総務省は10月23日、選挙の公正を害するおそれのある情報がSNSで広がることへの対策として、大規模なプラットフォーム事業者に求める「軽減措置」の指針案と、情報流通プラットフォーム対処法の施行規則の改正案を公表した。10月24日から11月24日まで意見を募集している。指針案は、投稿の収益化の停止や、AIで作られた画像・映像の検知と警告表示など、事業者に実施を勧める措置を9分野にわたって例示した。ただし、どの措置を講じるかは事業者の判断に委ね、個別の投稿の削除も求めないと明記している。指針と省令は、根拠となる改正法の施行日である2027年3月1日に施行する。

改正法で事業者に「軽減措置」の義務

指針の根拠は、7月13日に議員立法で成立した公職選挙法と情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の改正法だ。各党の国会議員でつくる「選挙運動に関する各党協議会」の議論を踏まえて提出された。

改正法は、情プラ法で総務大臣の指定を受けた大規模事業者に対し、自社のサービスで流れる情報のうち「法令に違反する情報」「虚偽の情報」「事実をゆがめた情報」その他の選挙の公正を害するおそれのある情報による悪影響を軽減するため、サービスの特性に応じた措置を講じることを義務付けた。その実施状況を年1回公表することも義務とした。総務大臣は措置の適切かつ有効な実施に必要な指針を定めることとされ、今回の案はこの規定に基づくものだ。告示案には、総務大臣として藤井比早之氏の名が記されている。

指定を受けている大規模事業者は、総務省のウェブサイトによると、2025年4月に指定されたGoogle、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの5社と、同年5月に指定されたドワンゴ、Pinterest、サイバーエージェント、湘南西武ホームの4社の計9社だ。対象となる選挙は、公職選挙法に基づいて行われる選挙だ。

この改正法の施行を前にした9月の記者会見で、当時の林芳正総務相が選挙をめぐる偽・誤情報を「深刻な課題」と述べ、指針の策定を進めていると説明していた経緯は選挙の偽・誤情報、林総務相「深刻な課題」 AI生成画像の表示義務など改正法は来年3月1日施行 施行前も大手SNSに「適切な対応を期待」で伝えている。

推奨措置は9分野、収益化とAI生成物に重点

指針案が「推奨される軽減措置の具体例」として挙げたのは、次の9分野だ。

分野 主な内容
体制の充実・整備 選挙期間とその前後に、法律の専門家の雇用を含めて対応体制を厚くする
送信防止措置 利用者の申し出や自社の検知を踏まえ、利用規約に基づき投稿削除やアカウント停止を行う
収益化に関する措置 収益化の要件整備と厳格な審査、対象者である旨の表示、閲覧数連動の仕組みの見直し、収益化の停止
AI生成コンテンツへの対応 利用ルールの整備、AI生成である旨の表示機能、自社による検知と利用者への警告表示
発信者情報の表示 「本人確認済」の表示、発信者の所在地(国・地域)の表示
優先的表示機能 公的機関や候補者・政党の公式情報、選挙公報などを見やすい位置に出す。虚偽情報の表示順位を下げる。ファクトチェック機関が虚偽の可能性が高いと評価した投稿に警告を出す
人為的拡散行為への対応 プログラムや大量の端末を使った大量発信を検知し、関わったアカウントの停止や投稿削除を行う
多様な主体との連携 選挙管理機関やファクトチェック機関との情報共有、候補者・政党からの相談窓口の設置
状況分析 学識経験者や民間調査研究機関と連携した科学的な分析とそれに基づく対応
指針案が例示した推奨措置の9分野

出典: 総務省「選挙の公正に対する悪影響を軽減するための措置の適切かつ有効な実施に関する指針(告示)案」

収益化の項目では、閲覧数や再生回数に応じて投稿者に金銭を支払う仕組みがある場合、必要に応じて要件を見直し、選挙の公正を害するおそれのある情報の発信や拡散につながる「金銭的な誘因の抑制」を図るよう求めた。注目を集めるほど収入が増える仕組みが、虚偽の投稿を広げる動機になるという問題意識がうかがえる。

