高市早苗首相は10月27日、実務訪問賓客として訪日中のバングラデシュのタレク・ラーマン首相と首相官邸で約25分間会談した。両首脳は会談後に「日・バングラデシュ共同声明」を発表し、日本の対バングラデシュ協力の旗艦だった「ベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)」構想を、4本の柱からなる「繁栄を分かち合うBIG-B」へ改めることを決めた。日本からの民間投資が今後5年間で1兆円に達するとの見通しも示された。ラーマン首相は2026年2月の総選挙を経て就任し、首相としては初めての訪日だった。

会談は25分、共同声明は14項目
外務省によると、会談は午前11時45分から始まり、続いて共同記者発表と昼食会が開かれた。首相官邸での会談に先立ち、自衛隊による栄誉礼と儀じょうがあった。
高市首相は冒頭、ラーマン首相の就任に祝意を述べ、国際情勢が不安定になる中で、日本は進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の下でバングラデシュの「自律性」と「強靱性」を支えると伝えた。ラーマン首相は、日本が平和国家として歩み、バングラデシュの独立をいち早く承認したことに触れ、「日本はバングラデシュの人々にとって特別な存在である」との趣旨を述べた。
共同声明の和文仮訳は序文から結びまで14項目で、経済協力、投資、安全保障、人的交流、地域情勢を網羅している。声明で高市首相は、日本が派遣した選挙監視団が確認したとおり、2月の総選挙が「信頼できる形で平和裡に実施された」として、その成功を歓迎した。結びでは、ラーマン首相が高市首相にバングラデシュ訪問を招請した。訪日の日程と両国関係のこれまでは、バングラデシュのラーマン首相夫妻、26〜29日に訪日 高市首相と首脳会談へ 20年ぶりのBNP政権発足後初で伝えている。
共同記者発表で高市首相は「民主的な総選挙を経て発足したラーマン政権による国づくりを、力強く後押ししてまいります」と述べた。両国の関係は「共に繁栄する未来のための日本・バングラデシュ関係の新時代」と表現した。
BIG-Bを4本柱で刷新、マタバリを拠点に
BIG-Bは、日本がバングラデシュの経済開発のために掲げてきた協力構想で、外務省の説明資料では経済インフラ整備・投資環境整備・連結性強化を柱としてきた。外務省の基礎データによると、日本はバングラデシュにとって最大の二国間援助国で、首都ダッカの都市高速鉄道(MRT)、ダッカ国際空港第3ターミナル、南東部のマタバリ深海港といった大型案件をこの構想の下で進めてきた。
共同声明は、サプライチェーンのリスクの高まりや急速な技術革新を踏まえ、構想を「繁栄を分かち合うBIG-B」に進化させると明記した。新たな柱は、(1)連結性の強化(2)災害や地政学的不確実性を含むリスクへの備え(3)官民連携による経済成長機会の共創とルール整備(4)平和と安定のための協力――の4本だ。電力、エネルギー、深海港、産業・ICTインフラの開発を一体で進め、バングラデシュを貿易と供給の玄関口にする考え方を共有した。
具体策として、両首脳はマタバリ深海港を中心に、マタバリ・モヘシュカリ地域を物流、エネルギー、産業の拠点として開発するために協働することで一致した。空港第3ターミナルの早期開業に向けた準備を進め、MRT路線の早期建設を進めるほか、マタバリ深海港の運営・管理を含む将来の協力について協議を目指すことも盛り込んだ。
エネルギーでは、ラーマン首相が、日本の「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(パワー・アジア)」の下での最初の円借款案件である500億円の「経済の強靱性向上・エネルギー供給安定化のための緊急支援借款」に謝意を示した。このほか、投資環境改善のための円借款と、地方自治体の行政・財政能力を強める円借款「地方行政強化計画(フェーズ2)」のプレッジ(供与の表明)も歓迎した。声明と外務省の会談概要には、この2件の金額は書かれていない。
民間投資1兆円・雇用20万人、覚書4件に署名
経済面で高市首相は、今後5年間で日本からバングラデシュへの民間投資が1兆円に達し、それによって20万人の雇用が生まれる見通しだと述べた。近い将来、日本からビジネス・ミッションを派遣し、経済対話を行う意向も表明した。ラーマン首相は、税務、通関、送金、許認可の運用手続きのルール整備や透明性の向上を含め、投資環境の整備に取り組むと約束した。
