デジタル庁と英国政府デジタルサービス(GDS)は10月28日、デジタル政府分野における協力覚書(MoC)に署名した。2022年10月に結んだ覚書の期限が到来したことを受けた再締結で、これまでの6分野に「公共部門におけるAIの利活用」と「サイバーセキュリティ」を加え、協力分野を8つに広げた。古川デジタル相が30日の記者会見で明らかにした。期間は署名日から3年間で、その後はどちらかが半年前に書面で通知しない限り1年ごとに自動で更新される。
塩崎副大臣と来日中の英閣外大臣が署名
デジタル庁の発表によると、署名式は28日にデジタル庁で行われた。日本側は塩崎彰久デジタル副大臣、英国側は来日中だった英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)のルース・マッケンジー閣外大臣が署名した。両氏は併せて会談し、AI・デジタル分野での今後の協力について意見を交わした。
英国政府の公式サイトGOV.UKの人物紹介によると、マッケンジー氏は2026年7月22日にDCMSの政務次官(Parliamentary Under-Secretary of State)に任命された。担当は「芸術・博物館」で、GOV.UK上の表記は「Baroness Mackenzie of Sherwood CBE」である。覚書の署名欄にもこの表記と役職が記されている。
古川氏は30日の会見で、GDSを「英国において公共デジタルサービスを提供する行政機関」と紹介し、2022年に覚書を結ぶなど「これまでも友好関係を築いてまいりました」と述べた。そのうえで「この協力覚書の期限が到来していたため」、マッケンジー氏の来日に合わせて結び直したと説明した。今後は覚書のもとで英国とベストプラクティスを共有し、相互の学びを進めるとしている。
協力分野は6から8へ AIとサイバー対策を追加
覚書が定める協力分野は次のとおり。1〜6は2022年の覚書と同じ項目で、7と8が今回加わった。古川氏は追加の理由を「双方の関心を踏まえ」たものだと述べた。
| 番号 | 協力分野 | 2022年の覚書 |
|---|---|---|
| 1 | ユーザー中心のデザイン及びデザインシステム | あり |
| 2 | デジタル調達改革 | あり |
| 3 | デジタルスキルと能力 | あり |
| 4 | デジタルガバナンス、標準化と確実な遂行 | あり |
| 5 | オンライン決済やメッセージ・プラットフォームなど汎用共通デジタル政府サービス | あり |
| 6 | テクノロジーとガバメントクラウド | あり |
| 7 | 公共部門におけるAIの利活用 | 今回追加 |
| 8 | サイバーセキュリティ | 今回追加 |
出典: デジタル庁「英国とデジタル政府分野における協力覚書を取り交わしました」、同「英国とデジタル分野における協力覚書(MoC)の署名式を行いました」(2022年)
英文の覚書原文によると、両者はこれらの分野で、デジタル政府への転換や従来型の技術導入の見直しについて、情報や経験、教訓を交換する。活動の原則には、市民と事業者の必要に合わせて行政サービスを設計する「ユーザー中心のデザイン」、オープンな標準やオープンソース技術の推進を含む「開かれた透明な政府」、サービスの設計と提供にアクセシビリティ(誰でも使えること)を組み込むことの3つを掲げた。
調達改革はデジタル庁が国内でも見直しを進めている分野である。同庁は10月、政府システムの調達を生成AIの利用を前提に見直す有識者検討会を立ち上げている(政府システム調達、「生成AI前提」へ見直し議論 デジタル庁の有識者検討会が初会合)。覚書の「デジタルスキルと能力」も、同庁が国内で人材育成の目標を掲げている分野である(デジタル人材「230万人」は1年前倒しで達成、次は質を問う デジタル庁検討会が初会合の議事概要)。
期間は3年、以後は1年ごとの自動更新に
