国土交通省は9月30日、建築着工統計調査報告の令和8年8月分を公表した。新設住宅着工戸数は6万3974戸で、前年同月比6.1%の増加。5か月連続で増えた。ところが同じ資料に載る季節調整済み年率換算値は75万3108戸で、前月比2.7%の減少となり、2か月続けて減っている。増加と減少が並ぶが、数字が食い違っているわけではない。
増えたのは「1年前との比較」、減ったのは「前の月との比較」
6.1%増は、着工戸数の原数値を前年の同じ月と比べたものだ。これに対して2.7%減は、季節による偏りを取り除いたうえで前の月と比べている。比べている相手が違う。
なぜ使い分けるのか。国交省が公表している調査の説明資料は、建築工事は梅雨明けの夏から秋に着工が集中し、寒冷地では秋以降に着工が減るなど、統計数値が季節によって変動するため、原数値の前月比を利用することは「問題がある」と明記している。そのうえで、通常は前年同月比で増減を判断し、前月比を見る場合は季節変動を取り除いた季節調整値を使うことが必要だとしている。季節調整に使っている手法は「センサス局法 X-12-ARIMA」である。
季節調整済み年率換算値の動きをたどると、6月が78万6432戸、7月が77万3916戸、8月が75万3108戸。2か月で3万3324戸下がった。前年同月比では5か月連続で増えていても、直近の勢いは弱まっているという読み方になる。
年率換算は2025年の年間実績を上回る水準
では75万3108戸という水準は高いのか低いのか。同じ説明資料は、季節調整済み年率換算戸数について「年間着工戸数との対比が容易なので便利な指標である」としている。1か月の着工ペースが1年続いたら何戸になるかを示す数字なので、年の実績とそのまま比べられる。
比較対象になる令和7年(2025年)の年間実績は74万667戸だった。前年比6.5%減で、3年連続の減少である。8月の年率換算値75万3108戸は、これを1万2441戸上回っている。2か月続けて下がってはいるものの、水準としては昨年1年間のペースより上にある。
もっとも、住宅そのものの量は長く縮んできた。日本の固定資本ストックは2077.9兆円 民間住宅は48期連続で減りピークから37.8兆円目減り 企業設備は852.2兆円で50期連続プラスのとおり、蓄積された民間住宅の価値は減り続けている。年あたり70万戸台の着工は、積み上がった古い住宅の目減りを補いきれていない。
持家・貸家・分譲がそろって増え、近畿でマンションが6割増
8月の内訳は、持家が1万7713戸(前年同月比1.0%増)、貸家が2万8309戸(同6.5%増)、分譲住宅が1万6838戸(同6.4%増)で、3つとも5か月連続の増加だった。分譲の内訳はマンションが6475戸(同5.3%増)、一戸建住宅が1万182戸(同7.5%増)である。
資金別に見ると差が出る。持家のうち民間資金によるものは1万6232戸で2.0%増えたが、公的資金によるものは1481戸で8.6%減り、5か月ぶりに減少に転じた。逆に貸家では、公的資金によるものが2642戸と47.7%増えて、前月の減少から再び増加した。建築工法別では、プレハブが8227戸で12.3%増、ツーバイフォーが7724戸で0.9%減と3か月連続の減少だった。
地域別の振れは大きい。首都圏は総戸数が9.2%増(貸家15.2%増、分譲マンション0.8%減)、中部圏は11.0%増だが分譲住宅は15.9%減で、うち分譲マンションは55.9%減った。近畿圏は12.3%増で、分譲マンションは61.9%増と逆に大きく伸びた。その他地域だけが2.0%減である。分譲マンションは一棟の着工で戸数がまとまって動くため、月ごとの振れが大きくなりやすい。この統計でいう「マンション」は、分譲住宅のうち鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造の共同住宅を指す。
なお、着工は工事の始まりを示すもので、現場が計画どおり進むかは別の話だ。建設現場の職人不足、8月は1.3%の不足で今年最大 資材13品目の価格は横ばい 3か月先はH形鋼で29都道府県が値上がり予想のように、人手と資材の制約は続いている。
景気の先行指標として使われる統計
この統計は、建築基準法第15条第1項に基づいて建築主が都道府県知事に提出した建築工事届のうち、住宅部分を集計したものである。届け出が根拠なので、調査対象月の翌月末には結果が出る速報性がある。国交省は、住宅建設のフローに関する基礎的データで「住宅投資の動きを見るための代表的な指標」と位置づけている。
注目される理由は速報性だけではない。説明資料は、新設住宅着工の動きは景気変動に対して先行性があるとされ、着工床面積の動きが景気動向指数の先行系列として利用されている、としている。家を建てる決断は景気の変わり目に先んじて現れる、という考え方だ。8月の着工床面積は485万8000平方メートルで、前年同月比5.6%増、こちらも5か月連続の増加だった。
数字を読むときの前提もある。説明資料は、新設住宅着工戸数が世帯数や人口の移動状況、住宅ストックの老朽・狭小度といった基礎的な要因に加え、建築費、地価、所得、住宅金融の動向という経済的要因にも大きく影響されるとして、これらを併せて見る必要があるとしている。また統計上の「戸」は、居室や台所など独立して居住できるように設備された一棟またはその一部を指すため、アパートやマンションは一棟で一戸とは数えない。届け出義務のない床面積10平方メートル以下の建築物は含まれない。
令和8年9月分の公表は10月30日を予定している。
