政府は10月9日の定例閣議で、飲食料品の消費税率を2年間に限って引き下げ、中低所得の働く人に「就業者負担軽減支援金」を支給する法律案を決定し、同日、第222回国会に提出した。正式名称は「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」。9月15日に閣議決定した大綱の内容を条文にしたもので、一部の規定を除き2027年(令和9年)4月1日に施行する。担当は内閣官房の人口戦略本部・全世代型社会保障構築本部事務局。支援金を受け取れる人の所得の上限・下限や、1人あたりの支給額は法律には書かれず、すべて政令で定める形になった。
法案の「理由」は、物価の上昇を踏まえて飲食料品の消費税率を「臨時的に二年間に限り」引き下げるとともに、税・社会保険料の負担から社会保障の現金給付を差し引いた「純負担率」を踏まえて支援金を支給し、「働くことにより生活が向上することを実感できる社会の形成に寄与する」ためだと説明している。
飲食料品の税率は国税0.78%、地方消費税と合わせて1%
消費税の引き下げ期間は2027年4月1日から2029年3月31日まで。対象は、いま軽減税率(8%)が適用されている飲食料品で、事業者が国内で売る場合と、保税地域から引き取る(輸入する)場合の両方が含まれる。この間、消費税(国税)の税率は0.78%となり、地方消費税と合わせた税率は1%になる。地方消費税の減収分は、法案の附則で新たにつくる「地方消費税減収補塡特例交付金」で国が埋める。
税率を短期間で2度切り替えることになるため、法案は事業者向けの手当てを5つ盛り込んだ。1つ目は届け出の特例で、飲食料品を売る事業者が2027年4月1日を含む課税期間の途中に「課税事業者選択届出書」や「簡易課税制度選択不適用届出書」を出した場合、その課税期間の初日の前日に出したものとみなす。簡易課税を選んだ場合に原則2年間続けなければならない要件も、この課税期間には適用しない。
2つ目は簡易課税制度などの特例で、簡易課税や、インボイス登録をした小規模事業者向けの経過措置を使う事業者については、飲食料品の売り上げにかかる消費税額と同じ額を仕入れ控除税額とする。飲食料品の売り上げ分については、差し引きの納税額がゼロになる計算だ。3つ目は中間申告の特例で、税率が変わる前後の中間申告では、新しい税率が直前の課税期間にも適用されていたとみなして計算した額を記載できる。
4つ目は値札の総額表示の特例である。総額表示にすぐ対応するのが難しい事情があり、表示価格が本来の税込み価格だと誤認されない措置をとっている場合に限り、引き下げ前の2027年2月1日から3月31日までは引き下げ後の税込み価格を、引き下げ後の同年4月1日から5月31日までは従来の税込み価格を表示できる。引き下げが終わる2029年の前後にも、2月1日から5月31日まで同じ考え方の特例を置いた。5つ目は、定期購入の予約販売や通信販売について、税率の経過的な取り扱いを定める。
支援金の対象は4要件、金額は条文に書かず政令で
就業者負担軽減支援金は、年度ごとに年1回支給する。対象となるのは、次の4つの要件をすべて満たす人だ。①前年の勤労所得(給与収入に応じて算定した額と、一定額を超える事業所得・業務にかかる雑所得の合計)が政令で定める「所得下限額」を超える②前年の合計所得金額が政令で定める「所得上限額」以下③住民税の所得割額に政令で定める倍数を掛けた額と社会保険料控除額の合計から、公的年金等の収入を差し引いた額が政令で定める「純負担基準額」を超える④1月1日(基準日)時点で配偶者がいる場合、配偶者の前年の合計所得金額が政令で定める額以下――の4つである。基準日に日本国内に住所がない人には支給しない。
ただし消費税を引き下げている2027・28年度の2年間は、④の配偶者の所得要件を課さない。所得上限額を決める際の「扶養児童」も、本則の19歳未満ではなく16歳未満の扶養親族とする。
支給額は「前年の所得の額並びに扶養児童の有無及び数に応じて政令で定める額」とされ、法律に金額は書かれていない。今回の法律案の条文で円単位の金額が出てくるのは罰則の部分だけだ。法案は、所得下限額・上限額・純負担基準額と支給額について、政府が定期的に検証し、必要なら改定すると定めた。当分の間は社会保険料控除額も加味して額を決める。概要資料は、これを「年収の壁」に配慮した「就業促進特例加算」と説明している。
2027年度分の支給額については、支援金の総額が、その年度に飲食料品の消費税を1%にしたことで入る消費税収(地方消費税を含む)の見込み額を超えないよう考慮して定めると条文に明記した。2028年度分も同じ考え方をとる。大綱段階でも支給額は「検討し定める」との記述にとどまっており、9月の決定時の内容は食料品の消費税1%、大綱を閣議決定 2027年4月から2年間 支援金の額は決定後も「検討し定める」のままにまとめている。法案になっても、具体的な数字は政令に持ち越された。