協力の期間は、2022年の覚書と同じく署名日から3年間とした。違うのはその後の扱いである。2022年の覚書は「相互の書面による同意により更新可能」としていた。今回の覚書は、どちらかが更新しない意向を6か月前に書面で相手に伝えない限り、1年ごとに自動で更新されると定めた。期限が来るたびに改めて署名し直す必要はなくなる。
覚書には、どちらかが3か月前に書面で通知すれば理由を問わず協力を打ち切れるとの規定もある。内容は両者の書面による合意で変更できる。
覚書は条約のような法的な義務を負うものではない。原文は「国際法、国内法のいずれの下でも、法的に強制できる権利や義務(財政上のものを含む)を生じさせない」と明記した。取り組みの費用や人員は案件ごとに両者で決め、それぞれが自らの行為で生じた損失を負う。協力を通じて得た情報は両者だけが使い、外部に出すのは相手の事前の書面同意がある場合か、法令や裁判所の命令などで求められる場合に限る。解釈で食い違いが生じたときは協議で解決し、第三者には付託しない。
2022年の締結から専門家会合を3回
最初の覚書は2022年10月31日、デジタル庁で結ばれた。署名者は当時の河野太郎デジタル相と、英国側はジェレミー・クイン内閣府担当相兼主計長官、トム・リードGDS長官だった。デジタル庁の当時の発表は、相手方を「英国内閣府・政府デジタルサービス」と記している。河野氏は署名式で、英国を「政府のデジタル化の取組を世界に先駆けて進めた国」と評し、デジタル庁の創設でも「大変参考にさせていただいている」と述べた。署名式に合わせてGDSの専門家が来日し、デジタル庁の職員と意見交換やワークショップを行った。デジタル庁はこれを第1回の専門家会合と位置づけている。
第2回は2024年7月8日と22日にオンラインで開いた。英国側はGDSのほか中央デジタル・データ・オフィス(CDDO)や内閣府が参加した。デジタル庁は国と地方のガバメントクラウドへの移行状況や、日本での「デジタルマーケットプレイス」導入に向けた取り組みを紹介し、英国側は調達改革やクラウド戦略の知見を示した。
第3回は2025年6月23日と24日にデジタル庁で開き、英国の国家サイバーセキュリティセンターなども加わった。今回の覚書で正式に協力分野へ入ったAIとサイバーセキュリティは、この会合ですでに議題になっていた。AIでは、デジタル庁が行政での生成AIの利活用や調達・利活用のガイドラインを紹介し、GDSのAI部門「i.AI」が政府全体のAI政策や、職員が業務で使うAIツールを説明した。サイバーセキュリティでは、デジタル庁が庁内の対応態勢づくりやガバメントクラウドでの安全対策を、英国側が政府のサイバーセキュリティの統治と説明責任の仕組みを紹介した。
このほか、デジタル庁はマイナンバーカードの利活用の現状を実演を交えて説明し、GDSは政府サービス共通のログイン機能「GOV.UK One Login」を発展させ、「GOV.UK Wallet」を導入する計画を紹介した。デジタル庁は会合の発表で、両国が「2026年に再び会合を開催する」予定だとしている。
GDSとはどんな組織か
GDSはGOV.UKで自らを「政府のデジタルの中枢」と称し、国民と中央省庁、公共部門全体に向けて仕事をしていると説明している。2025年の会合で紹介した共通ログイン機能やAI部門のi.AIも、GDSが担う取り組みである。
覚書の前文は、GDSについて、利用者の必要に基づくデジタル政府を英国に築くことを目指し、すべての人にとって簡素で、つながりがあり、一人ひとりに合った行政の体験をつくることを使命としていると記した。そのうえで、行政の開放性と透明性を土台に政府への信頼を高め、費用の節約や経済成長にもつなげていると書いている。デジタル庁については、デジタル技術の普及を進めて日本の人々によりよく奉仕することに取り組んでいると記した。
所属する省庁は2022年当時と変わっている。2022年の署名で英国側の代表は内閣府の閣僚だったが、GOV.UKの組織紹介は現在、GDSを「デジタル・文化・メディア・スポーツ省の一部」としている。今回の署名者も同省の閣外大臣だった。所属がいつ移ったのかは、確認した資料には書かれていない。
