厚生労働省は、毎月勤労統計調査の調査手法を検討する有識者のワーキンググループ(WG、主査・加藤久和明治大教授)が7月31日に開いた第1回会合の議事録を公表した。事務局の厚労省は、賃金の発表で見出しに置く数字を、全労働者の平均(就業形態計)から一般労働者とパートタイム労働者の別に改める案を示し、委員は方向に賛成した。物価の上昇分を除いた実質賃金は従来どおり全体の数字で示す。2027年1月分の公表時をめどに改める。
見出しの数字を一般・パート別に
毎月勤労統計調査は、事業所に毎月の賃金や労働時間を尋ねる国の基幹統計で、毎月の実質賃金の発表に使われている。厚労省の発表資料(プレスリリース・概況)はこれまで、就業形態計の現金給与総額を先頭に置き、その内訳として一般労働者とパートの金額と伸び率を並べてきた。
厚労省が示した資料2は、この並びの問題を「就業形態計という属性の労働者は存在しない」と指摘した。パートは一般労働者より賃金が低いため、パートの割合が上がると、一般もパートも賃金が上がっているのに全体の平均の伸びは小さくなる。会合で小此木統計管理官は「肌感覚とずれてしまうということも起こり得る」と説明した。
見直し案では、一般労働者とパートの実数、指数、増減率を見出しに据える。就業形態計の公表はやめず、位置付けを変える。一方、実質賃金は、割り算に使う消費者物価指数が平均的な消費構造の世帯を対象にしているため、就業形態計のままとする。
あわせて、前年と同じ事業所だけで比べる「共通事業所系列」の扱いを広げる。資料2は「労働者全体の賃金は本系列、景気指標としての賃金変化率は共通事業所を重視」との指摘を挙げた。新しい発表資料のイメージでは、一般とパートそれぞれの金額と伸び率の隣に、共通事業所で見た伸び率を並べる。共通事業所の数字は現在も発表資料に載っており、本紙も実質賃金、2026年8月は1.5%増で8か月連続プラス 伸びは7月の2.0%から縮小 現金給与総額は31万1364円で3.8%増で本系列と並べて伝えた。
委員は方向に賛成しつつ、示し方に注文を付けた。労働政策研究・研修機構の高橋陽子主任研究員は、一般労働者の中にもパートに近い人が多く含まれるとして「一般・パートにしたら解決するのかというと、そうではない」と述べ、表現を抑えた公表を求めた。共通事業所の数字を並べると本系列との差が目立つため、産業別や規模別に差の要因を一度調べてから載せるべきだとも述べた。
獨協大の樋田勉教授は、本系列と共通事業所系列の違いを一般の利用者に説明する必要があると指摘した。横浜市立大の土屋隆裕教授は、順番を入れ替えるだけなら一般労働者が最も重要という意味に変わるだけだとして、一般とパートを横に並べ、その下に就業形態計を置く形を提案した。厚労省は「そういったアイディアもある」として、具体的な書き方を詰めると答えた。
統計サイトの系列を整理、長期時系列表は廃止案
二つ目の柱は、政府統計の総合窓口「e-Stat」に載る系列の整理だ。資料2によると、過去の不適切事案以降、同じ項目に複数の時系列データが並んでいる。通常使う本系列と共通事業所系列のほかに、「給付のための推計値(2004年1月~2013年3月)」「時系列比較のための推計値(2004年1月~2012年1月)」「令和3年12月以前に公表した結果等」などがあり、「どの系列をどのように利用すれば良いのか一般利用者に分かりにくい」とした。
対応案では、本系列と共通事業所系列を見つけやすい位置に置き、それ以外の系列は「その他」にまとめる。「実数・指数累積データ」に四半期と年度の数値を加え、使い方を記した早見表を作る。これで「長期時系列表」の内容はすべて含まれるため、長期時系列表は廃止する。指数が100のときの実数(基準値)は指数原表にしか載っていないため、基準値表を別に作る。
