高額療養費制度の在り方を定める議員立法「全ての国民が安心して医療を受けられる環境の整備を図るための高額療養費等の制度の在り方に係る措置に関する法律案」が、10月5日に召集された第222回臨時国会で、同日付で衆院厚生労働委員会に付託された。前の第221回特別国会で提出され、閉会中審査を経て持ち越された。衆議院の議案一覧では、審議状況は「衆議院で審議中」となっている。法案は、医療費の自己負担が重くなりすぎないよう上限を設ける高額療養費について、上限額などを決める前に患者の家計や受診への影響を調べ、社会保障審議会と患者らの意見を聴く手続きを政府に義務付ける内容だ。上限額の水準そのものは書かれていない。
提出したのは野党3会派 条文は4条
衆議院の議案審議経過情報によると、法案は衆法第221回国会7号で、提出者は浜地雅一氏、早稲田ゆき氏、古川あおい氏、辰巳孝太郎氏の4人。提出会派は「中道改革連合・無所属」「チームみらい」「日本共産党」の3会派である。賛成者には野田佳彦氏、泉健太氏、長妻昭氏、赤羽一嘉氏、岡本三成氏、田村智子氏、塩川鉄也氏ら57人が名を連ねる。経過情報の「衆議院議案受理年月日」の欄は空欄で、付託年月日(令和8年10月5日)と付託委員会(厚生労働)だけが入っている。審査終了・審議終了の欄はまだ空いている。
第221回国会の議案一覧では、この法案は「衆議院で閉会中審査」とされていた。同じ国会では、ほかにも多くの議員立法が閉会中審査となり、今国会に持ち越されている(特別国会、内閣提出の64法案はすべて成立 議員立法は59件のうち14件 21件は閉会中審査)。第222回国会の会期は12月12日までの69日間で、委員会で審査に入るかどうかが次の段階になる。
条文は本則4条と附則だけの短い法律案である。第1条(趣旨)は、高額療養費の制度が「国民の生命及び生活を守る上で欠くことのできない中核的な役割を果たしている」と位置づける。第2条は対象を、医療保険各法などで支給される高額療養費と、医療と介護の自己負担を合算して上限を設ける高額介護合算療養費の2つと定義する。施行は公布の日からとしている。
法案が政府に求めること 調査と意見聴取
中身の中心は第3条の「基本方針」と、第4条の「法制上の措置等」である。
第3条はまず、高額療養費を受ける人が「療養等に必要な費用の負担により生活に困窮することのないよう」、支給要件や支給額を、①医療費の負担が家計に与える影響、②必要で適切な受診に与える影響の2点を考慮して定めることを求める。負担が増えて受診を控える人が出ないかを、額を決める段階で検討せよという趣旨だ。
そのうえで、2つの影響をつかむための調査として、次の3項目を挙げる。
- 受給者の給与その他の収入の状況と、その変動状況
- 受給者の子などの扶養にかかる支出、「とりわけ教育費に係る支出」その他の支出の状況
- 受給者の療養の状況その他の生活の実態
さらに、支給要件は収入の状況などに応じて「きめ細かく」、かつ受給者の利便性に配慮したものとすること、額などを決めるときは社会保障審議会の意見を聴くこと、その際に支給額の算定に関する資料を前もって示し、受給者その他関係者の意見を聴く措置を講じることを求めている。
第4条は、政府が「速やかに」この基本方針に基づいて法制上の措置その他の措置を講じなければならないと定める。法案は上限額を何円にするかを決めるものではなく、上限額を決めるときの調査と手続きを法律で縛る形をとっている。
8月に何が変わったか 月額上限の引き上げと年間上限
高額療養費は、医療機関や薬局の窓口で払った額が1か月の上限を超えたとき、超えた分が払い戻される制度である。上限は年齢と所得で分かれる。直近12か月に3回以上上限に達した人は、4回目から上限がさらに下がる「多数回該当」という仕組みもある。
厚生労働省によると、制度は2026年8月診療分から見直された。社会保障審議会医療保険部会に置かれた「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が2025年5月26日から12月25日まで9回開かれ、12月16日に「見直しの基本的な考え方」をまとめた。厚労省の資料は、委員会に患者団体、保険者、労使団体の代表らが参加したと説明している。
見直しは2段階である。2026年8月からは、1人当たり医療費の伸びに応じて月額上限を引き上げ、同時に8月から翌年7月までの1年単位の上限「年間上限」を新たに設けた。月ごとの負担が積み上がっても、年間上限に達すればそれ以上の負担は保険者から払い戻される。2027年8月からは、所得区分を細かく分ける。多数回該当の額は据え置き、年収200万円未満の課税世帯の多数回該当は2027年8月から引き下げる。
70歳未満の主な区分の月額上限は次のとおり。
| 年収の目安 | 2026年7月まで | 2026年8月から | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1160万円以上 | 25万2600円+1% | 27万300円+1% | 168万円 |
| 約770万〜1160万円 | 16万7400円+1% | 17万9100円+1% | 111万円 |
| 約370万〜770万円 | 8万100円+1% | 8万5800円+1% | 53万円 |
| 約370万円以下 | 5万7600円 | 6万1500円 | 53万円 |
| 住民税非課税 | 3万5400円 | 3万6900円 | 29万円 |
厚労省の説明では、2026年8月からの制度で70歳未満・年収約370万〜約510万円の人が医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円までに抑えられる。2027年8月からはこの区分が3つに分かれ、年収約510万〜650万円は9万8100円+1%、約650万〜770万円は11万400円+1%となる。年収約1160万円以上も3つに分かれ、最上位の約1650万円以上は34万2000円+1%になる。
法案と政府の見直しの違い
厚労省は今回の見直しを、制度を将来も維持するため「主に療養期間が短期の方に追加のご負担をお願いする」一方で、長期療養者と低所得者への配慮を強めたものと説明している。多数回該当の据え置きと年間上限の新設は、長く治療を続ける人の負担を増やさないための措置と位置づけている。
法案は、こうした額の見直しの是非を条文で直接論じてはいない。法案が加えようとしているのは、額を決める前の手順である。受給者の収入の変動や教育費を含む支出、療養の実態を調べること、算定の資料を前もって示して受給者の意見を聴くことを、法律上の義務にする。法案が成立すれば、政府は今後上限額を見直すたびに、この調査と意見聴取を経ることになる。
厚生労働委員会での審査の日程は、議案の経過情報からは確認できない。今国会は12月12日に会期末を迎える。医療保険制度ではほかに、介護保険の利用者負担の見直しも審議会で議論が進んでいる(介護の2割負担、対象拡大の議論が始まる 年金収入280万円の基準引き下げを2026年度中に結論)。法案が会期内に審査されなければ、再び閉会中審査とするか、審議未了で廃案となる。
