日本共産党国会議員団は10月1日、「AI開発」に関する政府への申し入れを公表した。表題は「AI開発競争がもたらす危険から国民と人間社会を守るために、日本政府がただちに行動を起こすことを求めます」。米中をはじめとする主要なAI開発国に対し、最先端AIの開発を一時停止・禁止して国家として規制するよう日本政府が求めること、国連をはじめ国際社会に安全性の検証と人間による統制のための国際協定づくりを働きかけることを柱に掲げた。求めているのは利用の規制ではなく、開発そのものの停止である。

危険は「暴走」と「AIリストラ」 軍事利用は中止を要求

挙げた危険は二つだ。一つは人間の制御を離れて暴走する最先端AIで、サイバー攻撃や重要インフラの破壊、軍事利用のエスカレーションを挙げ、「すでにAIが人間の制御を離れ想定外のサイバー攻撃を行うなどの端緒的な事例が報告されている」と書いた。もう一つは巨大企業によるAI利用で、「AIリストラ・不況」になりかねないとし、個人情報の漏えいやディープフェイク、データセンターによる環境破壊を並べた。

国内向けは5項目。AI開発企業への調査・監督体制、雇用を守る法整備、人権とプライバシーの保護、データセンターの環境負荷への対応、政府やAI事業者から独立した第三者機関の設置である。最も踏み込んだのは軍事利用で、「自衛隊の指揮統制システムへのAI導入計画を中止する」ことを求めた。

政府は「防衛力の変革にAIを最大限活用」 来年度要求は5.8倍

政府の方針は逆を向いている。7月14日に閣議決定した第Ⅱ期人工知能基本計画は、業務の進め方を根底から見直す「AIトランスフォーメーション」を基本構想に据え、「防衛力の変革に向けて、データとAIを最大限に活用する」と明記した(経緯)。令和9年度のAI関連予算の概算要求は2兆9392億円で、令和8年度当初の5027億円の約5.8倍。「AIによる防衛分野における意思決定の迅速化・高度化」(防衛省)が新規で並ぶ(内訳)。根拠法のAI法は昨年9月1日に全面施行された。内閣府はこれを「AIのイノベーションを促進しつつ、リスクに対応するため」の法律だと説明している。開発を止めるのではなく、進めながら制御する立て付けである。

止めるのは日本だけになる

指摘された危険は論点として成り立つ。問題は結論だ。米中が開発を止める材料は何も示されておらず、両国が応じない限りこの要求が効くのは日本に対してだけである。技術でも産業でも防衛でも、降りるのは日本だけになる。

AI関連予算が5.8倍にふくらみ、AI法が全面施行され、政府がAXを基本構想に据えた。AIはすでに国力の基盤にある。それを止めろという提案は、止めることのコストを示さないまま「リスクがある」と述べているに等しい。危険を並べたうえで「ではどう進めるのか」が書かれておらず、代案のない反対は現状維持ではなく後退の主張になる。

惜しいのは、同じ問題意識から通る提案が作れたはずだという点だ。申し入れ自身がAIの貢献可能性を認めている。災害対応、医療、インフラ点検、人手不足の解消。民生分野の活用を国の責任で加速させ、同時に安全性の検証と第三者監督を制度で置く——開発を止めるのではなく進めながら制御するなら、内閣府のAI法の説明と遠くない。国内向け5項目のうち軍事利用の中止を除く4項目は、開発停止という外枠を外せばそのまま論点になり得た。外枠にそれを置いたことで、中身まで一緒に退けられる形になっている。

第222回国会(臨時会)は10月5日に召集された。共産党は衆参両院で少数会派だ。少数会派が政策を動かす手段は、実現可能な一点に絞って与党に飲ませることしかない。今回はその反対をやっている。