確定した有罪判決をやり直す「再審」の手続を見直す改正刑事訴訟法(令和8年法律第67号)が7月17日に成立し、7月24日に公布された。法務省によると、再審開始の決定に対する検察官の不服申し立て(抗告)を絞る規定は8月13日に施行された。検察官が抗告できるのは、開始決定が「取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り」となった。再審請求の審理で裁判所が検察官に証拠の提出を命じる制度、審理を要する事件を選び出す調査の手続など法律の本体は、公布の日から1年を超えない範囲で政令が定める日に施行される。法律の提出理由は、再審の手続が「非常救済手続としてより適切に機能するようにするため」としている。

5月に提出、衆院で修正のうえ7月に成立

衆議院の議案情報によると、改正案は第221回国会の閣法第61号で、内閣が5月15日に提出した。衆議院では5月26日に法務委員会へ付託され、6月12日の委員会、6月16日の本会議でいずれも修正のうえ可決された。本会議の賛成会派は自由民主党・無所属の会、日本維新の会、参政党、反対会派は中道改革連合・無所属、国民民主党・無所属クラブ、チームみらい、日本共産党と記録されている。

参議院は6月16日に受け取り、6月19日に法務委員会へ付託した。委員会は7月16日、本会議は7月17日に可決し、法律は成立した。法務省によると、公布は7月24日(官報号外第164号)。

衆院での修正は2点ある。法務省が公表した修正案要綱によると、1点目は、政府が施行後5年ごとに行う見直しの検討対象に「再審の請求の手続における証拠の目的外使用の禁止に関する制度及び検察官が保管する証拠の一覧表に関する制度」を例示として加えた。2点目は、これまで運用として行われてきた、裁判所が検察官に証拠の任意の提出・開示を勧告するやり方と、検察官による任意の提出・開示を「事案に応じ、適切に行うものとする」との規定を附則に加えた。

施行は4段階に分かれる。法務省の法案ページに示された日付は次のとおり。

施行日 主な内容
2026年7月24日 再審の手続を適正かつ迅速に行う規定(附則第3条)など
2026年8月13日 検察官の抗告の制限、抗告期間14日、政府による公表、死刑囚の拘置停止
2026年10月20日 再審開始決定が確定し無罪となった場合の請求手続費用の補償
公布から1年以内の政令で定める日 証拠の提出命令、調査・審判の手続、裁判官の除斥、目的外使用の禁止など
改正刑事訴訟法(令和8年法律第67号)の施行日と主な内容

出典: 法務省「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」、同「刑事訴訟法の一部を改正する法律・理由」

検察官の抗告、「十分な根拠」と公表で絞る

8月13日に施行された第1条の改正は、再審開始の決定に対する検察官の不服申し立てを対象にする。新設の第450条の2は、開始決定への即時抗告を「当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り」できると定めた。即時抗告を退けた決定などに対して最高裁判所へ申し立てる特別抗告にも、同じ条件を付けた。

同じ条文は、政府に公表の義務を課した。最高裁以外の裁判所が再審開始を決定したときは、その旨と、検察官が抗告したかどうか、抗告したならその理由を、遅滞なく公表する。即時抗告が退けられたときも同じく公表する。

抗告の期間も変わった。刑事訴訟法第422条は即時抗告の提起期間を3日と定めているが、新設の第450条の3は、再審請求を棄却する決定と開始決定に対する即時抗告の期間を14日とした。附則第5条は、8月13日以後の開始決定への不服申し立てについて、受理から1年以内に裁判所が決定するよう努めると定めている。

死刑の確定者についての規定も加えた。再審開始を決定した裁判所が死刑の執行を停止したときは、刑法第11条第2項に基づく拘置(刑の執行までの身柄拘束)も決定で停止できる。e-Gov法令検索に載る現行の第448条には、この項がすでに加わっている。

本体は証拠の提出命令と審理の手順

公布から1年以内に施行される第2条の改正は、再審請求の審理そのものの流れを定める。請求を受けた裁判所はまず「調査」を行い、方式違反などの請求は棄却し、理由があることが明らかなら再審開始を決定し、それ以外は「審判開始の決定」をして審理に入る(新設の第444条の2)。事実の取り調べは審判開始の決定の後に限る。

証拠については、審判開始を決めた裁判所が、請求の理由に関連すると認められる証拠を、関連性や必要性の程度、提出させた場合の弊害を考えて相当と認めるとき、請求人・弁護人の請求か職権で、検察官に提出を命じなければならないと定めた(新設の第445条の2)。判断のために検察官に証拠を示させる提示命令も設けた。附則第4条第1項は、提出命令について関連する証拠の範囲が「不当に狭くならないように留意されなければならない」としている。

提出を受けた証拠の扱いも決めた。弁護人は謄写した複製を適正に管理しなければならず、請求人や弁護人が再審の手続とその準備以外の目的で人に渡したり、インターネットで提供したりすることを禁じた。請求人が違反した場合や、弁護人が対価を得る目的で提供した場合は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金となる(新設の第445条の6)。

このほか、有罪判決などに関わった裁判官を再審の審理から外す除斥の規定(新設の第438条の2)、請求人が亡くなった場合の手続の受け継ぎ、審理を終える日を定める手順を新たに置いた。ただし附則第9条により、調査や証拠の提出命令の規定は施行日以後に請求された事件に適用し、施行前に請求された事件は原則として従前の例による。

野党案は抗告の全面禁止、衆院で否決

国会には別の改正案も出ていた。衆議院の議案情報によると、衆法第9号として西村智奈美氏ら4人が5月15日に提出し、提出会派は中道改革連合・無所属、チームみらい、日本共産党。衆院の法務委員会が6月12日、本会議が6月16日に否決した。本会議の賛成会派は提出の3会派、反対会派は自由民主党・無所属の会、日本維新の会、国民民主党・無所属クラブ、参政党だった。

この案の要綱は、成立した法律と次の点で違う。再審開始の決定について、検察官は即時抗告、異議の申し立て、特別抗告をいずれも「することはできない」とした。証拠は、請求人側から求めがあれば、不適法な請求などの場合を除いて、裁判所が検察官に開示を命じなければならないとし、検察官が保管する証拠の標目の一覧表を裁判所へ示させる規定も置いた。施行の際に裁判所に係っている再審請求にも新しい規定を適用するとし、政府は施行後3年をめどに、捜査機関が作る証拠の目録の在り方などを検討するとしていた。

立憲民主党は11月2日、10月29日に東京都内で開かれた「狭山事件の再審を求める市民集会」に岸まきこ企業・団体交流委員長が出席したと発表した。同党によると、岸氏は再審法改正の国会審議について、野党が中心となって修正を求めてきたものの、最終的に修正案が成立しなかった経緯を説明した。

見直しの検討は施行後5年ごと

成立した法律の附則第2条は、政府が施行後5年ごとに施行の状況を踏まえて再審制度の在り方を検討し、必要なら措置を講じると定める。衆院の修正で、証拠の目的外使用の禁止と、検察官が保管する証拠の一覧表の制度が検討の例示に加わった。野党案が施行後3年をめどとし、一覧表の提示を法律に書き込もうとした点は、成立した法律では見直しの検討事項にとどまった。

附則第3条は、再審の手続が裁判の迅速化に関する法律の目標に沿って「適正かつ迅速に行われなければならない」とし、請求人、弁護人、検察官に裁判所への協力を求めている。本体の施行日は今後、政令で決まる。施行の後は、新しい手続で請求された事件で、裁判所がどこまで検察官に証拠の提出を命じるかが、附則第4条の「不当に狭くならないように」という規定と合わせて問われることになる。