裁判官の報酬を引き上げる「裁判官の報酬等に関する法律」(裁判官報酬法)の改正案と、検察官の俸給を引き上げる「検察官の俸給等に関する法律」(検察官俸給法)の改正案が10月30日、衆議院本会議で全会一致で可決され、同じ日に参議院へ送られた。いずれも内閣が10月9日に提出した法案で、最高裁判所長官の報酬月額は209万5000円から215万8000円に、検事総長の俸給月額は152万8000円から157万4000円になる。すべての号で額を上げ、改定前に対する上げ幅は約3.0〜4.2%。令和8年4月1日にさかのぼって適用する。提出理由はどちらも「一般の政府職員の給与改定に伴い」報酬・俸給の月額を改定する必要がある、としている。
衆院法務委で趣旨説明、28日に可決
参議院の議案情報によると、2つの法案は第222回国会の閣法第6号(裁判官報酬法改正案)と第7号(検察官俸給法改正案)で、所管官庁は法務省、内閣官房、財務省となっている。衆議院が先に審議し、10月22日に法務委員会へ付託された。
衆議院法務委員会ニュースによると、10月23日の委員会で山下貴司法務大臣が2法案の趣旨を説明した。法務委員会は10月28日に2法案を可決し、10月30日の衆議院本会議では、採決の態様が全会一致と記録されている。参議院は同じ10月30日に衆議院から受け取った。10月30日時点の参議院の議案情報では、参議院での付託委員会や議決日の欄はまだ空欄になっている。参議院で可決されれば成立し、公布の日から施行される。
一般職の国家公務員の給与を改める「一般職の職員の給与に関する法律等の一部を改正する法律案」(閣法第2号)も同じ10月9日に提出され、10月28日に衆議院の委員会、10月30日に本会議で可決されて参議院に送られた。裁判官と検察官の2法案は、この一般職の法案と同じ日程で衆議院を通過したことになる。
最高裁長官は月6万3000円、判事補は9900円から上がる
裁判官報酬法の改正案は、報酬月額を定める別表を新しい表に置き換える。区分と号の数は変えず、すべての額を引き上げる。
最高裁判所長官は209万5000円から215万8000円へ6万3000円、最高裁判所判事は152万8000円から157万4000円へ4万6000円上がる。東京高等裁判所長官は146万6000円から151万円へ、その他の高等裁判所長官は135万8000円から139万9000円へ上がる。これらの上げ幅は改定前の額に対していずれも約3.0%にそろっている。
判事は1号から8号まである。最も高い1号は122万4000円から126万1000円へ3万7000円上がる。最も低い8号は54万6000円から56万9000円へ2万3000円上がり、率では約4.2%と判事の中で最も大きい。判事の5号から8号はいずれも2万3000円の定額で上がるため、額の低い号ほど率が高くなる。
判事補は1号から12号まである。1号は45万9000円から47万5400円へ1万6400円、最も低い12号は27万6300円から28万6200円へ9900円上がる。判事補の上げ幅は9900〜1万6400円で、率は3.5〜4.0%と、長官や判事の上位の号より高い。簡易裁判所判事の1号から17号も、同じ額の刻みで改める。
| 区分 | 現行 | 改正案 | 引き上げ額 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所長官 | 209万5000円 | 215万8000円 | 6万3000円 |
| 最高裁判所判事 | 152万8000円 | 157万4000円 | 4万6000円 |
| 東京高等裁判所長官 | 146万6000円 | 151万円 | 4万4000円 |
| 判事1号 | 122万4000円 | 126万1000円 | 3万7000円 |
| 判事8号 | 54万6000円 | 56万9000円 | 2万3000円 |
| 判事補1号 | 45万9000円 | 47万5400円 | 1万6400円 |
| 判事補12号 | 27万6300円 | 28万6200円 | 9900円 |
