環境省は10月30日、宮城県栗原市で回収されたマガンの死亡野鳥1羽について、遺伝子検査の結果、高病原性鳥インフルエンザウイルスは検出されなかったと発表した。この個体は簡易検査でA型鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が出ており、環境省は28日、今シーズン1例目の「野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生が疑われる事例」として宮城県と同時に公表していた。陰性の確定を受け、回収地点の周辺10キロメートル圏内に指定していた野鳥監視重点区域を30日に解除した。環境省は「引き続き全国での野鳥の情報収集及び監視を行います」としている。

簡易検査で陽性、3日後に陰性が確定

環境省の発表によると、宮城県が10月27日、栗原市でマガンの死亡野鳥1羽を回収し、同じ日に簡易検査を行ったところ、A型鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が確認された。環境省は同日付で回収地点の周辺を野鳥監視重点区域に指定し、28日に報道発表した。

28日の発表は「現時点では、簡易検査でA型鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が確認された段階であるため、病原性は未確定」と明記し、高病原性のウイルスが確認されたわけではないと断っていた。遺伝子検査は国立環境研究所内にある専門検査会社で行い、結果は最短で29日に判明する可能性があるものの、検体の状態によっては数日以上かかる可能性があるとしていた。

結果は30日に出た。環境省が同日更新した今シーズンの発生状況の一覧では、この事例の遺伝子検査の欄に、HA亜型が「H5/H7以外」、病原性が「陰性(高病原性でない、その他鳥インフルエンザウイルス)」と記載されている。A型の鳥インフルエンザウイルスではあったが、高病原性鳥インフルエンザの原因となるH5亜型、H7亜型ではなかったことになる。

日付 経過
10月27日(火) 宮城県が栗原市でマガンの死亡野鳥1羽を回収。簡易検査でA型鳥インフルエンザウイルスの陽性反応。野鳥監視重点区域を指定
10月28日(水) 環境省と宮城県が疑い事例として同時発表
10月30日(金) 遺伝子検査で高病原性鳥インフルエンザウイルスは検出されず。野鳥監視重点区域を解除
宮城県栗原市のマガンの疑い事例の経過

出典: 環境省の報道発表(10月28日、30日)と発生状況の一覧(10月30日現在)

簡易検査と遺伝子検査、それぞれの役割

環境省の「野鳥等における高病原性鳥インフルエンザに係る対応技術マニュアル」(令和8年9月版)によると、死亡した野鳥などの検査は段階を踏んで進む。最初の簡易検査はA型インフルエンザウイルスの有無を見るもので、陽性が出た時点で環境省へ直ちに連絡する決まりになっている。病原性の高低を確かめるのは、その後の遺伝子検査やウイルス分離検査だ。

マニュアルは、簡易検査が陽性の段階で公表する場合は「病原性の高低が未確定であり、遺伝子検査で高病原性鳥インフルエンザではないと診断される場合もあることを明記する」と定めている。今回の28日の発表の書き方は、この規定に沿ったものだ。

確定前の段階で公表と区域の指定に踏み切るのは、監視を早く強めるためだ。マニュアルは、野鳥での発生が「見込まれた段階」として、簡易検査が陽性になった場合や、遺伝子検査でA型インフルエンザウイルスのM遺伝子が確認された場合を挙げ、この時点で野鳥監視重点区域を指定するとしている。高病原性のH5亜型またはH7亜型の遺伝子が検出されれば、発生が「認められた段階」に移る。

簡易検査の陽性が、確定検査で否定された例は過去にもある。環境省がまとめた2024〜25年シーズンの調査結果の資料は、2021年のシーズンで初めて野鳥監視重点区域が設定された事例について「簡易検査陽性となり、シーズンで初めて野鳥監視重点区域が設定された事例(その後の検査で低病原性と判明)」と注記している。

監視重点区域、陽性なら28日間続く

野鳥監視重点区域は、死亡した野鳥などが回収された場所を中心に半径10キロメートル以内に設ける。区域の中では、死亡した野鳥を見つけたときに検査を始める羽数の基準が、全国で適用される基準より低くなる。10月21日の環境省の発表に添えられた表では、検査の優先度が2番目に高い「検査優先種2」は全国の対応レベル2で「2羽以上」だが、区域内では「1羽以上」となる。「検査優先種3」とその他の種は、レベル2の「5羽以上」が区域内では「3羽以上」になる。

区域を解く時期は、検査の結果で分かれる。マニュアルは、簡易検査の陽性などで区域を指定した後に遺伝子検査などで陰性が確定した場合、区域を「直ちに解除する」と定める。今回の30日の解除はこの規定によるものだ。

これに対し、陽性が確定した場合は、野鳥なら最後に感染が確認された個体の回収日の翌日を1日目として、28日目の24時に解除する。マニュアルの問答は28日とした理由について、回収された個体の直前に別の個体が感染していたとすると、発症まで最大14日間(国際獣疫事務局の定める潜伏期間)かかる可能性があり、野外での感染には不確定な要素が多いため、同じ14日間を警戒期間として加えたと説明している。栗原市の事例で陽性が確定していれば、回収日の翌日の10月28日を1日目として、区域は11月24日まで続く計算だった。

全国はレベル2の監視を継続

全国の監視体制は、10月21日に引き上げた「対応レベル2(監視強化)」が続いている。韓国の順天(スンチョン)湾で10月12日に採取された野鳥の糞便から、20日にH5亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されたと韓国政府が発表したことを受け、環境省が「対応レベル1(情報収集・監視)」から引き上げた(野鳥の鳥インフルエンザ監視、全国で対応レベル2に 韓国・順天湾の糞便からH5亜型)。21日の発表時点で、国内の野鳥での高病原性鳥インフルエンザの発生は令和8年5月22日以降確認されていなかった。

環境省が30日現在でまとめた今シーズンの発生状況の一覧に載っているのは、栗原市の1件だけだ。家きん(鶏などの家禽)についても、農林水産省は令和8年度秋以降の高病原性鳥インフルエンザの発生は確認されていないとしている(10月26日時点)。

前のシーズンは秋の早い時期に発生が始まった。環境省の資料によると、2024〜25年シーズンは9月30日に北海道乙部町で回収されたハヤブサがシーズン初の陽性事例となり、2025年6月17日に北海道釧路市で回収されたオジロワシが最後の確認だった。この間、野鳥では1道18県で227事例(うち糞便などの環境試料19事例)、家きんでは1道13県で51事例が確認された。同じ資料によると、このシーズンの死亡野鳥などの検査は計1261件で、月別では11月の218件が最も多く、3月の184件が続いた。

死んだ野鳥には触れず、自治体へ連絡を

環境省は28日の発表で、鳥インフルエンザウイルスは感染した鳥との濃密な接触などがあった場合を除き、人には感染しないと考えられていると説明した。日常生活では鳥の排せつ物などに触れた後に手洗いとうがいをすれば過度に心配する必要はないとして、冷静な行動を求めた。

同じ場所で多くの野鳥などが死んでいる場合は、近くの都道府県や市町村の役場へ連絡するよう呼びかけている。21日の発表でも、死亡したり衰弱したりしている野鳥を見つけた場合は地方公共団体などへ連絡し、自分では触れないよう求めていた。

報道機関に対しては、ウイルスの拡散や感染を防ぐ観点から、現場周辺での取材を「厳に慎むよう」要請した。マニュアルは、過去に報道関係者によって感染が拡大したと疑われる事例があったとして、取材のための現地への立ち入りの自粛を求めるよう定めている。