政府は10月29日夕、令和8年第15回経済財政諮問会議を首相官邸で開いた。議題は「予算編成の抜本見直しの具体化」と「AIによる経済・社会の変革を見据えた政策形成」の2つ。民間の有識者議員4人は、補正予算に恒常的に頼る運営をやめ、当初予算を中心に複数年度で計画的に予算を組むよう提言した。高市首相は議論を踏まえ、城内実経済財政相に『令和9年度予算編成の基本方針』の策定を、片山さつき財務相に税収見積もりの精度向上を指示した。

「責任ある積極財政元年」の予算をどう組むか

会議は午後6時10分から55分まで、官邸4階の大会議室で開かれた。資料を出した有識者議員は筒井義信、永濱利廣、南場智子、若田部昌澄の4氏である。

内閣府の会議一覧によると、10月9日の前回(第14回)会合は「中長期経済財政計画の推進に向けた具体化」を議題とした(諮問会議、中長期経済財政計画の実行へ提言 複数ケースで点検し悪化の兆しで歳出・歳入見直し)。今回はその続きとして、年末に向けた令和9年度予算の編成手続きそのものを取り上げた。

有識者議員の資料1は、令和9年度予算を、骨太方針2026で示した予算編成の抜本見直しを実行に移す「責任ある積極財政元年」の予算と位置付けた(9月30日の会合での提言は経済財政諮問会議、令和9年度予算を「責任ある積極財政元年」に 補正予算依存からの脱却を提言 令和7年度補正の物価高対策約3兆円は見直し 長期金利は3%程度)。そのうえで、経済成長率や税収の見通し、歳出規模、国債発行額などについて「歳入・歳出両面から財政の全体像を明らかにすべき」と求めた。新規国債発行額は、歳入と歳出の両面での取り組みを反映した「結果」として示し、政策経費とそれ以外の経費の内訳を含めて説明すべきだとしている。

参考資料(資料2)は、議論の前提となる数字を示した。各省庁の概算要求の中身は令和9年度の概算要求143.1兆円 新設の「強く豊かな日本」投資枠に12.2兆円 片山財務相「大幅な増加との指摘は当たらない」を参照。

項目 金額
令和9年度概算要求(一般会計) 143.1兆円+事項要求
うち「強く豊かな日本」投資枠 12.2兆円+事項要求
新規国債発行額(令和8年度当初) 29.6兆円
新規国債発行額(令和7年度補正後) 40.3兆円
基金の残高見込み(令和9年度末) 7兆円
税外収入(令和8年度予算) 9.0兆円程度
予算編成の見直しを議論する前提として有識者議員が示した主な数字出典: 内閣府 経済財政諮問会議 資料2(有識者議員提出の参考資料)

資料2によると、令和7年度の補正後予算は前年度と比べて政策経費が4.7兆円増えた一方、税収と税外収入が8.9兆円増えたため、新規国債発行額は1.8兆円縮小した。概算要求では利払い費が3.6兆円増えるとも記している。

「強く豊かな日本」投資枠を複数年度の仕組みに

提言の柱の一つは、令和9年度予算で新設される『「強く豊かな日本」投資枠』を、単なる予算枠に終わらせず「新たな予算運営の仕組み」として具体化することだ。

政府の日本成長戦略会議は年末に「日本成長戦略実行計画」をまとめ、今後5年間の国内投資の道筋を示す予定になっている。資料1は、令和9年度予算では初年度の予算措置だけでなく、後年度の官民の投資の内容・規模や、財政措置の規模と時間軸を「可能な限り明らかに」し、民間投資に必要な予見可能性を確保すべきだとした。国内の民間設備投資や潜在成長率を大きく引き上げる分野、経済安全保障上重要な分野の事業については、特別会計で複数年度にわたる財源を確保し、政府の関与を財源の面から裏付けるよう求めた。

予算査定の考え方も変えるとした。資料1は「『金額を削る』予算査定から、『政策設計を磨く』予算査定へと転換する」と掲げ、投資枠では単年度の要求額の調整にとどまらず、政策介入の根拠や民間投資の誘発効果、官民のリスク分担、後年度の財政負担などを確認すべきだとした。主要施策は、概算要求の内容や採否とその理由を、企業の機微情報に配慮しながら公開し、実施後の効果検証の結果を翌年度以降の予算編成に反映する仕組みも求めている。

投資の分野や政策手段は「ポートフォリオ」として運営し、効果の高い政策は拡充、効果の乏しいものは縮小・退出させて、より効果の高い分野に資金を回すべきだとした。目的を達して予算が使われずに残った場合も「政策運営の成果として評価」すべきだとしている。

補正予算は災害・情勢の変化への対応に絞る

もう一つの柱は、補正予算と当初予算の役割分担である。資料1は「補正予算への恒常的な依存から脱却し、当初予算を中心とした計画的な予算運営へ転換すべき」と明記した。これまで補正予算で手当てしてきた施策のうち、継続的に必要なものは当初予算に移すことを基本とし、時限的な施策は経済・物価情勢や政策の効果を見て続けるかどうかを判断するとした。

補正予算そのものについては、災害や突発的な事態、予算編成後の経済・物価情勢の変化への対応などに限り、財政法第29条を踏まえて必要性を精査すべきだとした。同条は、内閣が補正予算を作れる場合を、予算作成後に生じた事由で「特に緊要となつた経費」の支出などに限っている。資料1はあわせて、補正予算依存からの脱却は「経済ショック時に必要な財政対応を行わないことを意味するものではない」とも書き添えた。