改正案は第15条も改める。簡易裁判所判事のうち特別のものの報酬月額を「当分の間」100万6000円とすることができる規定で、額を103万6000円に改める。
検事総長は最高裁判事と同じ額、検事の表は判事と並ぶ
検察官俸給法の改正案も、俸給月額の別表を置き換える。検事総長は152万8000円から157万4000円へ4万6000円上がり、改定後も最高裁判所判事と同じ額になる。東京高等検察庁検事長は135万8000円から139万9000円へ上がり、その他の高等裁判所長官と同じ額にそろう。次長検事とその他の検事長は、いずれも125万円から128万8000円へ3万8000円上がる。
検事は1号から20号まである。現行の表と改正案の表を並べると、検事の1号から8号は判事の1号から8号と、検事の9号から20号は判事補の1号から12号と、それぞれ同じ額になっている。検事1号は判事1号と同じく126万1000円に、最も低い検事20号は判事補12号と同じく28万6200円になる。
副検事は1号から17号まであり、1号は60万4000円から62万7000円へ2万3000円、最も低い17号は25万7800円から26万7300円へ9500円上がる。特別のものの副検事の俸給月額を定める附則第3条の額も、66万4000円から68万7000円に改める。
4月にさかのぼり適用、転居手当は2027年4月から
2つの改正案はいずれも公布の日から施行し、新しい別表は令和8年4月1日から適用する。改正前の法律に基づいてすでに支払った報酬・俸給は、新しい額による給与の「内払」とみなす。成立すれば、4月以降に支払った額と新しい額との差を後から支給することになる。
もう1つの改正は手当の追加である。裁判官報酬法第9条第2項と検察官俸給法第1条第2項は、高等裁判所長官や検事総長らに単身赴任手当を支給すると定めている。改正案は「単身赴任手当」の下に「及び転居手当」を加える。この部分だけは施行が令和9年(2027年)4月1日になる。
人事院が8月7日に出した令和8年の勧告の概要は、転居を伴う転勤をした職員を広く対象とする手当の新設を盛り込み、実施を令和9年4月としている。概要は東京から大阪に異動する場合の手当額を年額約22万円、単身赴任者は約49万円と例示している。単身赴任者には別に、二重生活の生計費を補う基礎額として年36万円を支給するとしている。2つの改正案の条文は手当の名前を書き加えるだけで、手当の額は定めていない。
報酬は一般職の改定に連動、憲法は減額を禁じる
裁判官と検察官の給与は、国家公務員の中でも一般職の給与法ではなく、それぞれの法律の別表で月額が決まる。このため、人事院勧告を受けて一般職の給与を改めるたびに、国会が2つの法律を改正してきた。
令和8年の人事院勧告は、4月分の民間給与と比べた官民較差を1万5056円(3.51%)とし、行政職俸給表(一)を平均3.3%引き上げるよう求めた。政府は10月9日、国家公務員の給与を勧告どおり改定する方針を閣議で決め、特別職の国家公務員の給与も一般職の改定の「趣旨に沿って取り扱う」とした(公務員の給与改定を10月9日に閣議決定 国家公務員は人事院勧告どおり官民較差1万5056円・ボーナス年4.70月へ 総務副大臣が同日、地方へ通知)。
報酬月額以外の給与は、現行の裁判官報酬法第9条で一般の公務員の例に準じて支給される。最高裁判所長官、最高裁判所判事、高等裁判所長官は特別職の給与法の対象者の例に準じ、判事と簡易裁判所判事の一部は一般職の指定職俸給表を受ける職員の例に準じる。その他の裁判官は一般の官吏の例に準じ、最高裁判所の定めるところで支給される。検察官俸給法第1条も、検事総長や検事長、検事の1号から8号などについて同様の区分を置いている。
裁判官の報酬は日本国憲法でも扱いが定められている。第79条は最高裁判所の裁判官について、第80条は下級裁判所の裁判官について、「定期に相当額の報酬を受ける」とし、「この報酬は、在任中、これを減額することができない」と定める。今回の改正は増額であり、施行されれば4月にさかのぼって新しい額が適用される。
