自民党の小林鷹之政務調査会長は10月28日、首相官邸で高市首相に会い、「中東情勢緊迫の長期化を踏まえたエネルギー安定供給・物価高対策に関する提言」を申し入れた。ガソリンなどの価格を抑える激変緩和措置について「持続可能な制度への円滑な移行を図るべき」とし、12月以降、春先に向けて基準価格を毎月5円程度ずつ段階的に引き上げることを基本に見直すよう求めた。冬の電気・ガス料金支援の実施や、輸入灯油への支援による灯油価格の抑制も盛り込んだ。日本維新の会も同じ日、別の提言を首相に申し入れた。

首相官邸で自民党の提言申し入れを受ける高市首相
自民党の提言申し入れを受ける高市首相(10月28日、首相官邸)首相官邸の写真を本紙が横幅1600pxに縮小出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/105/actions/202610/28teigen.html)利用条件: PDL1.0

政調会長らが官邸へ 維新も同じ日に提言

首相官邸の「総理の一日」によると、首相は10月28日、自民党と維新からそれぞれ提言の申し入れを受けた。自民党の発表では、党側は小林氏のほか、山際大志郎資源・エネルギー戦略調査会長、山本順三海運・造船対策特別委員長、大野敬太郎経済安全保障推進本部長、宗清皇一経済産業部会長、鈴木隼人外交部会長、本田太郎国防部会長、和田義明国土交通部会長が同席した。

提言は党政務調査会が10月27日付でまとめた。前日の26日に開いた党の「イラン情勢に関する関係合同会議」で取りまとめたもので、小林氏はこの会議の冒頭、ガソリン価格の激変緩和措置について「見直しを検討すべき時期」との認識を示していた。

維新の提言の正式名称は「中東危機の長期化を踏まえたエネルギー・物価高騰対策に関する提言」で、官邸の記録に残っている。ただ、10月29日時点で維新の公式サイトには提言の本文が掲載されておらず、どの項目を求めたのかは確認できていない。2本の提言の違いは、維新が本文を公表した段階で確かめる。

提言の前提として、自民党は中東情勢の経過を次のように整理した。2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃の後、6月17日に米国とイランが核交渉の再開に向けた覚書に署名したが、ホルムズ海峡をめぐる対立が表面化し、7月上旬に攻撃の応酬が再開した。9月下旬には仲介国を通じたやりとりが再開したものの、膠着状態が続いているという。7月下旬にはイエメンのホーシー派がサウジアラビアに対して海上封鎖を宣言し、紅海とバブ・エル・マンデブ海峡でも不安定な状況が続いている。サウジアラビアの東西パイプラインや空港・石油関連施設への攻撃も挙げ、先行きは「依然として不透明」とした。

ガソリン補助、12月から段階的に縮小を

提言の柱の一つが、ガソリンなどの燃料価格対策の見直しだ。激変緩和措置は、燃料の小売価格を一定の水準(基準価格)程度に抑える国の措置で、自民党によると、ロシアのウクライナ侵略で原油価格が高騰したのを受けて2022年(令和4年)2月に始まった。ガソリン税などの暫定税率の廃止でいったん中断したが、今年2月の中東情勢の緊迫化を受けて再び実施され、1リットルあたり170円程度に抑える措置が続いている。

提言は、日本のガソリン価格が欧州諸国と比べて「半分以下の低い水準」にあり、産油国の米国も下回っていると指摘した。そのうえで、国際的なエネルギー市場の動向も踏まえれば、国民生活と経済活動への影響に十分配慮しつつ、持続可能な制度へ移るべきだと結論づけた。

見直しの方法として、4月以降の「措置の出口」に向け、12月以降、原油価格の動向を注視しながら、春先に向けて基準価格を毎月5円程度ずつ段階的に引き上げることを基本とするよう求めた。基準価格を引き上げれば、補助で抑える価格の水準そのものが上がることになる。提言は、給油の現場で混乱を招かないよう配慮し、事業者や利用者が先を見通せる形で進めることも求めた。何円まで上げるのか、補助をいつ終えるのかは、提言には書かれていない。

一方で、電気・ガス料金については支援を求めた。長期化する物価高への対応として、飲食料品の消費税率引き下げなど切れ目のない対応を図るとしたうえで、「昨冬のように」冬の需要期の家計と事業者の負担を軽くするため、電気・ガス料金支援を実施するよう求めた。今夏の支援は政府、電気・ガス料金支援を7月から再開 猛暑の8月は上乗せ 予備費5135億円で伝えた。

灯油の買いだめに指導、輸入灯油を支援

冬の暖房・給湯に使う灯油について、提言は「国民の生命に関わる重要なエネルギー」と位置づけ、安定供給の徹底を求めた。一部の事業者で通常より多い買いだめの動きがあったとして、卸売業者を通さない「石油元売事業者からの直接販売」を速やかに適用すること、販売の抑制や買いだめをしないよう事業者を指導・要請することを挙げた。