危機管理投資・成長投資は、実行計画と整合する複数年度の予算措置を基本とする。資料1は、基金、国庫債務負担行為(財政法第15条に基づき、国会の議決を経て国が後年度にわたる債務を負う仕組み)、繰越を事業の性質に応じて使い分け、特に国庫債務負担行為の活用を進めるべきだとした。基金は、事業の継続性を保ちつつ資金の滞留を抑え、過大な資金の国庫返納を進めるよう求めた。ただし基金の見直しにあたっては、既存の契約への悪影響を避け、長期投資に必要な政府の関与を損なわないよう求めている。

補正予算を毎年度のように組む運営では、国会が当初予算を審議する時点で、その年度に国がいくら借りるのかが定まらない。資料2が示した新規国債発行額は、令和7年度が補正後で40.3兆円、令和8年度が当初で29.6兆円であり、補正で積み増す分は当初予算の段階では数字に表れない。継続的な施策を当初予算に移し、補正を財政法第29条の「特に緊要」な支出に絞るという提言は、国会が年度の初めに予算の全体を審議できるようにするもので、財政規律の面で筋が通っている。危機管理投資・成長投資を国庫債務負担行為などで複数年度にわたり手当てすれば、経済安全保障上重要な分野で設備投資を決める企業は、政府の支出が翌年度以降も続くかを見通せる。単年度の補正で積み増す方式より、日本の産業基盤を強める手法である。残るのは、補正で賄ってきた施策を当初予算に移したとき、新規国債発行額をどう示すかだ。年末の令和9年度予算編成の基本方針で、移し替えた額と国債発行額の内訳を明らかにすべきではないか。

税収見積もりの精度と外為特会の剰余金

当初予算を中心に組むには、予算編成の段階で税収を正確に見込む必要がある。資料2は、物価上昇が続くなかで、政府経済見通しの名目GDPや当初予算の税収見積もりと、実績・決算との間に乖離が生じており、近年は「上振れ傾向にある」と指摘した。資料1は、財務省が税収実績と当初の見積もりの差を税目別・要因別に検証し、推計手法を確認できるよう透明性を高めるべきだとし、内閣府もマクロ経済見通しに基づく分析で財務省と連携するよう求めた。

税外収入については、資料2によると令和8年度予算で9.0兆円程度、2023年度から2025年度までは10兆円以上で推移してきた。資料1は、特別会計の剰余金や基金からの返納額などを検証したうえで、活用できる税外収入を把握・確保すべきだとした。一時的な収入と継続的な収入を区別し、恒常的な財政負担との関係に留意する必要があるとも付け加えている。

とりわけ外国為替資金特別会計(外為特会)について、資料1は足元の為替レートを前提とすれば、当面は為替リスクへのバッファーが十分に確保されているとして、その剰余金を財源として「積極的に活用すべき」と踏み込んだ。資料2によると、財務省の2010年の方針は、外為特会への累積積立額が外貨資産の約3割に達するまでは剰余金の30%以上を外為特会に留保することを基本とし、そのうえで一般会計への繰り入れ額を決める。資料2は、円安などで外貨資産の円建て評価額が上がり、資産と負債の差額が増えているとしている。

首相の指示と、AIを巡るもう一つの議題

高市首相は会議の締めくくりに、城内経財相に対し、歳出にとどまらず「歳入・歳出両面」を総合的に捉えて「財政の全体像」を明らかにするものとして、令和9年度予算編成の基本方針の策定を進めるよう指示した。その際、日本成長戦略実行計画と連動する形で「複数年度の財政措置」「政策の質を高める予算編成の考え方」「外部の専門的知見の活用」などを具体化すること、補正予算については災害時や予算編成後の経済・物価情勢の変化などへの対応の考え方を明確にすることを求めた。さらに、財務省と連携して税収見積もりの精度向上に貢献するよう指示した。片山財務相には、内閣府と連携して見積もりの「精度」と「透明性」を高め、その結果を令和9年度予算編成に反映するよう求めた。

2つ目の議題では、有識者議員が資料3で、AIを新たな産業の一分野とみるだけでなく、AIを前提に社会の仕組みを設計し直す必要があると提言した。官民でのAI活用による生産性向上、雇用・人材育成への影響の継続的な把握、AIによる攻撃を前提としたサイバーセキュリティの強化を挙げた。資料3は、日本には最先端の大規模AIモデル(フロンティアモデル)を持つ事業者が存在せず「他国に命運を握られている状況」だとして、半導体やフィジカルAIなどで日本企業が欠かせない存在になるよう、成長戦略で中核部品を特定して強化すべきだとも記した。

首相は、AI戦略を担当する古川俊治内閣府特命担当相に、年末までに「AX(AI・トランスフォーメーション)が実現した行政・産業・暮らしの姿」などの具体像を示し、人工知能基本計画を改定するよう指示した。日本企業へのサイバー攻撃が相次いでいることを踏まえ、国民への「タイムリーな情報発信」も求めた。城内経財相には、AIやロボットの活用など必要な労働力への対応で「分野横断的な推進体制」を人口総合戦略に盛り込むこと、AIの影響を含む中長期的な経済・社会のあり方を検討する体制を整え、来年の骨太方針に反映することを指示した。