経済産業省は10月9日、令和8年熊本地震で被災した事業者の「多重債務問題」に対応するため、熊本商工会議所内に「熊本産業復興相談センター」を開設し、同日から相談の受け付けを始めたと発表した。あわせて、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)と株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)が、地域の金融機関などと共同で「令和8年熊本地震復興支援ファンド(仮称)」を設立する。総額は最大50億円で、被災事業者が抱える既存の借入金の債権を買い取り、債務の解消と事業の再建を目指す。発表は内閣府、金融庁と同時に行った。

前の災害の借金が、次の借り入れを阻む

経産省が対応の対象に挙げた「多重債務問題」とは、過去の被災などで借りた資金(既往債務)の返済が負担となり、復旧のための新たな資金調達が難しくなる状態を指す。工場や店舗を建て直すには追加の借り入れが要るが、すでに残っている借金の返済と重なれば、事業者の負担は二重、三重になる。

熊本では、この問題が特に重い。政府が8月27日に令和8年熊本地震非常災害対策本部で決めた「被災者の生活となりわい支援のためのパッケージ」は、被災地が平成28年熊本地震、令和2年7月豪雨、令和7年の大雨に続いて今回の災害に見舞われ、「四重苦」の状態にあると記した。気象庁によると、令和8年熊本地震は2026年7月28日に発生した。

パッケージは、なりわいの再建の項目で「平成28年熊本地震・令和2年豪雨等による多重被災事業者への手厚い支援を行います」と明記した。既往債務を抱える被災事業者への支援として、官民の金融機関に貸付条件の変更を含むきめ細かな資金繰り支援を要請すること、中小企業活性化協議会による「債務調整支援」を行うことに加え、「地域経済活性化支援機構(REVIC)や中小企業基盤整備機構等を活用したファンドを含む様々な金融ツールを検討」すると書いていた。今回のファンドは、このパッケージを踏まえて設立するものだ。政府はパッケージを実行するため、総額1,478億円の予備費の使用を8月28日に閣議決定している。

新たな借り入れの面では、セーフティネット保証4号の対象地域が9月18日から熊本県の全45市町村などに広がっている(熊本地震の中小企業支援、熊本県全域と鹿児島19市町村へ拡大 18日から 融資の全額を別枠で保証)。パッケージには、4号に加えてさらに別枠で融資の100%を保証する「災害関係保証」や、局地激甚災害の指定地域(御船町・八代市・宇城市・氷川町・嘉島町)の中小・小規模事業者に1,000万円を上限として貸付金利を0.9%引き下げる措置も盛り込まれた。今回の相談センターとファンドは、これらとは逆に「すでにある借金」の側から手を付ける仕組みになる。

「オール熊本」で組む10年のファンド

経産省が公表した別紙によると、ファンドの正式名称は「令和8年熊本地震復興支援投資事業有限責任組合(仮称)」。出資の比率は中小機構が約30%、REVICの子会社であるREVIC復興キャピタルが約20%で、残る約50%を地域の金融機関などが出す予定だ。組合員には、肥後銀行、熊本銀行、熊本信用金庫、熊本第一信用金庫、熊本中央信用金庫、天草信用金庫、熊本県信用組合、熊本県信用保証協会、中小機構、肥銀キャピタル、熊本リバイタル、REVIC復興キャピタルが名を連ねる予定となっている。

運営にあたる無限責任組合員は、肥後銀行グループの肥銀キャピタル、リサ・パートナーズが平成28年熊本地震の際に設立したファンド運営会社の熊本リバイタル、REVICが設立した災害復興ファンド運営会社のREVIC復興キャピタルの3社。平成28年の地震で組成した「熊本地震事業再生支援ファンド」の参加各社と連携し、今回も同様の「オール熊本」体制で組むことを想定している。

存続期間は10年間で、最大3年間の延長ができる。支援の対象となり得るのは、令和8年熊本地震で被災し、ファンドによる既往債務の債権買い取りを主な手段として多重債務の解消と事業の再建を目指す、熊本県内に所在する事業者。必要に応じて、出資などによる補完的な支援も使う。契約手続きや法令上の手続きなどを経て、年内をめどに組成を終える予定だ。

相談窓口から債権買い取りへつなぐ

相談センターは、ファンドによる債権買い取りなどへ事業者をつなぐ入り口の役割を担う。所在地は熊本市中央区横紺屋町10の熊本商工会議所ビル3階で、電話番号は096-311-1288。運営は熊本商工会議所が行う。主な業務は、関係する支援機関や支援施策を紹介するワンストップの相談窓口と、事業計画・再生計画の策定支援の2つ。今後、八代市内にも相談窓口を開く予定としている。

同じ枠組みは、令和6年能登半島地震でも使われている。REVICの発表によると、「能登半島地震復興支援ファンド」は2024年5月24日に総額100億円で設立され、北國銀行、北陸銀行、地元の信用金庫、石川県、石川県信用保証協会、商工組合中央金庫、中小機構、REVICなどが出資した。石川県産業創出支援機構内に開設した「能登産業復興相談センター」と連携しており、2026年8月28日には珠洲市内の小売業者を対象に、債権買い取りの第6号案件となる投資を行ったと公表した。

パッケージは、なりわいの再建を通じて雇用の維持や事業継続を手厚く支え、地域経済の再生を図るとしている。熊本のファンドは年内の組成に向けて手続きを進め、相談センターはすでに受け付けを始めている。