政府は10月16日の閣議で、高市早苗首相が繰り返し使ってきた「長年続いてきた過度な緊縮志向」という言葉について、期間は「バブル崩壊以降」を念頭に置いているとする答弁書を決定した。何を緊縮させたのかとの問いには、官民双方で「未来への投資」が不足してきたことを念頭に置いていると答えた。同じ閣議では、政府債務残高の定義と水準を問う別の質問への答弁書も決め、財政目標の中核に置く国・地方の債務残高の対国内総生産(GDP)比を、令和6年度の実績で193.4%と示した。どちらも志士の会の緒方林太郎衆院議員が提出した質問主意書への答弁である。

同じ問いの2度目の質問主意書

緒方議員がこの言葉を取り上げるのは2度目だ。最初は第221回特別国会の令和8年2月19日に提出した「行き過ぎた緊縮志向に関する質問主意書」で、首相の言う緊縮志向は「具体的にどのようなことを指しているのか」と尋ね、「誰が、何を、どのように緊縮させたのか」の説明を求めた。

3月3日に受領した答弁書(内閣衆質二二一第一号)は、質問は2月18日の首相の記者会見での発言に関するものと受け止めたうえで、施政方針演説の一節を引くだけで終わった。引用されたのは「我が国の潜在成長率は、主要先進国と比べて低迷しています」「高市内閣は、長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切ります」というくだりで、期間や主体には触れていない。

緒方議員は臨時国会の召集日の10月5日、改めて「長年続いてきた過度な緊縮志向に関する質問主意書」(質問第七号)を出した。前回の答弁は「用語が入った発言を紹介しているだけであり、答弁として意味を成さない」として、①長年とはどれくらいの期間か②「緊縮」とはどのような現象か③過度の緊縮志向は誰がやったのか④何を過度に緊縮させたのか――の4点を問い、さらに高市内閣の全閣僚がいまもこの認識を共有しているかを尋ねた。末尾には、近年の答弁で「具体的に意味するところが必ずしも明らかでない」という言い回しが広く使われているとして、「常識の範囲で意味を確定して答弁ありたい」と書き添えた。

緒方議員がこの臨時国会で召集日に提出した質問主意書は8本あり、その内訳は第222回臨時国会の質問主意書は9本、うち8本が緒方林太郎議員 所属は2人会派の志士の会 召集日に一括提出も内閣への転送はまだで答弁期限は起算されずで伝えた。首相官邸の閣議案件の一覧によると、10月16日の閣議では8本すべての答弁書がまとめて決定された。

期間は「バブル崩壊以降」、中身は「未来への投資」の不足

今回の答弁書(内閣衆質二二二第七号)は、首相の参議院本会議での発言を引いて答えた。引用されたのは3月23日の首相答弁で、「我が国は、バブル崩壊以降、低い経済成長と長引くデフレの中で、企業部門がコストカットを行ってきた結果、収益の増加に比べて、賃金や将来のために必要な投資が抑制されてきました」としたうえで、「特定の時期の具体的な施策を指しているわけではありませんが、官民双方において長年にわたり未来への投資不足が継続してきたことを念頭に置いて、過度な緊縮志向と申し上げているところです」と述べた部分である。

答弁書はこの発言を踏まえ、①の「期間」は「バブル崩壊以降」を念頭に置いていると答えた。②から④の「緊縮」の中身・主体・対象については、まとめて「官民双方」において「未来への投資」が不足することを念頭に置いていると説明した。最後の問いには、「長年続いてきた過度な緊縮志向」に係る認識は「現内閣においても変わりはない」と答えた。

前回の答弁が演説の引用にとどまったのに比べると、期間の起点と、緊縮の対象が投資であることを文書で示した点が新しい。一方で、引用された首相答弁自体が「特定の時期の具体的な施策を指しているわけではありません」としているとおり、緊縮の担い手として政府の特定の予算編成や財政運営の方針を挙げることはしなかった。「誰がやったのか」という問いに対しては、企業部門のコストカットと官民双方の投資不足という説明にとどまっている。

国会で首相が語ってきた中身

首相は国会の答弁でも同じ説明を重ねてきた。国会会議録によると、3月17日の参議院予算委員会で首相は、日本経済は「一九九〇年代のバブル崩壊以降」、低成長とデフレの中で企業部門がコストカットを行い、賃金や投資が抑えられて「需要が低迷し、デフレが加速し、成長も伸び悩むという悪循環」が生じていたと説明した。そのうえで、賃上げ率が2年続けて5%を上回るなど、コストカット型経済から新たな成長型経済へ移る段階まで来ているとし、「長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切ってまいろうとしております」と述べた。

