会計検査院は10月6日、橋やトンネルの修繕に国が補助金を出す「道路メンテナンス事業補助制度」について、88の事業主体が延べ501施設で、修繕計画に予定の無い修繕や、定期点検の結果を踏まえていない耐震補強工事などを補助の対象として実施していたと公表した。該当する契約は469件・契約金額338億9397万円余りで、補助金に相当する額は149億998万円余りにあたる。指摘を受けた国土交通省は制度要綱を改正し、令和8年10月以降は交付申請の際に修繕計画を提出させて審査する体制を整えた。
損傷が軽いうちに直すための補助金
政府は平成25年11月に「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、損傷が軽微な早い段階で予防的に修繕する「予防保全型」の維持管理を進めることにした。道路法施行規則では、トンネルや橋など、傷めば道路の構造や交通に大きな支障を及ぼすおそれのある施設について、5年に1回の頻度で定期点検を行うことを基本としている。点検では健全性を診断し、Ⅰ(健全)、Ⅱ(予防保全段階)、Ⅲ(早期措置段階)、Ⅳ(緊急措置段階)の4区分に分類する。
国交省は、ⅢやⅣまで損傷が深刻化してから大規模に直す「事後保全型」より、Ⅱの段階で軽いうちに直す予防保全型へ移ったほうが、生涯にわたる費用の縮減や予算の平準化に寄与するとしている。そこで令和2年度に、ⅢやⅣの施設をⅠやⅡの状態に戻す修繕事業だけに絞って集中的に支援する道路メンテナンス事業補助制度を創設した。
この制度を使うには、地方公共団体が定期点検の結果を踏まえておおむね5年の修繕計画を施設ごとに作り、そこに書いた予定に沿って修繕を実施することが要件になる。計画に基づいて直すからこそ、補助金が予防保全型への転換につながるという建前である。
計画に書いていない修繕が314施設
検査院は、16府県と管内416市町村の計432事業主体が令和5、6両年度に契約した橋りょう延べ4899施設とトンネル延べ418施設の計5317施設(4485契約、契約金額計1874億4702万円余り、補助金交付額計1027億2855万円余り)を調べた。
このうち61事業主体は、橋りょうとトンネルの延べ314施設・286契約(契約金額132億676万円余り、補助金相当額68億2433万円余り)について、修繕計画に予定を記載しておらず実施を計画していなかったのに、その年度の予算の状況や工期などから実施が可能だとして工事をしていた。検査院は、早期に措置を行う必要のない修繕にも補助金が充てられ、計画的な修繕が進まず予防保全型への円滑な転換が図られない要因になると指摘した。
国交省側にも穴があった。制度要綱が修繕計画を交付申請時の提出書類として求めていなかったため、計画そのものが同省に出されておらず、申請書に書かれた施設の修繕が計画に予定されたものかどうかを審査できない状態だった。
耐震補強とLED化は「点検を踏まえた修繕」ではない
もう一つの指摘は、補助の対象範囲のずれである。29事業主体は橋りょう延べ160施設で、耐震診断の結果を踏まえた耐震補強工事を、制度要綱にある「強化を図る修繕」に当たると判断して実施していた。しかし国交省が言う強化を図る修繕とは、定期点検で老朽化による橋脚の鉄筋の露出が確認された箇所を補修して橋脚の補強を図ることなどを指し、耐震補強工事は定期点検の結果を踏まえたものとは認められないという。
14事業主体はトンネル延べ47施設で、トンネル内の照明本体を発光ダイオード(LED)に更新する工事を補助対象に含めていた。照明の取付部材は、腐食や脱落で照明が落下すれば交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるため定期点検の対象だが、照明本体そのものは劣化しても直接そうした支障を生じないため点検の対象外とされている。これも点検を踏まえた修繕とは認められない。
この2類型に該当したのは38事業主体・201契約で、契約金額227億7201万円余り、補助金相当額91億2232万円余り(うち3事業主体18契約は計画に無い修繕とも重複)だった。耐震補強そのものが不要な工事という話ではない。検査院は9月28日にも、災害時の緊急輸送道路にある橋、耐震補強した407橋・橋脚1128基で「耐震性能2」が確保されず 会計検査院が指摘 巻き立て部分の工事費111億3415万円分として耐震補強工事の設計を指摘している。今回問われたのは、老朽化の修繕に特化した補助金が耐震や照明更新に回り、本来急ぐべき修繕が後回しになる構図である。
未着手の橋は2万5973施設
検査院が実施段階のほころびを問題にしたのは、直すべき施設がなお大量に残っているからだ。令和5年度末時点の2巡目の定期点検では、ⅢまたはⅣに分類された橋りょうが4万9315施設、トンネルが2375施設あり、うち橋りょう2万5973施設(52%)、トンネル1015施設(42%)が修繕に未着手だった。点検の対象は橋りょう65万7400施設、トンネル7403施設で、Ⅱの予防保全段階に分類された橋りょうも33万3588施設ある。施設の数は建設後50年を超える道路橋、2040年3月に約75%へ 2025年3月の約42%から急増 国土交通白書 水道管路は約10%から約40%にのとおり今後さらに増える。
検査院は原因として、事業主体の認識不足に加え、国交省が計画的な実施と補助の対象範囲を十分に周知していなかったこと、交付申請時に修繕計画を提出させる仕組みがなかったことを挙げた。国交省は令和8年8月に事務連絡を出して計画的な実施と対象範囲の考え方を周知し、制度要綱を改正。同年10月以降は交付申請時に修繕計画を提出させ、計画に予定された修繕かどうかを確認できる体制を整えた。
