国際原子力機関(IAEA)は10月28日、東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水をめぐる「追加的モニタリング」のうち、2025年9月に発電所の近くで採った海水と魚の分析結果をまとめた報告書を公表した。日本の4機関、IAEA、中国・韓国・ニュージーランド・ロシア・スイスの5機関の計10機関が同じ試料を測り、ロシアの1機関が海水のトリチウム(三重水素)で報告した値を除いて、各機関の結果は統計的に一致したと結論づけた。外務省が29日に発表した。

発電所から約500メートルの海水と、久之浜港のヒラメ

今回の報告書が扱うのは、外務省が公表している試料採取の実績で第5回にあたる2025年9月の回だ。

海水は9月9日、日本の総合モニタリング計画が定める測定点「M-101」で、船から表層の水を採った。M-101は発電所から約500メートルの地点にある。各機関には、ストロンチウム90とセシウム137の分析用に20リットル容器3つで計60リットル(濃硝酸を加えてpH1〜2に酸性化)、トリチウムの分析用に2リットルが配られた。まず110リットルの混合容器2つに海水を満たし、そこから容器を1つずつ詰める手順で、海外の機関の専門家は希望すれば自分の機関に送る容器を自ら詰めた。それ以外は日本の委託業者が詰めた。

魚は翌10日、福島県の久之浜港の魚市場でヒラメをひとまとまり集めた。同じ日に発電所の近くで獲れたものだ。千葉県の海洋生物環境研究所(MERI)で切り身にして筋肉を均質にしたうえで分け、MERIに約2.4キロ、モナコにあるIAEAの海洋環境研究所と海外の5機関に約1.2キロずつを冷凍して送った。

海水は10機関すべて、魚はMERI、IAEA、海外5機関の計7機関が分析した。日本からはMERIのほか、日本分析センター(千葉県)、KANSOテクノス(大阪市)、九州環境管理協会(福岡市)が加わった。海外は中国輻射防護研究院、韓国原子力安全技術院、ロシアのモスクワ大学、ニュージーランドの公衆衛生・法科学研究所、スイスのシュピーツ研究所である。

10機関の値を突き合わせ、ずれを点数で測る

各機関は海水のトリチウム、ストロンチウム90、セシウム137と、魚のセシウム137を測り、1つの試料・1つの核種について測定値を1つ、不確かさと検出下限を添えて報告した。基準時刻は、海水が2025年9月9日、魚が10日の、いずれも協定世界時の正午である。

IAEAは全機関の結果から「べき調整平均」と呼ぶ手法で参照値を求めた。そのうえで、各機関の値と参照値の差を、その差の不確かさで割った「ゼータスコア」を算出した。技能試験の統計手法を定めた国際標準化機構(ISO)の規格に従い、スコアが−3から3の間なら99.7%の信頼水準で参照値と一致、その外なら一致しないと判定する。検出下限未満の値を報告した場合は評価の対象にしない。

報告書は、この仕組みの目的を、IAEAの分析機関網「ALMERA」に加わる各国の機関を通じて利害関係国の参加を広げ、透明性を一段と高めることだと説明している。ALMERAには世界の200を超える機関が加わる。日本とIAEAは2024年9月に実施で一致し、放出後の海水と魚のほか、海水で薄める前の処理水と、薄めた後で放出前の処理水も対象にしている。

海水のトリチウム、参照値は1リットル99ミリベクレル

海水の参照値は、1リットルあたりトリチウムが99ミリベクレル、ストロンチウム90が0.884ミリベクレル、セシウム137が4.65ミリベクレルだった。1ミリベクレルは1000分の1ベクレルで、トリチウムの99ミリベクレルは0.099ベクレルにあたる。

核種 参照値(1リットルあたり) 評価された機関 一致しなかった機関
トリチウム 99ミリベクレル 6機関 モスクワ大学(3330ミリベクレル)
ストロンチウム90 0.884ミリベクレル 7機関 なし
セシウム137 4.65ミリベクレル 8機関 なし
2025年9月9日に採った海水の分析結果出典: IAEA「Additional Measures September 2025: Marine Environmental Monitoring」

外れたのは、モスクワ大学がトリチウムで報告した3330ミリベクレルで、ゼータスコアは31.13だった。IAEAはこれを外れ値として参照値の計算から除いた。報告書は参照値の約34倍にあたるとして「適用された測定手法のある側面は見直しが必要」と指摘し、同大学に手順を点検し、今後この手法を使う前に原因に対処するよう促した。同大学はストロンチウム90とセシウム137では検出下限未満と報告しており、こちらは評価されていない。

