総務省は、情報通信審議会の電波有効利用委員会の下に置いた「無線従事者制度の在り方検討作業班」の第3回会合(10月29日、Web会議)の配布資料を公表した。無線局を操作するのに必要な国家資格「無線従事者」の制度を見直すため、構成員から意見を聴く2回目のヒアリングで、KDDI、日本民間放送連盟(民放連)、日本放送協会(NHK)、全国陸上無線協会(陸無協)、大日本水産会、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)の6者が資料を出した。
KDDIは陸上分野の資格を「3〜4区分程度に集約」するよう求めた。民放連と陸無協は、無人で動かす無線局に障害が起きたときに無線従事者が原則3時間以内に現地へ駆けつける要件の見直しを求めた。一方、NHKは資格の区分について「現時点で特段の支障は生じていない」とし、業界の間で見直しへの温度差が表れた。
23区分・生涯有効の国家資格
総務省が10月7日の第1回会合に示した資料によると、無線設備を操作するには、原則として総務大臣の免許を受けて無線従事者になる必要がある。資格は総合、海上、航空、陸上、アマチュアの5分野で計23区分あり、資格ごとに操作できる設備の範囲が送信出力や周波数で決められている。陸上分野では、第一級陸上無線技術士(一陸技)がテレビ・ラジオの放送局を含む全ての陸上の無線局を扱え、第二級(二陸技)は500W以下のテレビ放送局や2kW以下の中波・FM放送局まで、と段階が分かれる。その下に、携帯電話事業者の中継局などを扱う第一級陸上特殊無線技士(一陸特)、タクシー無線の基地局などを扱う第三級(三陸特)がある。
資格は一度取ると生涯有効だ。2025年度の新規取得者は6万9038人で、内訳は総務大臣が認定した養成課程の修了が4万9266人、国家試験の合格が1万7042人、学校での科目履修による卒業が2610人、業務経歴によるものが120人だった。
1990年(平成2年)には、選任された「主任無線従事者」の監督の下であれば、資格の無い人でも一部の操作を除いて無線設備を扱える「主任無線従事者制度」が導入されている。
総務省は作業班の設置理由として、通信方式のデジタル化や設備の自動化・集中化、現場保守からメーカー保守への移行で無線従事者を取り巻く環境が大きく変わったことを挙げた。無線技術の知識を持つ「ワイヤレス人材」の不足も懸念されるとして、操作範囲と求められる知識・能力を整理したうえで資格の体系を見直すとしている。
携帯・放送「3時間以内の派遣」を見直して
KDDIは、遠隔の監視拠点から基地局を操作する業務と、現地で基地局を設置・点検する業務の両方で無線従事者を選任していると説明した。資格者の比率は一陸技・二陸技が約2割、一陸特が約8割だという。そのうえで、陸上分野の資格の集約(「二陸技→一陸特と統合など」)、一陸特が操作できる出力上限500Wの拡大、土日の試験実施、モールス通信などの試験科目の見直しを求めた。AIや6Gの時代に向けては、自動制御の操作範囲と、無線従事者が判断・介入する条件(「軽微な操作」の定義など)を整理する必要があるとした。Wi-FiやIoTを使う社会人・学生向けに、基礎知識を証明する国家試験「ワイヤレス・パスポート試験制度(仮称)」の創設も提案した。
民放連は、主任無線従事者が監督する際に求められる「臨場性」、つまり3時間以内に設備のある場所へ赴く要件について、リモートカメラなどで遠隔から状況を確認して指示できることを条件に「不要と考えます」とした。地方の単独経営のラジオ局は社員が10人台から30人台のところが多く、一陸技の資格者を3人以上維持するのは「非常に困難」だとして、送信業務の委託先の一陸技資格者を選任できる制度の検討も求めた。在京テレビ社では一陸技の資格者が50〜90人いる例も示した。
NHKは、全国に総合テレビ2211局、教育テレビ2182局、AM280局、FM532局(2026年3月末)の放送局を抱える。区分や試験範囲には「特段の支障は生じていない」とする一方、人事異動のたびに資格・選任・講習の情報を引き継ぐ事務負担が「過大である」と訴えた。3時間要件は、遠隔運用の進展も踏まえて「今後の運用の在り方を相談していきたい」とした。
資格不要の無線へ流れる自営系
