船越健裕外務事務次官は11月2日、韓国の朴潤柱(パク・ユンジュ)外交部第一次官と軽井沢で第17回日韓次官戦略対話を開いた。外務省が同日発表した。両氏は日韓関係全般について意見を交わし、今年1月と5月の首脳間の「シャトル外交」で強まった両首脳の信頼関係を基礎に、外交当局間で引き続き緊密に意思疎通していくことで一致した。北朝鮮の完全な非核化と拉致問題の即時解決に向けて連携することも改めて確認した。韓国大法院(最高裁)が10月30日に三菱重工業への損害賠償を命じる判決を確定させてから3日後の次官協議となった。
「未来志向で安定的に」意思疎通を続ける
外務省の結果発表によると、双方はまず、昨年に続いて次官戦略対話が開かれたことを歓迎した。そのうえで日韓関係全般について「幅広く率直な意見交換」を行った。
関係の進め方について、双方は首脳間の信頼関係を土台に置いた。発表は、1月と5月の「シャトル外交」を通じて「更に強固となった両首脳間の個人的な信頼関係を基礎に、日韓関係を未来志向で安定的に発展させていくため」、外交当局間で緊密に意思疎通していくことで一致したと記している。シャトル外交は、首脳が互いの国を行き来して会談を重ねるやり方を指す。
外務省の発表は、協議の時間や、どちらの側が何を述べたかの内訳を示していない。記されているのは「双方は」を主語にした確認事項と一致事項だけで、具体的な合意文書や新たな事業の名前は出てこない。発表の見出しは開催予告と同じく「戦略対話の開催」で、会談の場所は「軽井沢において」とだけ書かれている。
外務省は同じ日に、開催を予告する発表も出していた。そこでは対話の目的を「日韓関係、北朝鮮を含む地域情勢や日米韓連携等について、戦略的な観点から、率直な意見交換を行うもの」と説明している。結果発表の内容はこの3つの柱に沿っている。
北朝鮮と日米韓協力で連携を確認
地域情勢については、双方が「戦略的な観点から率直な意見交換」を行った。とくに北朝鮮について、ロシアと北朝鮮、中国と北朝鮮の関係を含む現下の情勢を話し合い、北朝鮮の完全な非核化と拉致問題の即時解決に向けて緊密に連携していくことを改めて確認した。インド太平洋を含む幅広い地域情勢についても意見を交わした。
日米韓の3か国協力では、安全保障と経済安全保障の分野で具体的な協力をさらに進めながら、引き続き日米韓の連携を重視していくことで一致した。3か国の外相は10月30日、米アトランタで今年4回目の会合を開いたばかりだった(日米韓外相、北極太平洋の協力覚書に署名 作業部会を設置へ 今年4回目の会合)。
こうした確認事項は、5月の首脳会談で両首脳が一致した内容と重なる。高市早苗首相は5月19日、李在明(イ・ジェミョン)大統領の故郷である韓国・安東(アンドン)を訪れ、約100分間会談した。外務省の記録によると、両首脳は北朝鮮の完全な非核化に向けて日韓、日韓米で緊密に連携することを確認し、高市首相は拉致問題の即時解決に向けた李大統領の理解と協力を求めた。安全保障と経済安全保障を含む日米韓の協力を持続・強化することでも一致していた。
5月の会談ではこのほか、重要鉱物を含むサプライチェーン(供給網)協力を3月に作成した覚書の下で進めること、原油・石油製品と液化天然ガス(LNG)の相互融通を含むエネルギー安全保障の協力を立ち上げることでも一致している。両首脳は、今後もシャトル外交を積極的に実施し、両政府間で緊密に意思疎通を続けることを申し合わせていた。今回の次官対話の結果発表も、この首脳間の信頼関係を協議の基礎に置いている。
2005年に始まり、9年の空白を経て毎年開催に
日韓次官戦略対話は、日本の外務事務次官と韓国外交部の第一次官が、日韓関係や地域情勢を「戦略的な観点から」話し合う協議である。外務省が開催予告に添えた一覧によると、第1回は2005年10月13日に韓国で開かれた。2011年6月の第11回までの約6年間に11回を重ね、2008年は1年に3回開いている。
| 回 | 開催日 | 開催国 |
|---|---|---|
| 第1回 | 2005年10月13日 | 韓国 |
| 第10回 | 2010年6月19日 | 日本 |
| 第12回 | 2013年1月10日 | 日本 |
| 第13回 | 2014年10月1日 | 日本 |
| 第14回 | 2023年10月5日 | 韓国 |
| 第15回 | 2024年6月28日 | 日本 |
| 第16回 | 2025年11月7日 | 韓国 |
| 第17回 | 2026年11月2日 | 日本(軽井沢) |
出典: 外務省「第17回日韓次官戦略対話の開催」(2026年11月2日)
一覧をみると、2014年10月の第13回のあと、次の第14回は2023年10月で、9年間開かれていない。2023年の再開以降は、韓国、日本、韓国、日本と開催地を交互にしながら年1回のペースで続いている。今回の結果発表が「昨年に続き」開かれたことを歓迎したのは、この流れを踏まえたものである。
大法院判決の確定から3日後
今回の対話の3日前の10月30日、韓国大法院は、朝鮮半島出身の元労働者らが三菱重工業を訴えた訴訟で、同社に損害賠償の支払いなどを命じる判決を確定させた。外務省によると、有吉孝史アジア大洋州局審議官(局長代理)は同じ日、駐日韓国大使館の李相烈(イ・サンヨル)次席公使に「これまでの我が国の一貫した立場に基づいて」申し入れを行った(韓国大法院、三菱重工に賠償命じる判決確定 政府は韓国側に申し入れ)。
大法院は8月12日にも、日本製鉄に賠償の支払いなどを命じる判決を確定させており、このときは金井正彰アジア大洋州局長が同じ次席公使に申し入れている。日本政府は、この問題を外務省のページで「旧朝鮮半島出身労働者問題」と呼んでいる。
11月2日の結果発表には、大法院判決や旧朝鮮半島出身労働者問題についての記述はない。発表は「日韓関係全般について幅広く率直な意見交換」を行ったとしているが、その中で判決が取り上げられたかどうかは、公表された文面からは分からない。
外務省の局長級でも、9月10日に金井局長が韓国・ソウルで李珉璟(イ・ミンギョン)外交部アジア太平洋局長と協議し、「双方の関心事項を含め」日韓関係全般について意見を交わしていた。このときも両局長は、日韓関係を未来志向で安定的に発展させる重要性を確認し、外交当局間の意思疎通を続けることで一致している。今回の次官対話の一致事項は、この局長協議とほぼ同じ文言で、外交当局間の意思疎通の継続を確認している。
