政府は10月16日、緒方林太郎衆院議員が提出した「国際海峡の慣習国際法化に関する質問主意書」に答弁書を出し、国連海洋法条約が定める国際海峡の「通過通航制度」について、その中核的内容は慣習国際法として成立しているとの認識を示した。令和8年2月末以降のホルムズ海峡を巡る情勢を受けて各国の実行を改めて精査した結果だとしている。一方で、宗谷海峡や津軽海峡など5つの海峡で日本の領海を3海里にとどめている領海法附則の規定は「引き続き維持することが適当」と答えた。同じ日に出た「特定海域内における軍艦の停泊」を巡る答弁書では、外国の軍艦が領海の外側に停泊することが国内法令に触れるかどうかは「個別に判断する」とし、一般的な答えを示さなかった。

「不確定な面」の一部が解消

答弁書(内閣衆質二二二第三号)は、高市早苗首相の名で衆議院議長に送られた。緒方議員は臨時国会の召集日の10月5日に質問主意書を出していた。

質問の起点は、緒方議員自身が平成27年(2015年)に出した質問主意書への答弁書(内閣衆質一八九第七〇号)である。このとき政府は、国連海洋法条約の「国際航行に使用されている海峡」の通過通航制度について、「各国の実行の積み重ねが十分でなく不確定な面もある」と答えていた。緒方議員は今回、この考え方がいつ、どう変わったのかを尋ねた。

今回の答弁書は、2015年の「不確定な面」とは、各国の実行が十分でなかったため、条約第3部のどの規定が慣習国際法として成立しているかを政府として断定的に述べるのが難しいことを指していたと説明した。そのうえで、2月末以降のホルムズ海峡を巡る情勢を受けて政府が各国の実行を精査した結果、「通過通航制度の中核的内容」は慣習国際法として成立しているとの認識に至り、「不確定な面」の一部が解消されたと答えた。

認識がいつ変わったのかについては「断定的にお答えすることは困難」としつつ、政府参考人がこの認識を初めて述べたのは5月22日の衆議院外務委員会だったと記した。

慣習国際法になると何が違うのか

条約は、結んだ国の間でだけ守る義務が生じる。これに対し慣習国際法は、国々の実行が積み重なり、それが法として守られていると認められたもので、条約を結んでいない国も拘束する。

答弁書は各国の実行の例として、国連安全保障理事会決議第2817号を挙げた。答弁書によると、この決議は、一部の沿岸国が国連海洋法条約の締約国ではないホルムズ海峡について、合法的な通過通航または航行の自由が認められるべきだとする内容である。条約を結んでいない沿岸国がある海峡でも、通過通航の中核部分は守られるべき規範だという位置付けになる。

では「中核的内容」とは条約のどこを指すのか。答弁書は、条約第38条2の「通過通航とは、この部の規定に従い、公海又は排他的経済水域の一部分と公海又は排他的経済水域の他の部分との間にある海峡において、航行及び上空飛行の自由が継続的かつ迅速な通過のためのみに行使されることをいう」の部分だと答えた。船が通るだけでなく、航空機が上空を飛ぶ自由も含まれる。

一方で、条約には慣習国際法として固まっていない部分も残るとした。例として、群島国が条約第53条に基づいて指定できる「群島航路帯」を挙げ、どのような場合にどのような航路帯の指定が許されるのかは、各国の実行の積み重ねが十分でなく「不確定な面がある」と答えた。

5海峡の領海3海里は維持 理由に安全保障を明記

日本の領海は、領海法第1条で基線から12海里までと定めている。ただし附則第2項は、「当分の間」、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道、大隅海峡の5つを「特定海域」とし、領海を基線から3海里までにとどめている。12海里まで広げられる領海を、国際交通の要衝である海峡に限って4分の1の幅にとどめている。

緒方議員は、通過通航制度を巡る政府の考えが変わった以上、附則第2項を維持する根拠も変えざるを得ないのではないかと尋ねた。答弁書は「お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではない」としたうえで、規定は引き続き維持することが適当だと答えた。挙げた根拠は2015年の答弁書と比べると次のように変わっている。

2015年の答弁書(内閣衆質一八九第七〇号) 2026年の答弁書(内閣衆質二二二第三号)
3海里とする理由 海洋国家・先進工業国として、国際交通の要衝たる海峡で商船、大型タンカー等の自由な航行を保障することが「総合的国益の観点から不可欠」 同じ理由に加え、「通過通航制度を導入するに際しては我が国の安全保障上の観点から慎重な対処が必要であること」
通過通航制度の評価 各国の実行の積み重ねが十分でなく「不確定な面もある」 中核的内容は慣習国際法として成立。「不確定な面」の一部が解消
附則第2項 現時点でも維持することが適当 引き続き維持することが適当
特定海域の領海を3海里とする根拠を巡る政府答弁の比較出典: 衆議院 質問主意書・答弁書(内閣衆質一八九第七〇号、内閣衆質二二二第三号)

2015年の答弁では、通過通航制度の「不確定な面」が、領海を3海里にとどめておく考えの一部として述べられていた。今回、その一部が解消されたと認める一方、根拠として安全保障上の慎重な対処を新たに明記した。

外国軍艦の停泊は「個別に判断」

緒方議員は同じ日、「特定海域内における軍艦の停泊に関する質問主意書」も出していた。特定海域を含め、日本の領海の外側の海域(接続水域や排他的経済水域を含む)に他国の軍艦が停泊することは、現行の国内法上問題となるのかという質問である。

答弁書(内閣衆質二二二第八号)は、他国の軍艦が停泊することが国内法令に抵触するかどうかは「その目的、態様等を踏まえ、関係法令の規定に従って、個別に判断することとなるため、一概にお答えすることは困難である」と答えた。どの法令のどの規定に照らすのかは示していない。

緒方議員は2本の質問主意書の末尾に、近年「具体的に意味するところが必ずしも明らかでない」という答弁が広く使われているとして、「常識の範囲で意味を確定して答弁ありたい」と書き添えていた。第3号の答弁書は、附則第2項の維持を巡る問いに「お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが」と前置きして答えている。

第222回国会の質問主意書の一覧と提出の経緯は、第222回臨時国会の質問主意書は9本、うち8本が緒方林太郎議員 所属は2人会派の志士の会 召集日に一括提出も内閣への転送はまだで答弁期限は起算されずで伝えた。

航路帯の義務は「単純に比較することは困難」

第3号の質問主意書は、海峡の航路の決まりについても尋ねた。条約第22条1は、領海を無害通航する外国船舶に対し、沿岸国が指定する航路帯や分離通航帯を使うよう「要求することができる」と定める。第41条7は、通過通航中の船舶は国際海峡で設定された航路帯と分離通航帯を「尊重する」と定める。

緒方議員は、かつて外務省から、通過通航する船舶の尊重義務の方が弱く、日本が国際海峡を設けるときのリスクになるという趣旨の説明を受けたことがあると記し、どちらの義務が重いと考えるかを尋ねた。

答弁書は、第22条1は沿岸国の権利を定め、第41条7は通過通航中の船舶の義務を定めているとして、二つの「義務」を「単純に比較することは困難である」と答えた。

2015年の答弁書によると、対馬海峡西水道の対岸の韓国も、自国の領海の幅を3海里としている。宗谷海峡についてロシアは、日本との間の中間線までを自国の領海としている。答弁書は、通過通航制度の中核が慣習国際法になったとの認識を示しつつ、日本の海峡の領海を広げることはしないという立場を、根拠を足して改めて示した。