価格面では、中東情勢などの影響で世界の精製能力が落ち、灯油の国際価格が高止まりしていると説明した。一部の地域で小売価格が上がる傾向にあるとして、特に輸入灯油への支援を通じて価格を抑えるよう求めた。元売りや輸入商社からの供給状況を定期的に調べ、価格が実際に抑えられているかを監視することも盛り込んだ。

情報発信については、灯油を含む石油製品は日本全体として必要な量が確保できており、落ち着いて行動すべきだと繰り返し伝えるよう求めた。輸入灯油の調達状況を事業者に知らせることや、ホームページやSNSで供給状況と価格を示すことも挙げ、地域ごとの事情を踏まえた発信を求めた。

流通の「目詰まり」への対応も続けるよう求めた。提言によると、燃料油と潤滑油では、事業者からの1,500件を超える要請に対応し、最近寄せられた案件を除いて対応を終えた。新たな相談は減ってきているが、情報を受け付ける体制を保ち、1件ずつ迅速に対応することを求めた。

原油は15か国から代替調達、備蓄の回復も

原油と石油製品の量について、提言は現時点では日本全体として必要な量が確保できているとの認識を示した。ホルムズ海峡を通らない代替調達を官民で進め、中東諸国や米国に加え、アジア太平洋、中南米、中央アジア、アフリカ、カナダなど計15か国に調達先を広げた。その結果、中東危機の発生から約3か月で調達率を約10割の水準まで戻したという。

ただ、国際市場の在庫や需給、供給不足が続く期間によっては、同じように調達できるとは限らないとして、資源外交や、代替調達に役立つ設備投資への支援を通じて取り組みを強めるよう求めた。

石油の国家備蓄は、3月以降に2度放出した。提言は、代替調達の初期に原油の調達量の落ち込みを補ったと評価した。代替調達が進んだため、現時点では新たな放出を決める状況にはないとしたうえで、油価や国内需要を見ながら備蓄日数を着実に回復させるよう求めた。日本の原油の中東依存の構図は、エネルギーの中東依存の全体像 石油は減らしたが原油の95.9%が中東にまとめている。

提言は7つの項目で構成されている。

項目 主な中身
基本認識 足元の危機対応に万全を期し、エネルギー構造の強靱化を加速
必要量の確保 代替調達の支援強化、備蓄日数の回復
冬の灯油 直接販売の適用、買いだめ防止の指導、輸入灯油への支援
目詰まり対策 事業者からの情報を受ける体制の維持、1件ずつの対応
価格高騰対策 冬の電気・ガス料金支援、ガソリン補助の基準価格を月5円程度引き上げ
供給構造の強靱化 調達多角化法案の成立、製油所の設備投資支援、アジアでの共同備蓄
重要物資と保険 物資の地域偏在の点検、海上輸送の保険能力を補う法案の成立
自民党の提言の構成出典: 自由民主党政務調査会「中東情勢緊迫の長期化を踏まえたエネルギー安定供給・物価高対策に関する提言」

調達多角化の法案成立、アジアでの共同備蓄も

中長期の対策として、提言は原油などの調達先と輸送経路を多角化し、特定の経路への依存を下げることを挙げた。政府が臨時国会に提出している化石燃料の調達多角化のための法案を確実に成立させ、企業の調達のあり方を変えるとともに、代替のパイプラインの整備を支援するよう求めた。調達先が増えれば多様な油種に応じた製油所の設備が要るとして、製油所の設備投資への支援も求めた。原油への依存そのものを減らすため、バイオ燃料や持続可能な航空燃料(SAF)の製造事業への出資や設備投資支援も挙げた。

アジアとの連携では、日本が中東の産油国とアジアの消費国の結節点となり、「パワー・アジア」を通じて対話を強めるよう求めた。具体策として、アジアでの石油備蓄・放出制度の構築、備蓄タンクの整備、東南アジア諸国連合(ASEAN)の共同備蓄、緊急時の協調放出や燃料の融通、中東産油国との共同備蓄、ホルムズ海峡を通らない輸送経路の構築を列挙した。

重要物資については、地政学的なリスクが再び表面化すれば、部素材の欠品や供給の遅れが起きるおそれがあると指摘した。国全体の総量は確保できても、流通網の細い地方で物資が偏る可能性もあるとして、国内の流通の仕組みのリスク点検に着手するよう求めた。海上輸送などの保険能力を補うため臨時国会に提出している法案の早期成立も挙げた。

提言は最後に、エネルギー安全保障の観点で最も重要なのは、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡を含む中東地域全体の事態を早く沈静化させ、両海峡の自由で安全な航行を回復することだとした。仲介国を含む関係国と連携して外交的解決を後押しし、海峡の今後のあり方は海峡の利用国や国際海事機関(IMO)を含む国際社会で議論すべきだとした。党としても議員外交を展開するとしている。