AI生成コンテンツでは、改正公職選挙法が、選挙運動などに使う文書図画にAIで作成・改変した画像や映像を載せてネットで頒布する者に、その旨の表示を義務付けたことを前提にしている。指針案は、投稿者が表示しやすい機能の実装に加え、候補者に関する虚偽の情報に当たるものなど選挙の公正を害するおそれのあるAI生成物については、投稿者が表示していなくても事業者が自ら検知し、利用者に警告を表示することを挙げた。表示義務の運用上の論点は選挙のAI画像に表示義務、「どう表示するか」は条文になし 総務省の研究会で専門家が指摘 米ユタ州は文言と来歴情報の埋め込みまで規定で詳しく扱っている。

「表現の自由に最大限配慮」、削除は求めず

指針案は、推奨措置はあくまで例示であり、全ての実施を義務付けるものではないと繰り返し記している。各党協議会の議論と国会審議では、表現の自由に最大限配慮する観点から、具体的な措置の内容は事業者の判断に委ね、措置そのものは行政処分や罰則の対象とせず、個別の情報への対処も事業者に直接義務付けないこととされた。指針案はこの経緯を引き、事業者が講じる個別の措置への調査・指導には「慎重な判断が求められる」とした。

選挙の公正を害するおそれのある情報の具体例も示していない。個別の情報を例示すると、それ以外は該当しないかのように受け取られたり、事業者に対処を促していると受け取られて「過剰な削除にもつながりかねない」ためだと説明している。一方、国会質疑で示された考え方として、現職議員を含む候補者への悪質な誹謗(ひぼう)中傷で、虚偽の事実やゆがめた事実により選挙の公正を害するおそれが生じた場合も「含まれ得る」と記した。

削除については、他の手段があるのに送信防止措置を「みだりに講ずること」は表現の自由の過度な制限につながり得るとして、適切ではないと明記した。特定の利用者や主張を合理的な理由なく差別的に扱わないことも求めた。措置を講じる場合は基準を事前に公表し、影響を受ける投稿者に措置の内容と理由を通知することが「望ましい」としている。

総務省の別の検討会では、名誉毀損(きそん)にあたる投稿の削除について大手5社の考え方に差があることも明らかになっている(名誉毀損の削除、SNS大手5社の答えに差 Xは「裁判所の判断」 総務省の検討会に書面回答)。

実施状況は様式で年1回公表、命令違反には罰則

措置の中身は事業者に委ねる一方、公表は義務で、罰則の裏付けがある。施行規則の改正案は、年1回公表する事項を「講じた措置の具体的な内容及び結果」と定め、指針が定める様式に従って公表するよう規定した。指針案の様式は、実施した措置が9分野のどれに当たるかと、具体的な内容・結果を定性的・定量的に書く形で、指針案は「可能な限り定量的に公表することが望ましい」とした。事業者が自ら行う評価も公表事項で、指針案は「できる限り批判的かつ客観的に」行うよう求めている。

指針案によると、総務大臣は公表義務の施行に必要な範囲で事業者に報告を求めることができ、報告を怠ったり虚偽の報告をしたりすると50万円以下の罰金となる。公表義務に違反していると認めるときは是正を勧告し、正当な理由なく従わなければ命令できる。命令に違反した行為者は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、法人には1億円以下の罰金が科される。

指針案は、大規模事業者以外の事業者のサービスでも指針を踏まえた措置が講じられることを「期待」するとし、情報通信技術や選挙をめぐる情報流通の変化に応じて適時見直すとした。見直しも各党協議会の合意内容に基づいて行う。

意見は電子政府の窓口「e-Gov」の意見提出フォームのほか、電子メールと郵送でも受け付け、11月24日必着としている。総務省は寄せられた意見を踏まえて規定を整える予定だ。2027年3月1日の施行後は、その後に行われる選挙で、事業者が実際にどの措置を選び、その結果をどこまで数字で示すかが問われることになる。