日本政府と駐日米国大使館は11月2日、東京で第1回の「日米セキュリティ・法執行機関対話(Japan-U.S. Security and Law Enforcement Dialogue、略称SLED)」を開いた。日本側は楠芳伸警察庁長官、米側はジョージ・E・グラス駐日米国大使を筆頭とし、デジタル・フォレンジック、法執行機関における先端技術の導入、警護上のインテリジェンスの3つを議題に議論した。双方は捜査協力と情報共有で引き続き緊密に連携することを確認し、この対話を継続的に開くことで合意した。警察庁が同日、両者の共同のプレスリリースを公表した。
警察庁長官と駐日米大使が率いた初会合
プレスリリースによると、対話は日本政府と駐日米国大使館の間で今回初めて開かれた。日本側は警察庁がリードし、代表団には警察庁と外務省の担当者が加わった。
米側は駐日米国大使館がリードし、代表団は大使館の「法執行ワーキング・グループ」の参加者で構成した。加わったのは、外交保安部(RSO)、連邦捜査局(FBI)、麻薬取締局(DEA)、国土安全保障省(DHS)、税関・国境警備局(CBP)、沿岸警備隊、大使館の政治部と領事部の8部署だ。
両者は3つの議題について議論し、「双方の安全・法執行協力を強化するという共通のコミットメントを再確認」したとしている。そのうえで、安全・法執行活動、捜査協力、情報共有について引き続き緊密に連携すること、第1回の対話で特定した優先事項を進めるため、対話を継続的に開くことで合意した。
警察庁の発表資料は、表題では「法執行機関対話」、本文では「法執行対話」と、二つの呼び方が混在している。英語名と略称のSLEDは共通だ。公表された資料は本文3段落と議題の箇条書きだけで、議論の中身、特定したという優先事項の内容、次回の開催時期は書かれていない。
議題の一つ、デジタル・フォレンジックとは
最初の議題に挙がったデジタル・フォレンジックについて、令和7年版警察白書は「犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手続」と説明している。スマートフォンやパソコンから記録を取り出し、人が読める文字や画像に変換して証拠にする作業だ。白書は、電磁的記録は消したり書き換えたりしやすいため、適正な手続で解析・証拠化することが重要だとしている。
警察では、警察庁と全国の情報通信部の情報技術解析課が、都道府県警察の捜査を技術面で支えている。警察庁の高度情報技術解析センターは、壊れた記録媒体からの情報の抽出や不正プログラムの解析にあたり、スマートフォンのメッセージアプリに記録された暗号化済みのメッセージを可視化する手法も開発したという。
扱う量も大きい。白書によると、2024年8月から9月、大阪府警がSNS型投資詐欺グループの複数の拠点を一斉に捜索し、スマートフォン約2400台とパソコン約60台を押収した。近畿管区警察局の情報技術解析課は、警察庁や他の管区警察局から職員の派遣を受けて体制を組み、高度な解析が必要な端末を調べた。
2つ目の議題の「先端技術の導入」について、政府は10月16日、警察官が裁判官の許可を得て、犯人が連絡に使う端末にネット経由で接続し、被害を防ぐために必要な情報を複写・取得できるようにする警察官職務執行法の改正案を国会に出している(警察が犯人の端末に遠隔接続、警職法改正案を国会提出 裁判官の許可が条件)。ただし、今回の対話でこの法案や個別の技術が取り上げられたかどうかは、発表資料からは分からない。3つ目の「警護上のインテリジェンス」も、具体的に何を話し合ったかは公表されていない。
日米の捜査協力を支える条約と協定
日米の間には、捜査協力の土台となる条約と協定がすでにある。
| 枠組み | 署名 | 効力発生 | 主な中身 |
|---|---|---|---|
| 日米刑事共助条約 | 2003年8月5日 | 2006年7月21日 | 捜査共助を条約上の義務にし、中央当局間で直接連絡する |
| 日米重大犯罪防止対処協定(PCSC協定) | 2014年2月7日 | 2019年1月5日 | 指紋情報の自動照会など、重大犯罪の情報を交換する |
出典: 外務省「日・米刑事共助条約」、同「日・米重大犯罪防止対処協定の署名」「同協定の効力発生のための外交上の公文の交換」
警察庁によると、刑事共助条約は、外国に捜査への協力を頼む「捜査共助」を条約上の義務にすることで確実に行えるようにし、連絡も外交当局を通さず、条約で決めた中央当局どうしで直接やり取りして手続きを速めるものだ。日本はこれまでに米国、韓国、中国、香港、EU、ロシア、ベトナムと結んでいる。国外へ逃げた犯罪人の引き渡しを互いに義務づける犯罪人引渡条約も、米国、韓国との間で結んでいる。
警察白書は、外国で活動する犯罪グループの摘発に向け、警察庁が関係国の捜査機関と情報交換を進め、国際刑事警察機構(ICPO)を通じた協力や、外交ルート、条約・協定を使った国際捜査共助を進めているとしている。今回の対話は、こうした条約に基づく手続きとは別に、両国の担当者が継続して顔を合わせる場として設けられた。
指紋を照会し合うPCSC協定の仕組み
PCSC協定は、査証(ビザ)を免除し合う制度のもとで国際的な渡航を容易にしつつ、テロなどの重大な犯罪の防止、探知、捜査に必要な情報を交換する枠組みだ。2014年2月に東京で署名し、2018年12月6日に発効に必要な公文を交換して、2019年1月5日に効力が生じた。
協定によると、両国はそれぞれ国内の連絡部局を指定し、互いに直接やり取りする。一方の国が照会した指紋情報を、相手国の自動指紋識別システムと照らし合わせ、適合する指紋があるかどうかを自動で回答する。適合した場合は、照会した側が書面で目的を示したうえで、その人物に関する追加の情報を求めることができる。
日本が米国に照会を認める指紋は、確定判決で有罪となった人のほか、逮捕された成人のうち起訴されて判決が確定していない人や不起訴となった人など、重大犯罪の防止や捜査に使う国の自動指紋識別システムに保管されているものだ。米国側は、有罪判決を受けた人、逮捕された成人、逮捕状が出た成人、テロリストと判明した人や疑われる人の指紋などを日本の照会の対象にしている。照会を始められるのは、ある人物が重大な犯罪を行う、または行ったと調べる理由がある場合に限られ、照会を受けた側は、送られてきた指紋情報を回答の後ただちに削除すると定めている。
継続して開く対話で何を具体化するか
今回の対話は、条約や協定のように新しい義務を定めるものではなく、警察庁と米国の法執行機関が課題を持ち寄り、優先して取り組む事項を確かめ合う場として始まった。発表資料が示したのは、出席者、3つの議題、継続して開くという合意までだ。
一方で、議題に挙がった3分野は、いずれも日米双方が進めている取り組みと重なる。押収した端末の解析は国内の捜査で扱う量が増えており、先端技術の導入では端末への遠隔接続を認める法案が国会にかかっている。米側の代表団には、麻薬取締局や税関・国境警備局も加わった。
対話で「特定された優先事項」が何で、それがどの捜査や制度に反映されるのかは、次回以降の発表で確かめる必要がある。端末の解析や情報の共有は、扱い方によっては個人の情報に深く関わる。PCSC協定が照会の条件と情報の削除を条文で定めているように、日米が新たに協力を深める分野についても、何を共有し、どう管理するのかを公表していくことが求められる。