陸無協は、企業や自治体が自前で使う自営系の無線局が2025年度末で約287万局あり、そのうち55.2%の158万4643局を、無線従事者の資格が要らない簡易無線が占めると説明した。会員からの意見として、簡易無線が増える一方でそれ以外の自営系移動無線は微減の傾向にあり、「コストの他に無線従事者資格が壁となっている」との見方を紹介した。災害時に使う重要な無線まで、混信の危険がある簡易無線や回線が混み合う危険のあるIP無線に置き換える例も見受けられるという。
要望は3点。人手不足の企業が従業員に三陸特を取らせるための時間を捻出しにくいとして、より短時間で取れる制度への改正を求めた。また、無人運用の局は、障害時に無線従事者が原則3時間以内に駆けつけられることなどが条件で、降雪地域の山岳や離島では設置できる場所が限られる。このため、自ら故障を検知して送信を止める機能を持つ設備では条件を緩めるよう求めた。養成課程の修了後に免許証が届くまで約1か月かかる期間の短縮も挙げた。
漁業とドローンからの注文
大日本水産会は、国内の漁船約10万9000隻のうち沖合・遠洋に出る漁船は約1100隻と説明した。遠洋まぐろはえ縄漁船の一部、約40隻では今も船同士の連絡にモールス通信を使う場合があるという。資格の統廃合については、下位の資格が上位の資格体系に統合されて取得の難度が上がることに懸念を示し、「極論すれば、沖合&遠洋漁業はGMDSS対応が、沿岸漁業は今の資格があれば良い」とした。GMDSSは海上の遭難・安全に関する世界的な制度だ。長期の航海で陸上の講習を受ける機会が少ないとして、養成課程や講習の機会を増やすよう求めた。
JUIDAは、ドローンの映像伝送に使う「無人移動体画像伝送システム」のうち三陸特が必要な無線局は約2000局にとどまる一方、国土交通省航空局に登録されたドローンは37万機を超え(2026年5月末)、その多くは資格の要らない2.4GHz帯の無線LANを使っていると指摘した。三陸特の試験科目は無線工学と法規の2科目で、運用調整や干渉対策といったドローン特有の実務とずれがあるとして、既存資格に専門課程を加える案をまず試すよう提案した。資格を更新制にすると他の保有者にも負担が及ぶため、同システムを運用する人に限って3年ごとなどの定期講習を求める案も示した。作業班の検討範囲外の課題として、大規模災害時に通信の統制・調整にあたる「防災通信運用管理士(仮称)」の新設も挙げた。ドローンと電波の制度については、ドローンに普通の携帯SIM、当面見送りへ 総務省が作業班の資料公開 専用プランは月4万9800円も参照。
12月めどに中間論点整理
作業班は11月4日の第4回で、定期航空協会、日本無線協会、日本アマチュア無線連盟、日本アマチュア無線振興協会、全国水産高等学校長協会、情報通信ネットワーク産業協会から意見を聴く。12月をめどに開く第5回で、資格区分の見直しの方向性を含む中間論点整理を行い、並行して免許人や関係団体に実施するアンケート調査の結果も報告する。2027年1月以降は、見直しの方向性に沿って国家試験と養成課程の在り方を具体的に検討する予定だ。
| 提出者 | 主な要望 |
|---|---|
| KDDI | 陸上資格を3〜4区分程度に集約、一陸特の出力上限500Wを拡大、土日の試験 |
| 民放連 | 主任無線従事者の3時間要件を遠隔確認を条件に不要に、委託先の資格者の選任 |
| NHK | 区分・試験範囲は支障なし、異動に伴う事務負担の軽減 |
| 陸無協 | 三陸特の短時間取得、故障検知機能付き設備で無人運用条件を緩和 |
| 大日本水産会 | 上位統合による難度上昇を懸念、講習機会の拡大 |
| JUIDA | 三陸特にドローン専門課程を追加、運用者に定期講習 |
6者の資料からは、資格を集約・緩和してほしい携帯・放送・自営無線の現場と、統合で取得が難しくなることを警戒する漁業、運用者に追加の知識を求めるドローン業界とで、求める方向が分かれていることが分かる。陸無協の資料によると、国内の無線局は2025年度末で約3億7588万局と、前年度末の約3億6230万局から増えた(関連記事: 無線局が3億7,588万局に 衛星と直接つながる「携帯移動地球局」が2年で14万局から3,584万局へ 総務省の情報通信白書)。局数の増加と資格者の確保をどう両立させるかが、12月の論点整理で問われる。