トリチウムでは、中国(200ミリベクレル未満)、韓国(95ミリベクレル未満)、スイス(1200ミリベクレル未満)の3機関も検出下限未満だった。評価されたのは、日本の3機関、IAEA、ニュージーランド、ロシアの6機関である。KANSOテクノスは海水のストロンチウム90だけを報告した。一致の範囲内でスコアが大きかったのは、トリチウムのニュージーランド(2.22)、ストロンチウム90の韓国(−2.15)、セシウム137のMERI(2.12)だった。

東京電力によると、放出する水のトリチウム濃度は1リットルあたり1500ベクレル未満にする運用で、国の規制基準(告示濃度限度)は6万ベクレル、世界保健機関(WHO)の飲料水ガイドラインは1万ベクレルである。放出の現状は「福島第一原発の処理水、今年度7回目の放出開始 11月13日まで約7800立方メートル」にまとめている。

魚のセシウム137は1キロ0.329ベクレル、7機関すべて一致

ヒラメのセシウム137は、7機関の測定値が1キロあたり0.308〜0.355ベクレルの幅に収まり、参照値は0.329ベクレルだった。ゼータスコアは−0.65から0.95で、全機関が参照値と一致した。厚生労働省が定める一般食品の放射性セシウムの基準値は1キロあたり100ベクレルで、参照値はその約300分の1にあたる。

機関 測定値(1キロあたり) ゼータスコア
IAEA海洋環境研究所 0.355ベクレル 0.95
中国輻射防護研究院 0.341ベクレル 0.31
公衆衛生・法科学研究所(ニュージーランド) 0.336ベクレル 0.30
シュピーツ研究所(スイス) 0.325ベクレル −0.18
モスクワ大学(ロシア) 0.32ベクレル −0.15
海洋生物環境研究所(日本) 0.319ベクレル −0.53
韓国原子力安全技術院 0.308ベクレル −0.65
参照値 0.329ベクレル
2025年9月10日に集めたヒラメのセシウム137の分析結果出典: IAEA「Additional Measures September 2025: Marine Environmental Monitoring」

報告書は結論で、モスクワ大学のトリチウムを除く海水と魚の測定値はいずれも低く、日本、中国、韓国、ニュージーランド、ロシア、スイスとIAEAの機関が独立に確かめたと記した。そのうえで、これらの濃度は「人の健康や海洋生態系に懸念を生じさせる水準を大きく下回る」とし、計画どおりの放出なら人と環境への放射線の影響は無視できるとした2023年7月のIAEA包括報告書の結論と整合すると述べた。外務省は、今後もIAEAと連携して国際社会に透明性高く情報を提供し、放出の安全性について国内外の理解を広げることに努めるとしている。

この10月に行われたIAEAの監視の予定は「福島第一原発の処理水、IAEAの監視が10月に2件 6〜16日は海水と水産物の採取に立ち会い、7日は12回目の追加採水 中国・韓国・ロシア・スイスが参加」で伝えた。

採取から公表まで1年1か月、採取は12回目まで

今回の報告書は、2025年9月の採取から1年1か月余りたって公表された。外務省によると、追加的モニタリングの試料採取は2024年10月15日の第1回から、2026年10月7日の第12回まで続いている。

回 採取日 対象
第1回 2024年10月15日 海水
第2回 2025年2月19〜21日 海水、水産物、希釈前の処理水
第3回 2025年4月15日 希釈後・放出前の処理水
第4回 2025年6月17日 希釈前の処理水
第5回 2025年9月9〜10日 海水、水産物(今回の報告書)
第6回 2025年12月5日 希釈後・放出前の処理水
第7回 2026年2月4〜5日 海水、水産物
第8回 2026年5月29日 希釈前の処理水
第9回 2026年6月24〜25日 海水、水産物
第10回 2026年7月9日 希釈後・放出前の処理水
第11回 2026年9月11日 希釈前の処理水
第12回 2026年10月7日 希釈後・放出前の処理水
追加的モニタリングの試料採取の実績出典: 外務省(2026年10月29日発表)

海水と水産物を対象にした回は、第5回の後にも第7回と第9回がある。