総務省は10月28日、情報通信行政・郵政行政審議会の「利用者視点を踏まえたモバイル市場の検証に関する専門委員会」(第10回)をオンラインで開き、携帯電話の乗り換え特典を目当てに契約と解約を短期間で繰り返す「短期解約」への対策として、電気通信事業法第27条の3に基づく規制を緩める制度改正の方向性を示した。新規契約を条件とする特典(上限2万円)を、最長1年間、1か月ごとに分けて渡せるようにする。大手携帯会社(MNO)のグループ会社であることを理由に格安スマホ事業者(MVNO)を一律に規制対象とする仕組みも改め、契約数シェアが4%を超えるMVNOに対象を絞る。いずれも2027年2月の施行を目指す。
乗り換え特典、最長1年の分割付与を認める
事務局が示した資料によると、見直しの柱は、新規契約(他社からの乗り換えを含む)を条件に携帯会社が利用者へ渡す特典の渡し方を広げることにある。上限額の2万円(税別)は変えず、通信料金の割引とそれ以外の特典のいずれについても、分割での提供を認める。
分割の期間は最長1年間、単位は1か月ごととする。3か月ごとや半年ごとにまとめて渡すことは禁じる。各月の額は、毎月同じ額を渡す「均等割」と、2か月目以降の額が前の月を上回らない「前半傾斜」を認め、後の月ほど額が増える「後半傾斜」は禁止する。資料には、SIMのみの乗り換えで月1000円を12か月渡すといった例が示された。利用者が途中で解約すれば、携帯会社はその時点で特典の提供を打ち切ることができる。
端末の購入を条件とする割引は緩和の対象に含めない。一部の関係者からは含めるよう求める意見があったが、資料は、新規契約を条件とする場合だけを緩めても短期解約を一定程度抑えられるとし、見直しは「必要最小限の範囲とすべき」とした専門委員会のとりまとめを理由に挙げた。端末を購入する場合に携帯会社が提供できる利益の総額は、原則4万円のまま変わらない。
現行制度では、乗り換えた人に限って最長6か月、1人1回、上限2万円まで通信料金を割り引く「お試し割」が例外として認められている。資料は、今回の見直しがこの内容を含むことになるとして、お試し割を廃止する方針も示した。
短期解約はなぜ起きるのか 一括付与の商慣行と違約金の上限
27条の3は2019年に導入された規律で、利用者が自分に合った通信サービスを選びやすくし、乗り換えを促して料金競争を活発にすることを目的とする。新規契約を条件に特典を渡す場合、通信サービスを使い続けることを条件にすることを禁じ、解約時の違約金の上限は1000円(税抜)としている。
専門委員会が9月の第9回会合で示したとりまとめ案は、この仕組みが短期解約を生む構造を次のように整理している。継続利用を条件にできないため、毎月分けて渡す設計や一定期間後に渡す設計が制限され、乗り換え契約の時点で特典を一括で渡す商慣行が定着した。一方で違約金は小さいため、解約しても利用者の手元に特典の多くが残る。この結果、特典を目当てに乗り換えを短期間で繰り返す利用者(ホッパー)が生まれているという。
とりまとめ案は問題点として、携帯会社の側に事業運営上の損失が生じていること、解約で失った顧客を新規獲得で補うため販売現場で強引な販売が起きていることを挙げた。関係者からは「組織的かつ大規模なMNPや短期解約が発生している」との指摘もあった。一方で、全ての関係者が、特典だけを目当てにした悪質な解約かどうかを見分けるのは難しいと答えている。
携帯会社は、一定期間内に再び転入した人には特典を渡さない、低容量の廉価プランの新規受付を止めるといった対策を自社ごとに講じてきた。ただ、自社だけ特典を下げれば他社との競争で不利になり、業界でそろって特典をやめれば独占禁止法が禁じるカルテルにあたるおそれがあるとして、自主的な対策には限界があるとの意見が多かった。とりまとめ案は業界の自主的な対策を第一としたうえで、規制も見直す方針をまとめた。特典を分割で渡せるようになれば、途中で解約した人には残りが渡らないため、乗り換え直後に解約する動機が小さくなる。
施行は新年度を待たず 「MVNOが踏み台に」
施行時期について、関係者の意見は分かれた。商戦期を避けて早く実施するよう求める意見がある一方、年度単位で効果を検証しやすいとして新年度(2027年4月)からの施行を求める意見もあった。
資料は、MVNOが乗り換えの「踏み台」の標的にされていることや、販売現場の厳しいMNP獲得ノルマが利用者への強引な販売につながっていることなど、短期解約の原因をつくっていない関係者が不利益を受けている実態を挙げた。そのうえで、MNOの自主的な取り組みだけでは限界があるとして、新年度を待たずに2027年2月の施行を目指す方針を示した。