訪日に合わせ、各省が相手国の省庁と文書を交わした。外務省が会談概要に列挙した覚書などは次のとおり。
| 日本側 | バングラデシュ側 | 文書と主な内容 |
|---|---|---|
| 経済産業省 | 財務省経済関係局 | 貿易・投資促進に関する協力覚書 |
| 農林水産省 | 農業省 | 協力覚書。農業分野のビジネス強化と投資誘致。農業合同作業部会を設置 |
| 農林水産省 | 漁業・畜産省 | 協力覚書。水産・畜産分野の貿易、投資、技術交流。合同作業部会を設置 |
| 環境省 | 環境森林気候変動省 | 環境に関する協力覚書 |
| 環境省 | 環境森林気候変動省環境局 | 長期低排出発展戦略の策定に関する協力意向表明書 |
出典: 外務省「日・バングラデシュ首脳会談」、経済産業省・農林水産省・環境省の報道発表
このうち環境省の協力意向表明書は、環境省の発表によると10月14日に締結された。同省の地球環境局が、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)を使ったバングラデシュの将来排出シナリオの分析や長期戦略の策定に協力する。環境に関する協力覚書は2026年2月に両国が結んだもので、意向表明書はその具体化に当たる。経済産業省によると、赤澤経済産業相も28日にラーマン首相と会談し、日・バングラデシュEPAを踏まえた貿易・投資の拡大について意見を交わした。
外務省の基礎データでは、バングラデシュに進出した日本企業は2005年の61社から2025年に338社へ増えた。2025年度の財務省貿易統計による日本からの輸出は約3459億円(鉄鋼・鉄鋼製品、輸送機器など)、バングラデシュからの輸入は約2457億円(縫製衣料製品、皮革・履物など)だった。
EPAの早期発効を確認、RCEP加入にも言及
両首脳は、2月に署名した日・バングラデシュ経済連携協定(EPA)について、早期に発効させるとの約束を再確認した。外務省によると、この協定はバングラデシュにとって初めての自由貿易協定で、日本にとっても後発開発途上国(LDC)と結ぶ初のEPAになる。声明は、EPAを通じた産業の多角化で、バングラデシュがLDCから円滑に移行することを支えるとした。国会での承認の手続きは、日・バングラデシュEPA、承認案を国会に提出 日本初の後発途上国とのEPAで伝えている。
バングラデシュの経済は輸出の多くを縫製品に頼る。外務省の基礎データによると、2025年度の縫製品の輸出額は約393.4億ドルで、輸出収入の81.49%を占めた。外務省は、産業の多角化と投資環境の整備を同国の課題に挙げている。高市首相は声明で、バングラデシュが求めている地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への加入について、議論の進展に期待を示した。
巡視船を供与、防衛装備移転協定の発効も歓迎
安全保障では、両首脳が防衛装備品・技術の移転に関する協定の署名と発効を歓迎した。日本の防衛装備移転三原則の改定についても議論し、協力の進展に期待を示した。日本の装備移転を巡る制度は、日本とフィンランドが防衛装備品・技術移転協定に署名 発効すれば武器の完成品も移転の対象にで解説している。
両首脳は、政府開発援助(ODA)による巡視船の供与と、政府安全保障能力強化支援(OSA)による5隻の警備艇の供与を歓迎した。外務省によると、巡視船の供与は供与限度額21億2000万円の無償資金協力「海上保安能力向上計画」で、10月26日に東京で書簡が署名・交換された。「安全保障関連ODA」の一環として、沿岸警備隊東部管区に日本製の巡視船などを整備する。
外務省は、ベンガル湾では海賊行為や密輸、密入国などの海上犯罪が多く、2017年から2023年の7年間に年平均約150〜200人の人身売買と、約300万点以上の覚せい剤の密輸が摘発されたとしている。共同声明では、高市首相がバングラデシュを国連平和維持活動(PKO)への最大の貢献国の一つと認め、海洋状況把握や沿岸警備、港湾保安を通じた協力を深めると表明した。
地域情勢では、北朝鮮の核・ミサイル開発への懸念を共有し、拉致問題の即時解決を求めた。ミャンマー情勢では暴力の即時停止を求め、ラーマン首相は、ロヒンギャ問題の「解決策はミャンマーにある」と述べた。中東については、ホルムズ海峡の早急で完全な開放と、追加的な費用を伴わない全ての船舶の通行を改めて求めた。
