こどもに接する仕事に就く人の性犯罪歴を事業者が確認する「こども性暴力防止法」が、2026年12月25日に施行される。正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号)で、2024年6月19日に成立し、同月26日に公布された。英国の前歴開示制度になぞらえて「日本版DBS」と呼ばれることもある。こども家庭庁は今年1月9日に施行ガイドラインを策定し、9月2日に改訂したうえで、事業者向けの準備ガイドやQ&Aを相次いで公表している。
法律の柱は二つある。一つは、こどもと接する業務の従事者について、雇い入れや配置転換の際に性犯罪歴を確認する「犯罪事実確認」。もう一つは、研修や相談体制の整備、こどもとの面談といった、日頃から講じる安全確保措置だ。こども家庭庁は、対象とする事業や業務を、こどもとの関係で①支配性②継続性③閉鎖性があるかという観点から線引きしたと説明している。
確認できるのは「特定性犯罪」の前科
犯罪事実確認で照会できるのは、不同意性交、不同意わいせつ、盗撮、未成年者に対する淫行、児童買春、児童ポルノ所持、痴漢などの「特定性犯罪」に限られる。被害者がこどもの事件だけでなく、成人に対する性犯罪も含まれる。
さかのぼる期間は刑の種類で分かれている。拘禁刑は執行が終わってから20年、執行猶予の判決は確定してから10年、罰金刑は執行が終わってから10年が経過していないものが対象だ。つまり実刑を受けた人については、刑務所を出て20年が過ぎるまで、確認のたびに前科が表示され続ける。
手続きは、事業者がこども家庭庁に申請し、従事者本人が戸籍情報を提出したうえで、こども家庭庁が法務省に照会する流れになる。前科が「あり」と回答された場合は、まず本人に内容が事前通知され、本人は訂正を請求できる。訂正を請求しないまま2週間が過ぎると、こども家庭庁から事業者に犯罪事実確認書が交付される。訂正請求の期間中に本人が内定を辞退すれば、確認書は交付されない。確認にかかる期間は日本国籍で2週間から1か月程度、外国籍で1か月から2か月程度を見込む。
前科が判明した場合、事業者は性暴力の「おそれあり」と判断し、こどもに接する業務に従事させないなどの防止措置を取らなければならない。ただし内定取り消しが有効と認められるには、募集要項に採用条件として性犯罪歴がないことを明記する、誓約書などで事前に確認する、内定通知書に「重要な経歴の詐称」を取り消し事由として書いておく、といった準備が要る。事前の確認がないと、前科が分かっただけでは取り消しが認められない可能性があるとこども家庭庁は注意を促している。
学校は義務、学習塾やスポーツクラブは認定を受けて参加
義務がかかるのは、幼稚園から小中学校、高校までの学校と、認定こども園、児童相談所、認可保育所や児童養護施設などの児童福祉施設、指定障害児通所支援事業、乳児等通園支援事業、専修学校の高等課程などだ。
一方、学習塾やスポーツクラブといった民間教育事業、放課後児童クラブ、認可外保育事業、一時預かり事業、病児保育事業などは、国の認定を受けるかどうかが任意になる。民間教育事業として認定を受けるには、6か月以上の期間中に同じこどもが2回以上参加できること、こどもと対面で接すること、こどもの自宅以外の場所で教えることがあること、教える人が3人以上いることという四つの要件を満たす必要がある。要件を満たせば芸能事務所やこども食堂も対象になり得る。
認定はオンライン申請で、手数料は3万円。申請から認定までは1〜2か月かかる見込みだ。認定を受けた事業者はこども家庭庁のウェブサイトで公表され、「こまもろうマーク」を広告やパンフレットに表示できる。保護者が事業者を選ぶ際の目印にしてもらう狙いがある。
確認の対象となる従事者は、教員や保育士のようにこどもと常に接する職種は一律に含まれる。事務職員や送迎バスの運転手など、業務内容によってこどもに継続的に接する可能性がある職種は、現場の判断で対象にできる。雇用契約の有無や期間の長短は問われず、短期の労働者やボランティアも含まれる。派遣労働者の場合は派遣元ではなく派遣先が確認を行う。
現職者の期限は義務が3年、認定が1年
新規採用や配置転換では、内定や内示から業務を始めるまでに確認を終えるのが原則だ。急な欠員や人事異動で間に合わない場合は従事開始から3か月以内、合併・新設や国側の遅れが理由なら6か月以内という特例があるが、確認が済むまではこどもと1対1にさせないなどの措置が必要になる。
すでに働いている現職者については、義務対象の事業者は法の施行から3年以内、認定を受けた事業者は認定から1年以内に確認を終える。一度確認を受けた人も、5年ごとに再確認しなければならない。
9月2日のガイドライン改訂では、研修を受けるタイミングの扱いが整理された。従来は義務対象の現職者は原則として施行日までに研修を受けると定めていたが、施行日の前日までに配置が決まっていて施行後に業務に就く人は、業務に就くまでに受講すればよいと明確化した。認定事業者側でも、認定申請の前後にかかわらず、業務に就く前に受講すればよいことがはっきりした。このほか、児童自立生活援助事業や子育て短期支援事業など、入居者の保護やプライバシーの観点から所在地の公表を都道府県までにとどめる扱いも加わった。
教員の懲戒処分は年281人
背景には、こどもに対する性暴力が減っていない実情がある。文部科学省の令和6年度公立学校教職員の人事行政状況調査によると、性犯罪・性暴力等を理由に懲戒処分などを受けた公立学校の教育職員は281人で、対教育職員数の割合は0.03%だった。過去5年の推移は令和2年度201人、3年度216人、4年度241人、5年度320人、6年度281人で、前年度より39人減ったものの、5年前の201人は上回っている。
こども家庭庁が今年6月に国会へ提出した令和8年版こども白書も、児童買春事犯などの検挙件数が3年連続で増加し、2025年は過去10年で最も多くなったと記している。同庁は、犯罪事実確認によって得た性犯罪歴をみだりに他人に知らせた場合、法に基づく刑事罰に加えて民事上の損害賠償請求の対象にもなり得るとして、情報の取り扱いに関する規程の整備や、扱う職員を必要最小限に絞ることを事業者に求めている。前科情報は、新たに開発する「こまもろうシステム」上でのみ扱うのが原則だ。