市町村が認定、口座登録者は申請なしで支給も
支援金を受け取るには、基準日時点で住んでいる市町村長(東京23区は区長)の認定を受ける必要がある。認定の請求は、政令で定める期限までに行う。一度認定を受けた人がその後の年度も要件を満たしていれば、市町村長が改めて支給額を決め、要件から外れれば認定を取り消す。
申請の手間を省く仕組みとして、公金受取口座を登録している人(法案上は「公的給付支給等口座登録者」)については、受給資格と支給額が明らかな場合に限り、市町村長が職権で認定できる。支払いは、認定や支給額の決定の日から2か月以内に行う。
2029年4月には特別な支払いがある。消費税の引き下げが終わった後の支給へ円滑に移るため、2028年度分には、本来の仕組みで計算した2029年度分の額の2分の1を基本とする額が上乗せされ、この上乗せ分を2029年4月に支払う。2029年度分の支給額も、本来の額の2分の1を基本とする。支給の時期をめぐる大綱段階での整理は「就業者負担軽減支援金」の支給は年1回 2029年度だけ4月と秋の2回に分けて半年分ずつ 費用の負担割合は年末までに国と地方で協議にある。
支援金を受け取る権利は、国税の滞納処分などの場合を除いて差し押さえることができず、支援金には税金などの公課をかけない。配偶者がいて前年の合計所得金額が一定額を超える人は、その年の3月15日までに配偶者の氏名などを書いた書面を、配偶者の住所地の市町村長に提出しなければならない。罰則も設け、偽りや不正な手段で支援金を受け取った人は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金とした。
費用は国が3分の2以上、財源は「特例公債に頼らず」
支援金の費用は、国が3分の2以上で政令で定める割合を負担し、残りを都道府県と市町村が半分ずつ負担する。9月15日の大綱本文は、この割合について「費用の負担割合の決定に際しては地方と協議する」としていた。法案は国の負担の下限を条文に置き、具体的な割合は政令に委ねた。支援金の事務にかかる費用は、政府が毎年度予算の範囲内で補助する。支援金の負担がなければ普通交付税を受けないと見込まれる市区町村には、当分の間「支給円滑化特別交付金」を交付する。概要資料によると、2027・28年度は全ての市区町村が交付の対象になる。
財源については、国の負担分も、消費税(地方消費税を含む)の減収を埋める分も、「特例公債に頼ることなく」補助金や租税特別措置の見直しなど歳出・歳入全般の見直しで確保すると定めた。支援金の国負担分は恒久財源の確保を旨とし、2027・28年度は「追加的な租税収入以外の収入」でも賄う。
内閣府には、支援金を担当する特別の機関として「租税・社会保険料負担に関する総合調整本部」を置く。国は市町村の事務を効率化するための情報システムを整備する。
金融所得の勘案や対象外の人への措置は「検討」に
法案は、制度の積み残しを多くの検討規定として書き込んだ。預金の利子を除く金融所得については、後期高齢者医療制度での勘案に向けた環境整備の進み具合も踏まえて支援金制度でも勘案する措置を講じるとし、預金の利子や資産の状況を考慮することも検討する。
給付だけの仕組みにとどめず、税額控除と給付を組み合わせる本来の「給付付き税額控除」の導入も、人的控除の見直しや情報通信技術の進展を踏まえて検討を続ける。国と地方の役割分担は「国の役割を拡大する方向」で、公布後速やかに知事会・市長会・町村会の代表らと協議する。
支援金の対象から外れる低所得の就業者や、病気などで働くことが難しい人への措置は、2028年度中に結論を得て、必要なら2029年度以降に講じる。働いていない高齢者などが取り残されないための措置と、第3号被保険者制度の見直しや厚生年金・健康保険の適用拡大は、次の年金の財政検証が作られる年の翌年までに結論を出す。このほか、人的控除を含む所得税の抜本改革や、医療・介護制度の改革についても検討規定を置き、法律全体は施行後5年をめどに見直す。
内閣官房の政策ページによると、政府は7月29日の社会保障国民会議の「中間とりまとめ」を受け、8月5日に「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定した。9月15日の大綱決定を経て、今回の法案提出に至った。法案は今後、国会で審議される。支援金の対象となる所得の範囲と支給額を示す政令がいつ、どのような水準で示されるかが、制度の中身を左右することになる。