樋田氏は、削った系列を利用者が再現できなくなるおそれがあるとして、利用状況を確かめるよう求めた。高橋氏は「一ユーザーとして本当に使いづらくて」と述べ、参考系列を減らすよう求めた。
| 分野 | 見直し案の主な内容 |
|---|---|
| 発表資料 | 一般労働者・パートの実数、指数、増減率を見出しに。実質賃金は就業形態計のまま |
| 発表資料 | 共通事業所系列の伸び率を一般・パートそれぞれに併記 |
| e-Stat | 本系列と共通事業所系列を前面に。他の系列は「その他」へ |
| e-Stat | 累積データに四半期・年度を追加し、長期時系列表は廃止。基準値表を新設 |
| 集計方法 | 2024年1月の基準更新に合わせ、指数と増減率が一致する参考系列を作る |
| 集計方法 | 一般・パート別の雇用の伸び率を、パート比率と整合する計算に改める |
出典: 厚生労働省「毎月勤労統計調査の公表方法等の改善に関する対応(案)」(資料2)
指数と伸び率のずれを解消する参考系列
三つ目は集計方法だ。毎月勤労統計は、全数調査の経済センサスなどを基に母集団の労働者数を定期的に置き換える(ベンチマーク更新)。賃金の高い産業の労働者が想定より多いと分かれば、置き換えた時点で平均賃金が高くなり、数字に段差(断層)が生じる。
2024年1月の更新は影響が大きかったため、厚労省は前年の値を新しい労働者数で計算し直して伸び率を出した。ところが指数は計算し直さずにつないだため、指数から計算した伸び率と公表した伸び率が合わない状態が続いている。見直し案は、公表済みの伸び率を基に2024年以前の指数とつないだ参考系列を新たに作る。資料2は、それでも「更なる系列の乱立を招くことにならないか検討が必要」と注記した。
雇用でも同じ更新でずれが出た。会合の説明によると、2024年1月の公表では常用雇用の前年比が一般労働者で3%増、パートで2.6%減だったのに、パート比率は上がった。厚労省は、雇用指数とパート比率の計算方法が異なるためだとして、2027年1月の更新から伸び率の計算をそろえる案を示した。
サンプル入れ替えのたびに数字が下方に修正される断層について、利用者からは補正した数字を出すよう求める声がある。資料2は、内閣府が断層を補正した「総雇用者所得」をすでに公表しているとし、毎月勤労統計では過去の数字を改める方法には慎重な検討が要るとした。厚労省の担当者は、2025年度の調査研究でパートの比率が高い層や回収率の低い層が断層に影響しているという分析結果が出ていると補足した。青山学院大の元山斉教授は、断層の原因でどこまで分かっているかを次回示すよう求めた。
調査員の負担軽減と今後の日程
WGは公表方法のほか、回収率と精度の改善、調査員の負担軽減、産業分類の改定への対応も扱う。資料1は、都道府県で調査員のなり手不足や高齢化が課題になっていると記した。2025年度の調査研究(資料4)では、調査員の廃止に賛成した都道府県は3にとどまり、督促を担う調査員をなくせば回収率が大きく下がるとした。事業所名簿を作る予備調査をやめれば、調査員の業務時間を全体の約21%減らせる可能性があるとした。
今後の日程も示された。公表方法の改善は2027年1月分の公表時をめどとし、母集団労働者数のベンチマーク更新も同月分の結果から行う。2024年4月に施行された第14回日本標準産業分類への切り替えは2028年1月分から予定し、卸売業・小売業の一部が電気・ガス業の「電気小売業」「ガス小売業」へ移るなど、分類の境目が変わる産業の数字の接続を検討する。第2回WGでベンチマーク更新と産業分類変更の試算結果を示し、第3回で中間報告案、第5回で報告書案をまとめる計画だ。
調査員の負担軽減や全国・地方調査の統合などは、予算と定員の要求を経て実装する。資料1は、2029年度以降の実装は層化基準の見直しを除き、調査のオンラインシステムの更改に合わせるとした。
