経済産業省と環境省は10月5日、イタリア・ローマで9月21日から25日まで開かれた残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の「残留性有機汚染物質検討委員会」第22回会合(POPRC22)の結果を公表した。電気製品や自動車部品に広く使われる臭素系難燃剤デカブロモジフェニルエタン(DBDPE)など2物質について、国際的な規制対象に加えるかどうかの審査を次の段階へ進めることが決まった。有機フッ素化合物ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の使用を例外的に認めている用途を2つに絞り込むよう、締約国会議(COP)へ勧告することも決定している。

難燃剤2物質が最初の関門を通過

新たに提案された物質のうち、ノルウェーが提案したDBDPEとその関連物質である臭素化ジフェニルエタンは、残留性・濃縮性・長距離移動性・毒性を審議した結果、「全体としてスクリーニング基準を満たす」と結論された。これを受け、次回会合(POPRC23)に向けてリスクプロファイル案を作成する段階へ進む。DBDPEの主な用途は難燃剤で、両省の発表は電気電子機器、自動車部品、建築・建設資材、繊維に用いられるとしている。生物の体内に蓄積しやすいかどうか(濃縮性)には不確実性が残るため、リスクプロファイル案を作る段階で追加の情報を含めて検討する。

欧州連合(EU)が提案したビス(2-エチルヘキシル)テトラブロモフタレート(TBPH)も同様にスクリーニング基準を満たすとされ、リスクプロファイル案の作成段階へ移った。TBPHは難燃性可塑剤で、配線やケーブルの絶縁に使う柔らかい塩化ビニル、建設分野の硬質ポリウレタンに使われる。

一段先を進むのが、スイスが提案したポリ臭素化ジベンゾ-p-ジオキシン及びジベンゾフラン(PBDD/Fs)だ。四臭素化体から八臭素化体までのPBDD/Fsが「重大な悪影響をもたらすおそれがある」と結論され、POPRC23でリスク管理に関する評価を検討する段階に進む。これらは製品として作られるのではなく用途が「非意図的生成物」とされる物質である。一方、同時に提案されたポリ臭素化塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン及びジベンゾフラン(PBCDD/Fs)は、長距離移動性と毒性に不確実性があるとしてPOPRC23までの情報収集が続く。一から三臭素化のPBDD/Fsと二から三ハロゲン化のPBCDD/Fsは、おそれがないと結論づけられた。

3段階の審査を経てCOPへ 決定後は化審法で規制

POPs条約は、環境中で分解されにくく生物に蓄積し、毒性が高く、風や海流で遠くまで運ばれる化学物質の製造・使用の廃絶や制限を定めた条約だ。2001年5月にストックホルムで採択され、2004年5月17日に発効した。日本は2002年8月に加入している。規制の形は3種類あり、附属書Aが製造・使用・輸出入の原則禁止(廃絶)、附属書Bが制限、附属書Cが非意図的に生成する物質の排出削減にあたる。

対象物質を追加するかどうかは、加盟国31人の専門家で構成するPOPRCが、①スクリーニング②危険性に関する詳細検討(リスクプロファイル)③リスク管理に関する評価という3段階を経てCOPに勧告する。今回DBDPEとTBPHが通ったのは1段階目、PBDD/Fsが進むのは3段階目にあたる。COPが決定した後、各国は国内法で規制する義務を負い、日本では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法、昭和48年法律第117号)などが使われる。附属書の改正は、国連事務総長が各締約国へ通報した日から1年後に発効する仕組みで、審査の通過から実際の規制までには数年を要する。条約の規制対象をめぐって専門家の評価が焦点になった例としては、コカ葉、国際麻薬条約の規制を維持 WHOが202ページの報告書で根拠を公表 葉1トンからコカイン1.4キロ、伝統的な噛用自体は「重大な危険はない」もある。

日本からは専門家として静岡大学の金原和秀理事・副学長が出席し、経済産業省と環境省の担当官らがオブザーバーとして参加した。

禁止された物質の代替として、10年で生産が拡大

DBDPEがいま審査の対象になっている背景は、ノルウェーが条約事務局へ提出した提案書(UNEP/POPS/POPRC.22/3)に書かれている。提案書は、DBDPEを含む臭素化ジフェニルエチル類の世界的な生産と使用が過去10年で大きく伸びたのは「主にデカBDEの代替として」だと指摘する。デカBDE(デカブロモジフェニルエーテル)は2017年にストックホルム条約の規制対象に加えられた難燃剤で、現在は附属書Aに列挙されている。規制された物質の置き換えとして広まった物質が、次の規制候補として審査の対象になった構図である。

提案書が挙げる流通量は小さくない。EUではREACH(EUの化学品規制)に登録され、年1万〜10万トンが輸入されている。欧州化学品庁(ECHA)の2024年の資料に基づき、臭素化ジフェニルエチル類はEU市場に出回る芳香族臭素系難燃剤の推定総量の43%を占めるとしている。米国では2016〜2019年に年9000〜4万5000トンが製造または輸入され、カナダへの輸入は年1000〜1万トン、オーストラリアへは年120トンと推定される。中国は主要な生産国で、2012年には世界の生産量の50%を超えた。2006年から2016年の間に約23万トンを生産し、うち約2割の3万9000トンがDBDPEを含む製品として輸出されたという。

各国の規制はすでに動き出している。EUは2025年、極めて分解されにくく生物蓄積性も極めて高い(vPvB)という性質を理由に、DBDPEを高懸念物質(SVHC)に特定した。カナダとオーストラリアは除外措置付きの禁止を導入または公表し、米国は有害物質規制法(TSCA)に基づく評価を続けている。一方でアジアの多くの国は国内規制を導入していない、と提案書は記している。環境中では天然の発生源が知られておらず、大気・表層水・底質・生物・人から、北極や南極の遠隔地に至るまで検出されている。環境中の濃度はデカBDEなど既に規制された臭素系POPsと同等かそれを上回り、イタリアのマッジョーレ湖の年代別の底質コアでは1989年から2011年にかけて、渤海の軟体動物では2011年から2018年にかけて増加傾向が確認されている。

PFOSの例外用途、ハキリアリ用の防虫剤と泡消火薬剤に限定を勧告

既に附属書Bで制限されているPFOSとその塩、ペルフルオロオクタンスルホニルフルオリド(PFOSF)については、附属書B第三部5項・6項に基づいて、使用を認める「認めることのできる目的」と「個別の適用除外」の必要性が見直された。委員会は、認めることのできる目的を「ハキリアリの防除に用いられる防虫剤」に、個別の適用除外を「液体燃料から発生する蒸気の抑制及び液体燃料による火災のために配備されたシステム(移動式及び固定式の両方を含む)における泡消火薬剤」に限ることをCOPへ勧告すると決めた。

医薬品製造を目的としたペルフルオロオクチル=ブロミド(PFOB)の製造に、ペルフルオロオクチル=ヨージド(PFOI)を使う適用除外は、必要性が認められて維持される見通しとなった。ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)、長鎖ペルフルオロカルボン酸(LC-PFCA)の各関連物質に該当する物質の例示リストの改定は、引き続き情報収集を行う。

POPRC21とPOPRC22の結果を踏まえた第13回締約国会議(COP13)は、2027年4月19日から30日までパナマのパナマシティで開かれる予定だ。POPRC23は同年9月27日から10月1日まで、再びローマで開かれる。それまでの会期間作業グループとして、PBDD/FsとPBCDD/Fsのリスク管理評価案の作成、DBDPEとTBPHのリスクプロファイル案の作成など5件が設けられた。