同じ委員会の別の答弁では、日本の潜在成長率が2000年代以降「ゼロ%台半ば」と主要先進国の中で低く、その内訳では資本投入が特に低位にとどまっていると指摘した。資本投入が伸びない要因として、長年のデフレの中で企業が将来に必要な投資を抑えてきたことを挙げ、変える手だての一つとして「プライマリーバランス、単年度のものにこだわらずにまず見ていこう」と述べている。この発言は、緊縮志向の議論が企業の投資だけでなく、国の財政運営の物差しとも結び付いていることを示している。

今回の答弁書は、この「官民双方」の投資不足という整理を政府の公式な見解として文書に残した形になる。

政府債務残高は「定義は様々」、二つの指標の数値を示す

同じ10月16日の閣議で決定した「政府債務残高に関する質問」への答弁書(内閣衆質二二二第五号)は、財政の健全さを測る物差しを問うものだった。緒方議員は、令和7年11月11日の答弁書(内閣衆質二一九第三三号)で政府が「政府債務残高」の定義は「様々」だと答えていたことを挙げ、①その後定義は確定したのか②使っている定義ごとに「政府債務残高の対GDP比」はどうなったのか③定義ごとに変化した理由は何か――を尋ねた。

答弁書は①について、「定義は確定した」の意味するところが「必ずしも明らかではない」としつつ、定義は様々で、政府は様々な指標を用いていると前回と同じ立場を繰り返した。そのうえで、7月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針二〇二六」が、財政運営の目標として「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下を中核に位置付け」ていると付け加えた。

②では二つの指標の直近の値を挙げた。答弁書が示した数値は次のとおり。

指標 直近の実績 出所として答弁書が挙げた資料
国・地方の公債等残高の対GDP比 193.4%(令和6年度) 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(7月30日の経済財政諮問会議に提出)
一般政府の債務残高の対GDP比(国際通貨基金の公表値) 214.5%(2024年) 9月30日の財政制度等審議会財政制度分科会に財務省主計局が提出した資料
政府債務残高に関する答弁書が示した二つの指標

出典: 衆議院議員緒方林太郎君提出政府債務残高に関する質問に対する答弁書(内閣衆質二二二第五号)

国・地方の公債等残高は、普通国債、地方債、交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金の各残高を合計したもので、基本方針が目標の中核に置く「国・地方の総債務残高対GDP比」の値として答弁書が示した。一般政府の債務残高は、国際比較の観点から財務省が使っている国際通貨基金(IMF)の数値である。

②と③の答弁にも「御指摘の『現在使用している』の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが」という前置きが付いた。緒方議員が質問の末尾で使わないよう求めた言い回しで、この答弁書では三つの問いのすべてに置かれている。これに対し、緊縮志向の答弁書(第七号)にはこの前置きは無かった。

比率は2023年度から低下、理由は成長と物価

③の変化の理由について、答弁書は中長期試算の分析をそのまま引いた。2013年度以降は「デフレではない状況となる中、実質成長率及び物価上昇率がプラス傾向」となり、これが押し下げに寄与して、公債等残高の対GDP比の上昇幅は2010年代後半にかけて小幅で推移した。2020年度は新型コロナウイルス禍による経済への悪影響と、対応のための大規模な歳出の増加で、実質成長率要因と基礎的財政収支(PB)要因がともに比率を大きく押し上げた。

その後はPB赤字が押し上げ要因として残るものの、PBの改善に伴って押し上げの寄与が徐々に縮小し、実質成長率要因のほか物価要因が押し下げに大きく寄与して、「二千二十三年度以降は、公債等残高対GDP比が低下に転じた」とした。IMFが公表する一般政府の債務残高の対GDP比についても、変動要因は「同様であると考えられる」と答えている。緒方議員は定義ごとに理由が違う可能性を問うていたが、答弁書は二つの指標を同じ要因で説明した。

答弁書の説明に従えば、2023年度以降の比率の低下には、成長率とともに物価の上昇が大きく寄与している。債務残高の対GDP比をどう点検していくかは経済財政諮問会議でも議論されており、その提言は諮問会議、中長期経済財政計画の実行へ提言 複数ケースで点検し悪化の兆しで歳出・歳入見直しで伝えた。

2本の答弁書を並べると、政府は「緊縮」を主に投資の不足として説明し、財政の目標は国・地方の債務残高の対GDP比の安定的な低下に置いていることが分かる。過去の財政運営のどの部分を「過度な緊縮」とみるのかは、今回も具体的には示されなかった。