の方向性を示す「通商戦略2026」も取りまとめた。