後半傾斜を認めるかどうかでも意見は割れた。一定のルールのもとで認めるよう求める意見、携帯会社の柔軟な設計を認めるべきだとする意見、認めるべきではないとする意見があった。資料は、後半傾斜を認めれば制度が複雑になり、利用者を契約期間に縛る効果が強まるとして退けた。ただ、利益提供の上限額や継続利用の在り方は27条の3全体に関わるとして、今後の見直しの中で、後半傾斜を含むより柔軟な特典の設計を検討する余地も残した。
契約時の説明や解約の手続きといった消費者保護のルールは、別の審議会で見直しが進んでいる。総務省は2026年9月4日、情報通信審議会から一次答申を受けた(携帯のオプション、説明義務の対象に加える方向 解約時に継続意向の確認も 総務省審議会が一次答申 苦情相談は年6万9448件)。今回の専門委員会は、27条の3が定める端末割引や特典の規律を扱う。
グループ会社の規制、シェア4%超のMVNOに絞る
もう一つの柱は、MNOの「特定関係法人」と呼ばれるグループ会社の扱いだ。現行ルールは、MNOが子会社を通じて規制を逃れるのを防ぐため、MNOのグループ会社であるMVNOを一律に27条の3の規制対象としている。一方、独立系のMVNOは契約数シェアが一定以上の事業者だけを対象とし、その基準は2019年の導入当初の0.7%から、2023年に4%へ引き上げられた。
とりまとめ案によると、KDDIのグループ会社であるJCOMから「シェアが低いにも関わらず、実質的に特定関係法人のみが27条の3の規制対象となっており、MVNO事業者間の競争が公平ではない」として、規制対象から外すよう求める要望があった。グループ会社のMVNOで最もシェアが大きいJCOMでも0.6%にとどまり、独立系MVNOのシェアが少しずつ増える一方、グループ会社のMVNOのシェアは少しずつ減っているという。
資料は、MNOのグループ会社かどうかにかかわらず、規律対象サービスの契約数シェアが4%を超えるMVNOを規制対象とする方針を示した。これにより、現在規制対象に指定されているグループ会社は、現時点では全て対象から外れる。
規制逃れを防ぐため、総務省は27条の3の運用ガイドラインに、規制の潜脱にあたる行為の類型を書き込む。MNOがグループ会社のMVNOに資金を出し、それを元手に規制の水準を超える特典を渡す場合や、回線や端末を不当に安く卸す場合、MNOの店舗やオンライン窓口を対価を求めずに使わせる場合などを例に挙げた。施行から一定期間後には、関係事業者へのアンケートや、他社からの検証要望を受けて該当事業者に説明を求める手法で事後検証を行う。潜脱が認められれば業務改善命令などで是正を求め、関与したグループ会社を再び規制対象に指定することも検討する。
高価格帯スマホの販売、5年で6割に
10月28日の会合では、規制の効果を測る指標の現状も報告された。MNO4社が販売したスマートフォンのうち、10万円以上の高価格帯が占める割合は、2021年度の27.2%から2025年度は59.1%に上がった。4万円未満の低価格帯は33.2%から20.1%に下がった。
MNO4社のスマートフォン売上台数に占める10万円以上の割合(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 2021年度 | 27.2 |
| 2022年度 | 38.2 |
| 2023年度 | 45.3 |
| 2024年度 | 47.7 |
| 2025年度 | 59.1 |
総務省が2026年9月に行った利用者意識調査では、携帯電話会社を乗り換えた理由(複数回答、2431人)として「乗り換え先の携帯電話事業者が提供するプランが魅力的だった」が52.8%で最も多く、「端末が安く購入できる」が28.1%、「乗り換えキャンペーンを実施していた」が25.8%だった。
規制が守られているかを確かめる覆面調査では、2024年度は550件のうち14件(2.5%)で違反と判断した。2025年度は75件を調べ、違反が疑われる事案は無かった。2026年度は200件程度の調査を進めている。
あわせて示された今後の進め方によると、専門委員会は今期、関係者からの聞き取りを通じ、料金プランの額に連動した利益提供の上限への移行や、長期利用者への還元、違約金を含む契約期間の縛りの在り方などを論点に、27条の3の規制をどこまで縮められるかを議論する。資料は、端末代金の値引きなどに頼る競争慣行がなお続いているとして、現時点で直ちに規制を撤廃することは避けるとした。
